第117話 違法売春組織の闇

 樹は今、厳つい男と対峙している。

しかし、その威圧感は樹も負けていない。


「貴様、何者だ……!?」


 男が少し上ずった声を上げた。


「お前とは潜ってきた修羅場の数が違うんだよ。で、オーナーは?」

「私ですよ」


 奥から30代後半と思われるスーツ姿の男が出てきた。


「おっと、そんなに怖い顔をしなくてもよいではありませんか」

「元からこういう顔だよ」


 樹はため息交じりに言った。


「それで、何の御用かな?」

「未成年者を売春している組織について知りたい」

「ほう、それでわざわざ樹さんともあろうお方が出張ってきた訳ですか。ですが、私も知らないものは知らないとしか」


 男が言い終わるか、その前に樹は、その男の胸ぐらを掴んだ。


「嘘をつく時は声の高さと視線に気を付けろ。お前、何を隠している?」


 樹がドスの効いた声で言い放った。


「お、お前……」

「ちょっとは組織について話したくなったか?」

「俺から聞いたってことは言わないか?」

「ああ、素直に話すなら悪いようにはしない」


 樹は掴んでいた胸ぐらを離した。


「ここから買った。買った女は俺たちの言いなりだからな」

「そうか。分かった。次、未成年働かせたらそん時は、覚悟しとけよ」


 渡された紙を懐に仕舞うと店舗を出た。


「どうでした?」

「ああ、ここから買ったらしい」


 そう言って樹は貰った紙を見せた。


「扱いは酷いもんだよ」


 売られた少女たちは、皆、親から暴力を振るわれ、家出少女だったり、スラム街で育った者たちだった。

その日を食つなぐことでも精一杯の彼女たちは、甘い言葉に誘われ、藁にも縋る思いで男に付いて行った。

しかし、そこで彼女たちを待ち受けていたのは、とても明るいとは言えないものであった。

食べ物も住む所も十分なものとは言えず、ほとんどタダ同然で、毎日、朝から夜まで働かされる。

その日々がいつまで続くのかも分からないまま。

苦痛は想像を絶するものであろう。


「酷い扱いですね」


 それを聞いてアリアは顔を歪ませた。


「ああ、やりきれないよな。このままじゃ目覚めが悪い。覚悟してもらおう」

「そうですね」

「何か、食って帰るか?」


 時刻はちょうどお昼過ぎ、お腹も空く時間帯である。


「そうですね。たまにはいいかもしれません」

「おう、じゃあ、行くか」


 樹は冒険者として普通に依頼をこなしている頃から、たまに通っている定食屋へとアリアを

連れてきた。


「俺は日替わり定食にするけど、アリアはどうする?」

「では、私も同じもので」

「はいよ」


 樹は店主のおばちゃんに2人分の注文を済ませると、運ばれてくるのを待った。


「はい、お待たせ」


 二人分の定食が樹とアリアの前に置かれた。


「ありがとう」

「ありがとうございます」


 今日の日替わり定食はトンカツだった。


「「いただきます」」


 二人は食事に舌鼓を打った。

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