【11話】発見
幸い、エンギは意外とすぐに目を覚ました。
エンギは、体を起こすと何か体の変化を感じ取っているのか、不思議そうに自分の体を動かして調子を確かめている。
進化はしても左腕と額の傷は治らないんだな。
俺はエンギの様子を見ながら、顔と、左肩に視線を向ける。
そこには、以前と変わらず、額に傷をこしらえた左腕のないエンギの姿があった。
その代わり、進化した際に治ったのか、左腕の傷は完全に塞がり傷口も見えなくなっているみたいだ。
「さてエンギ、一応説明しておくと、お前はさっきゴブリン達を倒した事で、ハイゴブリンに進化したみたいだ。 多分、お前が今感じている体の違和感の原因はそれだと思う」
「グギャッ?」
エンギは、俺が言っている言葉の意味がよく分からなかったのか、首を傾げる。
「まあ、要は強くなったって事だと思うぞ」
「ゴブ」
すると、エンギも納得したのか、もっと分かりやすく言えよなと茶化すように俺を小突いてくる。
ただ、まだ進化後の体に慣れていないせいか、我慢はしているが地味に……いや、派手に痛い。
それにしても、モンスターが進化をすると分かったのは嬉しい誤算だ。
レベル上限が決まっていたし、Dポイントで上位種と交換出来るから、進化はしないものかと思っていたけど、そうじゃ無いって事だもんな。
そうなると、森に残ってエンギが進化を繰り返すのも悪く無いように思える。
ただ、よくよく考えて見れば、エンギがモンスターを倒せば倒すほど、ダンジョンコアにはDポイントが貯まる事になる。
つまり、優男達がそのポイントを使ってモンスターを生み出すにしろ、アイテムに交換するにしろ、優男達に力を与える様なものだ。
流石に、モンスターへの命令権はダンジョンマスターにしか無いから、モンスターの軍勢を揃えられる事は無いはずだが、生み出したモンスターを倒して経験値や素材にする事くらいは出来る。
それに、あの時は何でエンギも見逃してくれるのかと疑問に思っていたが、もしかしたら優男は、Dポイントを稼ぐ事を見込んでエンギを逃した可能性まである。
となると、やっぱり街へ行ってエンギを強くする以外の方法も模索するべきだろうな。
「取り敢えず、体の調子を確かめるのは追々やるとして、まずはさっき見つけた道の方に行ってみようぜ」
「ゴブゴブ」
久しぶりに少し機嫌の良さそうなエンギと共に2人で道の方に歩いて行く。
問題は、道があるって事は人がいる可能性があるって事だよな。
もし、エンギの姿を見られたら1発アウトだし、俺も腰蓑をしているとはいえ蛮族スタイルだ。あまり良い展開になる気がしない。
気を付けて行かないとな。
「エンギ、人がいるかもしれないから見つからないように気を付けて……」
俺はあまりの事に口を開いたまま固まった。
気付くと、いつの間に現れたのか男が目の前に立っていた。
その男は、髭をもじゃもじゃと乱雑に生やしている上に、髪も顔を覆うほどに無節操に生え散らかしているせいで目も耳も口も見えないため、毛のモンスターなんじゃ無いかと勘違いしそうになる見た目だ。
かろうじて、頭に乗った帽子と服だけが人間だと言う事を思い出させてくれる。
「何をしておる」
もじゃもじゃ男は、エンギの事が気にならないのか、俺に向かってそれだけ言うと口を噤む。
ヤバイ……。
いろんな意味でやばいぞ、この男。
ここからでも分かるほどこいつのオーラ……というか、体臭がキツ過ぎる。
なんだか、臭いが目に見えるんじゃないかってほど匂って来やがる。
生物兵器の類かと疑うレベルだ。
一体どうなってんだ。
エンギも臭いがキツいのか、さっきから顔をしかめっぱなしだ。
「あー、俺達はあれだよあれ。 旅の者だよ。 実はコイツとはついさっきそこで意気投合してな……はははっ」
我ながらバレバレの嘘だと思うが、どっちにしろ言い訳なんて事ここに及んだら意味が無いだろ。
それでもと、髪の毛のせいでエンギの事がよく見えていない事を祈りながら、嫌そうな顔をするエンギと肩を組んでみる。
もじゃもじゃ男からの返事を待つが中々返って来ない。
……なんだこの空気。
もじゃもじゃ男が話し出さないせいで、俺たちもどう対応して良いのか、判断に困るんだが。
バレたのか?
それとも何とかなったのか?
すると、ようやく口を開き、
「…………なるほどの、仲良しさんじゃったか」
それだけ言うと、もじゃもじゃ男は森の中へテクテクと歩いて行ってしまった。
一体何だったんだ、あのもじゃもじゃ……。
おっさんっぽい声なのにお爺ちゃんみたいな喋り方してたぞ。
それも、微妙によく分からない納得の仕方をしてどっかに行ったんだが、どう言う事だ?
謎が謎を呼び過ぎて謎がパーティーを開いてるんじゃないかってくらい意味不明だ。
エンギも驚いているのか、呆然ともじゃもじゃ男が消え去った方向を見つめている。
若干、この世界について知るのが怖くなって来たが、かといって今更怖気付いてもいられないしな。
「エンギ、気を取り直して道を見に行くぞ。 無いとは思いたいが、もしかしたら、またあんな奴に出会すかもしれないから、今度は人に会わないよう気を付けて行こうぜ」
「ゴブゴブ」
周りを警戒しながら、木々をかき分けかき分け道の見えた場所に近付くが、数メートルほど手前で止まる。
「どうやらビンゴみたいだな」
道を見てみると、地面に複数の轍が残されていた。
道に馬車か何かが通った跡があるって事は、最近でも使われている証拠だ。古い跡なら雨で消えて無くなるだろうからな。
つまり、この道に沿って行けば人が住んでいる場所に辿り着けるはずだ。
それも、複数の跡があるって事は、それだけ活発に物流が行われていると言う事。
ひいては、人が多く存在している可能性が高いって事だ。
「よし、この道に沿って森の中を進んで行くぞ」
「ゴブ」
出来るだけ人が通ってもバレないように、かろうじて道が見えるくらいの距離を歩いていく、
すると、突然パッタリと木々が無くなり、遥か彼方に高校の時に習ったような城郭都市、とでも言うのだろうか、石の壁に囲まれた街らしきものが鎮座しているのが見えた。
俺の隣にいるエンギは、どこか不機嫌そうにその街を睨み付けていた。
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