処分

「うっ、うっ.......! なんで、こんなことに.......!」


 1人、家の離で。


「うう.......!」


 大量の始末書に埋もれていた。


「多い.......!多すぎる.......!」


 テンションが下がりっぱなしなので、スペシャルに今回俺がしでかしたことリストを紹介するぜ!


 まず東京タワーボヤ騒ぎ! これがまずい! 一般人に気がついた人も被害もなかったが、規模が規模だけにめちゃくちゃ怒られたぜ! ちなみにこいつのせいで謹慎処分だ! せんきゅーオーディエンス!!


 お次はサラマンダー監督不足! 1個目に繋がるミスだな! これもめちゃくちゃ怒られたぜ! だけど、まあ檻に問題があったこととサラマンダーが俺に懐いていることでちょっと許してもらえたぜ!でも謹慎処分だ!


 さあ次はミサキの件だ! 自分はぶっ倒れて隊員に怪我人を出したこと! 大して怒られなかったけどこれが1番精神的に来てるぜ! 自主的に報告書と再発防止策を提出だ! せんきゅー!


 まだまだいくぜ! 外国人能力者の発砲を防げなかった事だ!! これはまああんまり俺に責任はないと分かってくれたけど、その場にいた隊長として始末書は書いたぜ! いえーい!


 さあてまだあるのかー? 四条隊長呼んどいて指示も出さず放置した事だ! 察してくれてありがとうございます四条隊長! 俺のこと嫌いそうな隊長上位ランカーなのにありがとう! 普通に注意されたぜ!


 次がラストだせんきゅー! その他もろもろ数え切れない判断ミスだ!! これがまた大変なんだぜ! 俺の通学鞄に収まらないほどの書類を書くことになったんだ! 困ったもんだぜ子猫ちゃん!!


「.......キツい.......」


 楽しげに紹介しても全くテンションは上がらなかった。

 今日で謹慎処分は解けるはずが、全く書類が終わらない。このままでは俺は一生離で暮らすことになる。


「ひぃ.......」


 そして、始末書の海でクロールでもしようかと思った時。


「和臣!!」

「隊長!!」


 ばんっと、離の扉が開いた。というか蹴破られた。


「.......はい」


 蚊の鳴くような声とは、これの事か。情けない、久しぶりに彼女と仕事仲間に会っての第一声として違う気がする。


「隊長ぉ.......! 1週間も謹慎処分なんて.......!どうして.......! 私はなにも、何も処分がなかったんです.......!」


「いや.......そりゃ花田さん悪いことしてないし.......」


「七条和臣!! ほら、ケーキ買ってきたから! だから泣きやみなさいよ.......!」


「いや.......もう引っ込んだ.......」


「和臣隊長、大福も買ってきました。全部食べていいですよ」


「いや.......みんなで食べましょうよ.......」


「和臣」


「ん? なに?」


 なぜか涙目の全員に座布団を勧める。お茶はペットボトルしかない。


「会いたかった.......!」


 抱きついてきた葉月の頭を撫でる。1週間携帯も触っていないので、本当に久しぶりに話す。というかこの1週間父としか会っていない。何度泣いたか。


「俺も会いたかったよ。すいません皆さん、ご迷惑を」


 ケーキと大福を置くために、始末書をザーッと机の下に落とす。花田さんが悲鳴を上げて拾い始めた。大丈夫ですまだまだあるんで。


「.......もう戻ってくるんでしょ」


「うん。みんながいいって言ってくれるなら」


「お待ちしておりました、隊長」


 花田さんと中田さんがざっと頭を下げた。葉月とゆかりんもあとに続く。


「.......待たせてすまなかった。七条和臣特別隊隊長、本日付で復帰する」


 いきなり首を締められた。訂正、抱きつかれた。キツいです葉月さん。


「い、いやぁ、復帰って言ってもこの始末書終わんないとどうしようもないんですけどね! あはは!」


 誰も笑わない。

 やはり。


「.......大阪しかないか」


「どういうことよ.......」


 葉月の口に大福を入れて、花田さんから始末書の束を受け取る。


「皆さん元気でしたか? なんか変わったことはありますか?」


 それから、他愛もない話をして。


「和臣、あなたどうするの?」


「え? 何が? 今後の身の振り方? 考えるよそりゃ」


 そうやって怒られたからね。考えろ、という言葉がゲシュタルト崩壊だ。


「もっと直近の問題よ。明日の模試」


「え」


「あんた達受験生だもんね。はい、あーん」


 パクッと葉月がゆかりんからケーキを食べた。今のあーんだけで1週間全部救われた。ありがとうございます。

 だけど目の前の問題が片付かない。


「も、模試.......?」


「そうよ。明日は祝日でしょ?」


「和臣隊長、大福の粉こぼれてますよ。私が拭いて差し上げます!」


 中田さんに手を拭かれながら現実を見ないようにする。まて、明日ということは。


「.......この、始末書今日中.......?」


「隊長! 私がお手伝いします! 始末書なら慣れていますから!」


 どういうことですか花田さん。

 それから、夜になってみんなが帰るなり泊まるなりすることになって。


「終わらなああああああい!!」


 葉月が俺の左手を弄りながら隣りで寝た後も、延々と始末書を書いていた。花田さんに整理してもらったのにどうしてこんなに終わらないんだ。


「時よ止まれーーーーー!!!」




 時よ止まれ、いや、止まらなくても構わない。だから、もう少しゆっくり進んでくれ。1晩で始末書と勉強が終わるくらいにゆっくりと。


 この瞬間お前はあまりに、美しいのだから!

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