第36話 シャルの稽古①

 翌日、樹は昼過ぎに起きだした。


「おはよう」

「あ、お目覚めですか。もう少し、規則正しい生活心掛けた方がいいと思いますよ」


 アリアは樹の生活習慣をいつも気にかけてくれる。


「アリアはいつも早起きだよな」

「私はメイドの仕事もありますから」

「無理しないで、休める時に休んでくれよ」

「はい、ありがとうございます」


 樹は昼食を取るとシャルを呼んだ。


「シャルは今まで戦闘経験はあるのか?」

「そうですね、弓術は少しやったことはありますが、それ以外はほとんどありません」

「弓術か。それは特殊技能だから俺よりアリアの方がいいかもしれないな」


 アリアは射撃を得意としているので確か、弓術にも長けていたはずだ。

後でアリアに聞いてみよう。


「弓術が出来るってことは目は良いよな?」

「はい、樹さんに回復してもらったので前よりクリアに見えるくらいです」

「シャルは素早さもかなりなものだから短剣の二刀流とかも合うかもしれないな」


 樹は以前、シャルのステータスを見ていたので、シャルの適性はなんとなく分かっていた。


「短剣なら確かいいものがあったな」


 樹はストレージから二刀の短剣を取り出した。


「これは普通の短剣なんだが、俺がちょいと改造していてな。色々な魔法が付与してある。主には身体能力を向上させる魔法だ。使ってみてくれ」

「そんな高価なもの、よろしいんですか?」

「ああ、俺は短剣はあまり得意じゃ無くてな、これからも使わないだろうからあげるよ」

「ありがとうございます!」


 シャルは短剣を受け取ると嬉しそうにマジマジと眺めていた。


「さあ、それで、俺に全力でかかってこい」


 樹は模造刀を構えた。


「え、でも、樹さんは模造刀ですよね? いいんですか?」

「気にするな。全力で来い!」

「分かりました。行きます!」


 シャルは一気に間合いを詰めて短剣を振るった。

それを模造刀で受け流しながら、一歩引いた。


「ほう、なかなかいい軌道じゃないか。でも」


 樹は模造刀を横に振るった。

それに気づくとシャルは大きく跳躍した。


「今のを避けるとはやるが、行動が大きすぎだ」


 次の瞬間、樹の剣先がシャルの脇腹をとらえた。


「はあ、参りました。強すぎです」

「いや、シャルもなかなかやるじゃないか。もう少し実践的な訓練をしたらまた近いうちに一緒に元エルフの里へ行こう」

「本当ですか!?」

「ああ、予想以上だったよ」

「ありがとうございます」


 屋敷の管理の人手不足のためにシャルを買ったのだが、これでは本末転倒な気がする。

まあ、そこはセザールに頑張ってもらうとしよう。


「じゃあ、今日はこの辺にしようか」

「はい、ありがとうございました」


 そう言うとシャルは頭を下げた。


「弓術の方はアリアに頼んでみるよ」


 樹は屋敷に入るとアリアに声をかけた。


「アリア、ちょっといいか?」

「はい、どうされました」

「弓術って教えられるか? シャルは多分、弓術が一番向いている気がするんだが、俺は弓術は得意じゃ無くてな」

「できますよ。射撃と似たようなもんですから」

「じゃあ、時間がある時に教えてやってくれ」

「かしこまりました」


 そう言うとアリアはメイドの仕事に戻って行った。

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