第90話 豊作祭

 平和な日々が王都に流れる。

こんな日々がずっと続けば樹たちも随分と楽になることだろう。


「なんか、騒がしいな」


 アリアに向かって言った。


「そうですね。明日から豊作祭が始まりますからね」

「豊作祭? あ、前にアリアが言っていたやつか」

「はい、行ってみます?」

「そうだな。行ってみるか」


 樹はアリアと豊作祭に行く約束をした。


「お、シャルも行くか? 明日の豊作祭」

「樹さまも行かれるんですか?」

「おう、アリアと行く約束したからな」

「是非! 私、お祭りって初めてなんです」

「実は俺もなんだよな」


 樹はニコッと笑った。


「え、そうなんですか!?」


 シャルは驚いた表情をした。


「うん、俺、王都に来てからまだ一年経って無いんだ」

「そうだったんですね。そんな短い期間でここまで成り上がったなんて流石ですね」

「ま、まあな」


 夕食時、セザールとディルク、アルマにも豊作祭に誘ってみた。


「私は屋敷を留守にするわけにはいきませんので」

「セザールさんが行かないのでしたら私も屋敷の管理を……」


 アルマはそう言おうとした。


「行ってきなさい」

「え!?」

「あなたは今まで色々な制限を受けてきたんです。たまには羽を伸ばすのもよいことですよ」


 そう言うとセザールは目を細くして優しく笑った。


「あ、ありがとうございます」

「屋敷は私とディルクで留守番しますから」

「えぇ、俺は留守番なんすか」


 勝手に決められたディルクは文句を言いつつも留守番を了承していた。


「よし、決まりだな。明日はアリアとシャル、アルマと豊作祭だな」


 樹は久々のお出かけに期待しながらベッドに潜り込んだ。


「おはよう……」


 昼前くらいに起きだした。


「おはようございます。夕方くらいから出かけましょうか」

「おう、そうだな」


 樹はアリアと昼食を取るとリビングのソファーに腰を下ろした。


「さて、そろそろ行くか」


 夕焼けが見え始めた頃、樹はアリアたちを連れて屋敷を出た。


「おお、いつも以上に賑わっているな」

「本当ですね」


 樹たちは王都の中央広場にやって来ていた。


「ああ、樹さんじゃないすか」

「おう、久々だな。元気にしてたか」


 顔なじみの冒険者二人に声を掛けられた。


「俺は元気だよ。にしても天下の綾瀬樹も祭りには来るんだな」

「まあ、嫌いじゃないからな」

「にしても、かわいい子たちばっかで羨ましいっすね」

「手出したら殺すぞ」

「ま、まさか樹の旦那の女に手を出す訳ないじゃないですか」

「ならいいがな。じゃあ、またな」


 樹は話を終えると露店の方に向かった。


「なんか食いたい物とかあるか?」

「私、あれが食べてみたいです」


 シャルが指さした。


「お、かき氷か。暑いからちょうどいいな」


 そのかき氷はガムシロのようなシロップがかかったいるだけのシンプルなものだったた。


「親父、四つくれ」

「あいよ」


 樹は代金を支払い、皆に渡した。



「毎度あり」

「かき氷なんて久々だなあ」

「私、初めてです」

「私も」


 シャルとアルマはかき氷初体験の様子だった。


「かき氷って何か祭りって感じがするよな」

「なんかわかります」


 アリアは微笑んだ。


「さて、思いっ切り楽しむぞー!」


 樹たちは祭りの人ごみに消えていくのである。

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