悪性橋
蓮鬼
第1話
出会い頭、
彼は私達と大きくかけ離れている。とはいっても、互いに人間から離れているから、何とも言い難いところはある。
まずその身体。左右でちっとも均衡が取れていない。右半身は人間だ。けれども、このご時世に木製の義手を肩口に嵌め、顔面に緻密なレースの焼印を刻んでいることからも、彼が何者であるか推し量れない。加えて右目には包帯と眼帯があしらわれている。
それに比例してか、左半身は奇怪な様相を帯びている。左腕もやはり彼が本来持ち得ていたものではなく、義手であった。そちらは黒く硬質な素材のようだが、乱暴にこじ開けられた十字の傷が模様のように散りばめられている。もちろんそれには意味があって、傷の間から、色とりどりの植物が咲き乱れている。しかしそれは全て違法薬物のために使われるものであって、剣呑な装いであることは疑いようもない。麻薬栽培に使役される左腕は、腕というより古めかしい枝の一端だ。さらにいえば左半分は皮膚が焼け爛れており、戦火に焼かれた焦土を思わせる。左足は未だ健在していたが、煙硝の匂いがする。それは義足に挿げ替えられた右足にも言えることで、戦争の犠牲者なのかもしれないが、やはり計り知れない。
彼は左足以外の四肢を失っている。目に余るのは、その傷の量と負傷具合。もしかすると脳の方も何かしら侵されている可能性もないとはいえなかった。
木の義手で器用に煙草を挟みながら、紫煙を吐く。片一方だけの、獣じみた瞳で「何だ」と
酒屋と空き家の境にある狭苦しい喫煙所で、煙草の先端だけが一際強く光る。こちらを睨んだ眼光は、仄明るい影に阻まれて窺い知れない。
「休憩ですか?」
「ああ」
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