歓迎
「私のレッスンへようこそ。今回は座学だけじゃなくて実習もあるのよ? ふふふ、楽しんでね」
笑顔の金髪美少女に、一条さんがふっと体の力を抜いて鞄から手を出した。俺もポケットから手を抜く。早速会ったな危険人物。
「あの、トカゲ返してくれませんか」
「あら、カズオミ。入学試験には合格できたの?」
「うっ」
思わず1歩よろけた。第一志望の合格発表は3月6日。高校の卒業式の前日というふざけた日程である。せっかく考えないようにしていたのに一気に不安が押し寄せてきた。どうしよう。
「.......和臣、堂々としていなさい。あなたが信じなくてどうするのよ」
「う、うん.......」
「少し難しい滑り止めも受かったのだから大丈夫よ」
「あ、そうだった」
そう言えば滑り止め受かってたんだった。受験期間は追い詰められすぎて勉強以外の記憶が曖昧になっている。姉が優しかった理由はこれか。てっきり勉強のしすぎでおかしくなったと憐れまれてるのかと。
「し、七条和臣、あんた頭良かったの!?」
「良くはないかな」
「.......試験なんて、タイミングと勢いによる部分が大きいわ」
そこはフォローしてくれないんだ葉月さん。
「あら、カズオミは合格できたの?」
「ええ、まあ.......第一志望じゃないけど.......」
「おめでとう。良い学び舎になるといいわね」
にっこり笑いながら、金髪美少女はコートの中から金細工の眩しいランプを取り出した。赤くメラメラと燃える火が灯ったそれは。
「トカゲ!.......って、こんなあっさり!? 」
「ふふふ、約束だもの。カズオミが合格したら返してあげるって」
ランプを受け取って抱きしめた。ベッタリと側面に張り付いて尻尾をふっているトカゲに涙が止まらない。ごめんな、二度と離さないからな。というか俺のこと覚えていてくれて良かったよ。
「感動の再開ね。ふふふ、それが済んだらレッスンに行きましょう?」
「いやだ。俺はもう帰る」
「あらあら、勉強は強制するものでは無いものね。わかったわ、じゃあねカズオミ」
金髪美少女は何事も無かったかのように歩き出した。ドイツまで呼んどいてあっさりしすぎでは無いだろうか。
「.....................................待て」
「ふふふ、何かしら? 日本の一条」
「...........................................もう、1人は」
「ふふふ」
「...........................................どうした」
金髪美少女は、きゅっと目を細めて唇を引き上げた。大きい方の金髪さんには、酒呑童子のときとてもお世話になったので俺も会ってお礼が言いたい。一応漫画の新刊も買ってきた。完全にあのお姉さんの働きには見合っていないが、あの人の好きそうな物がこれしか分からなかった。メイドはあげられないからな。
「彼女なら、実習に行ったら会えるわよ」
「...........................................私が、行く」
「あら、ダメよ。カズオミのためのレッスンだもの」
一条さんはじっと動かなくなった。これは実習とやらに行かなくてはいけないかな、と思った時。
「...............................旅行」
一条さんは、鞄に手を入れ何かを取り出そうと。
「いやいや! 一緒に行きましょう一条さん! こ、ここ空港の前ですし! 荒事はちょっと.......」
慌てて一条さんの腕を止めた。この大きな鞄、ちょうど刀が入りそうな大きさだ。まさかとは思うが入ってるんじゃないだろうか。どうやってあんな刃渡りの刃物を飛行機に持ち込んだんだ。
「...............................Ladies first」
ちらりと一条さんが目線をやった葉月とゆかりんは、涙目でぶんぶん首を縦にふっていた。ゆかりんは大声で「とっても行きたいです!」と叫んだ。それでいいのか大食いアイドル女優。
「ふふふ。みんな意欲的で嬉しいわ」
にっこり笑った金髪美少女は。
「じゃあ、さっそく実習に行きましょう。きっと彼女も困っているから」
「え? あの金髪さん困ってるのか?」
1人にしちゃダメだってあの人。色々心配になってきたな。また本屋で泣いてるんじゃないだろうか。
「ふふふ。だって、一条に取られてしまったんだもの」
「?」
金髪美少女は、その薔薇色の唇をゆっくり開けて。ゆっくり、1音1音を、艶めかしく口付けするように。
“
「!?」
ばっと一条さんの顔を見る。一条さんはただじっと金髪美少女の顔を見つめるだけ。
「聖剣のない彼女じゃ.......アレは倒せないわ。ふふふ、それでも立ち向かうのだけれど。やっぱり教会はお固いわねぇ」
「金髪さん.......大丈夫なのか?」
何がなんだか分からないが、もしかして金髪がピンチなのだろうか。なら助けになりたい。
「カズオミ」
急に俺に1歩近づいてきた金髪美少女からトカゲを遠ざける。また取られてはたまったものじゃないので、ズボンのベルトにランプの取手を通して腰に下げた。揺れるけど我慢してくれ。盗難防止だ。
「覚えおいて。“ペンドラゴン”は、名前じゃ無いわ」
「?」
「ふふふ。やっと彼女の
何が、と聞き返す前に。
ぞくり、と背筋が凍った。
一気に空を見上げた。鉛のような異国の曇り空。そこには。
「は.......」
何か、禍々しい物が。
「ねぇ? 日本のブラック達」
長く太い首に、太く強靭な手足。羽ばたくことを止めた翼によって、その絶対的な質量が滑走路に向かって落ちてくる。段々と近づくその姿は。
「始めてかしら」
鋭い牙も、爪も。人とは違う瞳孔をもつ、大きく鋭い瞳も。龍とは違う形の体を覆う無数の鋭い鱗も。
「ドラゴンを見るのは」
“悪” と、“混沌” の象徴だった。
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