【10話】初めての進化

 早めに寝た分、エンギも日の出には目を覚ました。

 そのため、日が登ると共に再び俺たちは出発することにした。


 エンギの調子も昨日よりは良くなったのか、歩くペースも早くなっている。

 ここまで来れば、流石に優男たちに襲われることも無いと思うが、これからどうするか、それが問題だ。


 俺としては、出来れば人が住む場所に行きたい。

 優男たちがいたため、この世界にも意思の疎通が出来る人間が存在している事は分かっている。


 エンギと一緒に生きていくだけなら、人と関わらずに森の中で生きて行くのも悪くは無かったが、俺たちは亡くなった仲間達のためにもダンジョンを取り戻すため、強くならないといけない。


 だから、出来れば街に行って色んな情報を得てきたい。

 敵を知り己を知れば百戦殆うからずとも言うしな。


 もしかしたら街などには、ダンジョンマスターと人間を見分ける方法などがあるかもしれないが、俺は最悪自殺をすればダンジョンまで戻る事が出来るからなんとかなる。


 問題はエンギだ。


 街の中に連れて行くのは論外として、街の近くにいてもらうのも発見のリスクが高まり、倒されやすくなる。

 どうするか考えないとな。


 ふと、視線を前に向けると、遠くの方で森が開けて道らしきものがあるのが見えた。


 サバイバル生活2日目にして道を見つけるだなんて相当運が良いな。


 早速向かおうと一歩足を踏み出した瞬間、それを邪魔するかのように遠くからガサガサと草をかき分けて進む音が聞こえて来る。

 しかも、その音の主は複数いるようでどんどん俺たちに近づいて来る。


 まさか優男たちが追って来たのか?


 咄嗟に思考が最悪の方向に走るが、視界に映るものからすぐに違うとその考えを振り払う。


 よく見れば、森の中に色が溶け込んでいて気付かなかったが、緑色の体表の小柄な奴らがこっちに向かって来るのが見える。


「あれは……ゴブリンか?」


「ゴブゴブ」


 小声で呟くと、その声を拾ったのかエンギが頷く。


「あいつらは同じゴブリンだがやれるか? それとも逃げるか?」


 エンギにとっては同族だからな。

 もしかしたら、やりづらさがあるかもしれないと思い聞いてみるが、エンギは気にするなとでも言うように俺の考えを鼻で笑うと体の前に拳を構える。


「そうか、なら数もそこまで多くは無さそうだし、久しぶりに共闘と行くか」


 直後、すぐ近くでガサガサという音が聞こえると、右手の茂みからゴブリンが姿を表す。


 瞬間、エンギは距離を詰めるとゴブリンの顔面に向けて体重を乗せた渾身の一撃を炸裂させる。


 それも、レベルが低かったのか、それとも当たりどころが悪かったのか、地面に倒れ伏したゴブリンのステータス表示はちゃんと見る間も無く消え失せていた。


 しかし、すぐに後続から4体のゴブリンが茂みから顔を出す。

 そいつらは、仲間の死に動揺したのか、すぐに俺たちには向かって来ずにゴブゴブグギャグギャと騒ぎ始めた。


 チャンスだ。


 俺とエンギは瞬く間に距離を詰めると、それぞれ手近なゴブリンを殴りつける。


 ゴブリン達も一瞬呆然とその光景を眺めていたが、すぐに我に帰ると、敵意のこもった眼差しで俺たちを睨み飛びかかってきた。

 特に武器は持っていないようで、俺たちと同じように素手で殴りかかってくる。


 そこからは乱戦だった。

 殴ったり避けたり、時には地面に落ちている木の枝を武器にして戦った。

 エンギは、片腕になったがゴブリンの中では強い方なのか、そこまで苦戦をする事もなく4体を倒すことができ、それどころか、俺は相手を倒さずにエンギの経験値にする余裕まであったくらいだ。

 おかげでエンギのレベルも上がった。



 【エンギ】

 種族 ゴブリン

 レベル 10/10

 特技 喧嘩



 どうやら倒した中に高レベルのゴブリンもいたみたいで、レベルが最大になっていた。


「エンギは怪我は大丈夫……」


 そこまで言ったところで、エンギの様子がおかしい事に気づく。


 いつもしかめっ面をしてるとはいえ、いつにも増してエンギが盛大に顔をしかめ、何かを耐えるように目を閉じている。

 その額には玉のような汗を浮かべ、拳を強く握りしめている。

 それでも堪え切れないのか、食いしばった歯の隙間から呻き声が漏れ出していた。


「エンギ! どうした! 大丈夫か!?」


 すぐに体をざっと見回すが、軽い打撲があるだけで、特にこれといって突然ここまでエンギが苦しみ出すような原因が見当たらない。


 外傷が無いとすれば、あと可能性があるとしたら3つか。


 俺の知らない未知の病気などに罹ってしまった可能性と、実はずっと我慢していたが腕の怪我による影響で苦しんでいた可能性、もう一つは……。

 チラとエンギの腰蓑を見る。

 乱戦の中だったからな、もしかしたら最後にキツイのを貰っちまった可能性も捨てきれない。


 どれかは分からないが、念のためエンギを近くの茂みに連れて行き、横に寝かして様子を見ていると、次第に落ち着いてきたのか、呻き声がおさまり始め汗も引いてきた。


 まだ少し息は荒いが、なんとかなったみたいだな。


 改めてエンギを見ると、さっきまでは気が動転していて気が付かなかったが、エンギのステータスが変わっていた。



 【エンギ】

 種族 ハイゴブリン

 レベル 1/25

 特技 喧嘩



 これは……進化したのか?


 確かに、進化したと思って見れば心なしか体も大きく……はなってないな。

 その代わり、少し前までは種族もゴブリンでレベルも最大になっていたのに、種族はハイゴブリンに変わって、レベルも上限が上がった代わりに1レベルになっていやがる。

 多分、さっきまでエンギが痛がってたのも進化に伴う成長痛みたいなもんだったのかもしれないな。


 金的でも食らったのかと思って悪かった。


 俺は心の中で謝る。


 それにしても、進化にはだいぶ体力を使うのか寝ちまったな。

 しょうがない、変な勘違いをした罰って事でお寝坊さんのエンギが起きてくるまで見張りでもしときますかね。

 ま、モンスターが来たら問答無用で叩き起こすけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る