第37話 シャルの稽古②

 その翌日、樹はアリアに起こされた。


「そろそろ起きて下さい。もう、いい時間ですよ」

「うん、おはよう」

「はい、おはようございます」


 樹はベットから起きると黒シャツへ袖を通した。


「今日、シャルさんの稽古をしよううと思うのですが、樹さまは弓はお持ちでないですよね?」

「ん? あるよ。これでいい?」


 樹はストレージから弓と何本か矢を取り出した。


「樹さまのストレージには何でも入っているんですね」


 アリアは感心していた。


「まあ、武器は一通り集めたからな。結局、使わない物ばかりだったけど」

「そうなんですね。ありがとうございます」

「あ、それ、シャルにあげちゃって構わないから」

「はい、かしこまりました」


 そう言うとアリアは中庭に向かうようだった。

樹は二階のテラスからシャルの稽古の様子を眺めていた。


「いいですか、まずはこの的を狙って打ちます」


 そう言ってアリアは少し離れた位置に的を立てた。


「まず、私が手本を見せますね」


 アリアは綺麗に弓を引くと矢を放った。

すると、的の中心に矢が刺さった。


「まあ、こんな感じです」


 アリアは的に刺さった矢を抜きながら言った。


「す、すごいです!」


 シャルは目を輝かせていた。


「いいですか、弓は大きく引いて大きく離します。それと、矢は常に肩線と並行で床面に対して水平にします。これを意識して引いてみて下さい」


 アリアのアドバイスを受けるとシャルが弓を引いた。

放った矢は的の中心からは少し外れたが、それでも当てるだけで大したものだ。


「やった、当たりました」

「すごいですよ。最初から当てるなんて。しかし、実践ではこれを素早くやる必要があります。もっと練習しましょう」

「はい、私、頑張ります!」


 シャルは張り切っていた。


「シャルさん、頑張っているようですね」


 いつの間にか隣にいたセザールが話しかけてきた。


「ああ、屋敷の管理の人手不足解消のために来てもらったのに、目的とずれちゃってすまんな」

「いえ、旦那様とアリアの技術を直々に教えてもらっているのです。シャルさん、きっと光りますよ」

「セザールもそう思うか?」

「はい、最初から旦那様方の稽古についていけるなんて大したものですよ。屋敷のことは私が何とかしますから」

「頼りにしてるぜ」

「お任せを」


 そう言うとセザールは仕事に戻って行った。


「アリア、シャルはどうだ?」


 稽古を終えたアリアに尋ねた。


「はい、なかなかいい線行ってると思います。後はもう少し実践的な事を入れていけば、前線でも戦えるかと」

「だよな。明日辺りにでも簡単な魔獣討伐の依頼を受けに行こうか」

「それもありだと思います」

「その前にシャルを冒険者登録させなきゃいけないか」

「ええ、依頼を受けるならその必要がありますね。しかし、奴隷は冒険者登録できないのでは?」

「その辺は陛下に頼めばな」


 樹はニヤッと笑みを浮かべた。


「職権乱用しないでくださいよ」

「まあまあ、固いこと言うなよ。飯の時にでもシャルの意思を聞いてみよう」

「そうですね」


 こうして、夕食の時間まで二人はそれぞれのやることをやり始めた。

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