第2話日常の終わり(2)

 世界を一変する大事件が始まろうとしているころ、学校へ向かうため坂道を登る直弥なおやの背中に強烈な刺激が走り威勢のいい声がかけられた。


「よっ!!おはようさん!」


「……おはよう、あきら、背中めっちゃ痛いんだが……」


「わるいわるい」


 俺が睨むと笑いながら左手で謝る仕草をした。


 こいつは二階堂にかいどうあきら、中学校に入学してからの付き合いで親の転勤で福岡から東京にくることになり右も左もわからない東京の中学校で初めて俺に話しかけてきてくれた俺の親友だ。


「昨日はありがとうなあきら、おかげで助かったよ。」


「いいってことよ、お前にもいろいろ手伝って貰ってるんだからお互い様だっての。」


 そう言ってニカッと笑ったあと、あきらは顎に手をあて首を傾げた。


「そう言えば親父さんたちから電話がかかってきたって昨日聞いたけど、元気にしてたか?」


「ああ、それはもうすこぶる元気だったよ。」


「そりゃ~よかった。ただ大事な息子を一人東京において鹿児島に遠行えんこうか~


お前の親御さん方もずいぶんとワイルドだよな~」


「ワイルド?なんかな~?」


 ワイルドという言葉が親父たちに当てはまるのかははなはだ疑問ではあるが、あきらの言葉通り両親は今俺を一人東京に置き去りにして鹿児島にいる。


 なんでも「お前とあきらくんを引き離すのはとても心が痛いからお前はここに残りなさい。」というもの。


まあ要約すると(お前の世話がめんどいからここで一人で暮らせ)というものであった。


ワイルドというか放任主義というべきなのかな。


 俺が両親のことを考えて小さくため息を吐くとそれに気づいたのかあきらが話題を変えてきた。


さっきまでの両親の話とは打って変わってアオゲーについての話だ。


「それよりも昨日はあの子の衣類の素材集めに付き合ったけど、メインの方はいいわけ?」


「メインは急いでやらなければいけないことはほとんどないし今はサブで作業中、


トワちゃんの衣服制作スキルでレジェンダリーを引き当てるまではメインはおやすみしているんだ。」


 自分の目の前を歩くあきらがふ〜んと頭の後ろで手を組みながら


手を解くことなくこっちを向いてきた。


「にしてもお前テイムした子達の世話はいつやってるんだ?


ここ最近もサブでしか遊んでなかったよな?」


そうだね〜と軽く相槌をかわしなが話を続ける。


「一緒にやる時は基本的にサブアカでやって、それ以外の時間はメインでやっているよ。」


と今の状況を軽く説明すると、はあ〜、とあきらが肩を使ってあからさまにため息を漏らした。


「お前アオゲーにどんだけ時間使ってんだよ…俺ら来年には大学受験が控えてるんだぜ?しっかり勉強してんのか?」


そう呆れた顔で諭してくるあきらの顔は俺のお袋のようだった。


「未来のことは未来の自分が何とかしてくれるさ、だからさ今を楽しまないと損だろ?」


 どこか遠い目をしながらそう告げると、またあきらは静かにため息を吐いた。


 しばらくしてあきらは「お前がいいならいいか。」と、半ば諦め、話題を変えた。


「それにしてもよくアオゲーでテイマー何てめんどくさい職業をメイン職でやれるよな。しかもテイム後もしっかりアフターケアしないと反乱されてプレイヤーが死ぬこともあるって言うのにさ。」


 あきらの言うことは最もだ、と言うのもアオゲーには多種多様な職業があり、プレイスタイルにもよるものがあり強さの優劣ははっきり言って決められないのだがアオゲー内のプレイヤーにもっとも選んではいけない職業は?と聞けば皆口を揃えてテイマーという。


 とあるアオゲー攻略サイトのアンケートでも約5万人が回答した不遇職ランキングでは二位に圧倒的なまでの差をつけて堂々の1位を記録。


 なぜここまで不遇職扱いされているのかと言うと、それはテイマーという職業の仕様によるものだ。


 アオゲーのゲーム仕様状アオゲーに存在する全てのモンスターからボスや契約出来ればNPC、NPCと言えば一国の王様も仲間にできる。


ここまで聞けば一国の王様やボスまで手懐けられるのだから最強職なのではないかと考えるだろう。


 ただ、そのテイム方法や契約がすこぶるめんどくさい。


テイム方法は限られていて、3つある。


 1つ目はテイムしたいモンスターやボスのソロ討伐だ。


(またテイマーにおいてはテイムしたモンスターと一緒に討伐してもソロ討伐とみなされる。)


 普通の戦闘職であればソロ討伐は簡単なのだが、


テイマーはアオゲー内においてのステータスHP体力MP魔力STRVIT生命力DEF防御力INT知力AGL俊敏性LUK幸運値の八つの内、幸運値と呼ばれるステータスが必要になってくる。


 幸運値とはゲーム内で存在するカジノ場での当たりやすさや一撃全損ダメージを受けてもHP1耐えることができたり、アイテムのドロップ率が上がったりして何かと重宝されているのだがテイムにおいてはLUK値がテイムするモンスターのステータスの内どれか6つを超えて無ければならず、テイムする上での絶対条件である。


 これによりテイマーは一定値の幸運値が確実に必要で、たとえソロ討伐できたとしてもLUKが無ければまずテイムできない。


 アオゲー内でのStatus Up Point頭文字を取りSUPと呼ばれるポイントがあり、それを使ってHPとMP以外の各ステータスを自分で上げられるのだが、


1〜40レベルまでは1レベル上がる事に貰えるポイントが100ポイント、


41〜60までが50ポイント、


61〜80までが30ポイント、


81〜100までが10ポイント、


100〜120までが5ポイントとレベルを上げるごとに中間点があり、そこを超えると貰えるポイントが減っていく。


 MAXLvまで上げて貰えるポイントは、初期100ポイント含め合計6000ポイントしかもらえず、そのポイントを上手く割り振って使わなければならない。


 アイテム等を使いステータスをさらに底上げする事もできるが、基本的に課金アイテムである。


 よって、基本的にはこの限られたポイントでLUKを上げつつ他ステータスを上げなければならないがまず無理だ。


 基本的にモンスターはプレイヤーよりも強く設定されていて雑魚敵でもどれか3つはステータスが100を超えていて他ステータスを上げるとなればLUK値が足りずテイムできない。


よってLUK値に多くポイントを振らなければならない。


 ただそんなことをすればソロ討伐なんて無理だ。


 じゃあどうするのか?


 一応の救済措置として罠製作スキルというものがある。


 これは全プレイヤーが習得可能であり、罠を作り設置、それで倒すことが出来れば罠を作った人が倒せたことになる。


 ただこの罠正直言って全くと言いていいほど使えない。


罠を作るのにも一個五分から十分かかり、例え罠にはめられても一瞬で無力化されるため100個以上使ってようやく倒すことができる。


 一応タゲが別プレイヤーに向いていても、1度もモンスターにダメージが入ってない状態で罠にはめ続け倒すことができれば、協力プレイにも関わらずソロ討伐したことになる。


 ただ、まあこれがとても難しく罠まで誘導するもかわされたり基本的にモンスターは弱いプレイヤーを狙う習性があるためタンクなのでない限りテイマーが狙われることがとても多い。そのせいでよくテイム失敗で殺されることが多々あるのだ。


 そしてこの激ムズ難易度を乗り越えてテイム条件を満たせば今度はテイムできるかの運ゲーがはじめる。


 圧倒的なまでに幸運値が高ければ100%なのだが、


始めたての初期であればレベル1のこのゲーム最弱のスライムに対して幸運値に全振りしても確率は50%である。


 よって罠を駆使した介護プレイと多大な時間そして運を注ぎ込みようやくテイムできるのだ。


 じゃあ2つ目は何かと問われればそれは卵の刷り込みテイムだ。


代表的なもので言えばドラゴンなどの卵を奪い取り逃げる。


そして孵化させて刷り込みを行う。


 これのいいところは自身のステータスを気にしなくていいことにある。


刷り込みテイムなので確率を一切気にせずに強いモンスターをテイムすることができる。


ただそれ以上にデメリットがすごすぎてあまりおすすめはできないのだが…


 刷り込みテイムに関しては本当に説明するにも長く誰も実践しようとするものがいないので説明は割愛しようと思う。


 最後に3つ目は1番可能性があり楽ではある方法なのだが、


NPCのテイムもとい契約だ。


 NPCはモンスターのようなテイムという手段はとれないのだが、契約という形で戦闘時だけ自身の配下としてその場に召喚し一緒に戦うことができる。


 契約は単純でNPCの同意さえあれば可能なのだが、その同意を貰うにも好感度等を上げないといけないのでこれまた大変なのである。


 好感度を上げるにも様々なクエストをクリアしたりとても多く仲間にしたいNPCと会話しないといけないため時間がかかる。


 この3つが大まかなテイム方法なのだが全てにおいて時間がかかりめんどくさい。


  それにあきらも言った通りテイム後もテイムしたモンスターたちを構って上げなければ、次の召喚時に言うことを聞かずプレイヤーが殺される反乱システムと言うのも導入されておりこれまためんどくさい。


 また最大の欠点が二つあり、一つ目はテイマーはレベルがとても上がりずらい。


 通常のゲームでのテイマーであれば、テイムしたモンスターが敵を倒した時経験値分配でプレイヤーに半分以上の経験値と残り半分以下を討伐したテイムモンスターが受け取るという分配システムなのだが、


 アオゲー内ではプレイヤー1割テイムモンスター9割と倒した子がほぼ総取りしてしまうので、レベル上げには酷く手間がかかる。


 二つ目がテイムしたモンスターがテイムする前よりもステータスが半減以下になってしまうというものだ。テイムしたとしてもステータスが半減以下になってしまい同じレベルでも野生とは強さが全然違うのである。


 だから苦労してテイムできてもとても弱くそれを使いこなすにはすごいテクニックがいる。


 よってテイマーはコレクター向けだったりハードモードをさらに鬼畜にして遊びたい人向けとなっている。


 そしてさらに追い打ちとして、アオゲー内ではメイン職とサブ職の2つを設定することができるのだが、サブ職にテイマーでもテイムは可能でありメイン職をアタッカー職にすればソロ討伐などは余裕であり万一反乱されても対処も可能でレベルを上げることも可能なので基本的にはサブ職推奨職業でありサブ職であれば人気ランキング1位である。


 よって、ここまで苦労するのにメイン職にする理由もなく、不遇職扱いされているのである。


「それもそうなんだがな、テイマーは頑張れば最強職になるんだぞ。お前にも見せただろう?最強コンボ。」


と自慢げに話をすると、あきらは苦い顔をした。


 苦い顔をしながら、あれは反則だっての...と小声で呟いていたのを聞こえた。


数秒してあきらはまた屈託ないにこやかな顔に戻った。


「そう言えばさ、昨日のボクシングの試合見たか?」


突然始まった雑談に対していいやと答えた。


こいつ急に会話を変える癖があるんだよな……


「見てないのかよ、最高だったぞ!」


と興奮した様子で昨日行われた試合の話で盛り上がっている。


 そんな雑談を話しながら学校へと歩みを進めた。


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