【7話】敗北
「スケルトンとゴブリンは優男の足止めを、ミトとゴブリンウィザードは女魔法使いの牽制を頼む! 他はまとめてゴリラ男に特攻だ!」
俺の号令に従いゴブリンやスケルトン達が敵に殺到する。
ゴリラ男と優男は、女魔法使いを守るように前に出る。
恐らく、魔法を使う時間を稼ぐつもりだろう。
命令通り、スケルトンとゴブリン達は優男の足止めに向かい、スケさん、カクさん、エンギはゴリラ男の元へ向かっている。
ミトとゴブリンウィザードも呪文を唱えている。
みんな、やるべき事をやっている。
俺にも何か出来ることがあるんじゃないのか?
ポイントはもうほとんど無い。
俺が戦いに行ったとしても、微々たるものだし、やられちまったら元も子も……そうだ!
そういえば、ダンジョンの知識でダンジョンマスターはダンジョンコアが存在する限り死ぬ事が無いってあった。
ーー死にたくない。
今までは怖くて試せてなかったけど、今ここで何もせずにやられたらどっちにしろあいつらに殺されるんだ。
なら、どんなに苦しくても、どんなに辛くても、歯を食いしばって突っ込むしかないだろ。
ーー死にたくない。
覚悟を決めろ。
ーー死にたくない。
前を向け。
ーー死にたくない。
あとは俺の意志だけだ。
「クッソォォォォォォオオオ!!!」
怯みそうになる心を無理やり雄叫びで捻じ伏せ、駆ける。
優男には、十分な数を足止めに向かわせたから大丈夫なはず。
なら、エンギ達と一緒にさっさとゴリラ男を倒して、優男の元へ向かうしかないだろ。
そう考えエンギ達の元へ走って行くと、
「オラァァァア!」
ゴリラ男の振った大剣を、スケさんとカクさんは盾を構え、2体がかりで受け止めるが、圧倒的な力の差で盾ごと後ろに吹き飛ばされる。
それも、骨だけで軽いからか数メートルは吹き飛ばされている。
大剣を振り切った隙を突き、エンギがゴリラ男の足にタックルをしようとする。
ゴリラ男は、大剣を振り切った勢いを利用して回転し、大剣から片手を離すと突っ込んでくるエンギに向かって裏拳を繰り出す。
突然の事に驚いたエンギは、ゴリラ男の裏拳を受け地面に転がされる。
間に合ってくれ!
「こんなもんか? なら、さっさと倒させてもらうか」
ゴリラ男が、起き上がろうとしているエンギ目掛けて大剣を振り下ろそうと腕を振り上げる。
「この野郎ぉぉぉお!!」
俺は、大声を上げて注意を引き、走っていた勢いのままゴリラ男にドロップキックをかます。
ゴリラ男は突然の攻撃に驚き、受け身も取れずに倒れる。しかし、ダメージはほとんど与えられていないようですぐに起き上がろうとする。
しかしその隙を逃さず、戻って来ていたスケさんとカクさんが攻撃を仕掛ける。
2体での攻撃だ。
タイミングもズラしているし、大剣一本だと両方を防ぐのは難しいはず!
行けるぞ!
「クソが!」
と叫ぶと、ゴリラ男はなんとかスケさんの攻撃を大剣で弾き飛ばすが、もう一本の剣の迎撃は間に合わないと悟ったのか、大剣から片手を離しその腕で剣を受け止めようと手を突き出す。
カクさんの剣はゴリラ男の肉を切り裂くが、切断する事なく骨で止まってしまう。
ゴリラ男は苦痛に顔を歪めながらもニヤリと笑うと、片手で強引に大剣を振り回す。
「オラァ!」
その一撃は、呆然としていたカクさんを直撃し、バラバラにした。
一瞬、何が起きたのか分からなかった。
骨がバラバラになったなという事しか頭に入って来なくて、その先に思考が進まない。
しかし、否が応でもステータスの表示されないバラバラになった骨が、カクさんの死を突き付けてくる。
嘘…だろ……。
俺は、よろよろとカクさんだったものの元へと歩み寄り、散らばっている骨を抱く。
スケさんは、大剣を振り抜いてガラ空きになったゴリラ男の胴体に剣を振り下ろす。
すると、ゴリラ男は大剣から手を離し、ごろごろと転がって回避する。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「苦戦してるみたいですねイーサン、手伝いましょうか?」
目の前の戦闘に意識を取られ見ていなかったが、ふと隣を見ると、先程まで戦っていたはずのスケルトンとゴブリン達は、いつの間にかバラバラになって地面に散らばり、その中心に優男が悠然と立っていた。
なんでこんな…………クソッ!
「チッ! さっさと手を貸せ、こいつら妙に連携してきやがる」
「貸し1つですよ」
敵に優男が加わった俺達を見兼ねてか、女魔法使いの牽制をしていたミトとゴブリンウィザードが魔法の標的をゴリラ男と優男に変更して2発の炎弾を放つ。
「上手くいけば2人の隙を作れたかもしれないけど、ちょっと遅かったわね。 ウォーターボール!」
その様子を見ていた女魔法使いは、3発の水弾を炎弾にぶつけ確実に相殺してくる。
ジュワッ!
音を立てて水が蒸発し、洞窟内に水蒸気が立ち込め視界が霞む。
チャンスだ!
その瞬間、俺とエンギとスケさんが一斉に飛び出す。
全員ゴリラ男目掛けて進んでいくが、視界の端で、優男がエンギの動きを捉え、剣を振り抜く姿が見えた。
エンギは水蒸気のせいで攻撃に気付くのが遅れ、何とかしようと左手を突き出す。
「グギャァッ!?」
剣が業物なのか、優男の技術が優れているのか、優男の攻撃はエンギの左腕を骨ごと両断し、そのままエンギの頭めがけて振り下ろされる。
しかし、腕を犠牲にした分だけ剣速が鈍っていたのか、エンギは額を縦に斬られるも、なんとか攻撃を回避する。
「エンギ!」
今すぐエンギの元へ駆け付けたいが、このチャンスをモノにして状況を打開しなけりゃ、勝ちはねぇ!
俺とスケさんは ゴリラ男を左右から挟み打つように分かれる。
ゴリラ男は脅威は無いと判断したのか俺を完全に無視し、スケさんに向けて大上段から大剣を振り抜く。
スケさんは盾で受けるようとするが、重力も加わった一撃に耐えることが出来ず盾が真っ二つになると、止まる事なく頭蓋骨から身体までを一気に粉砕する。
スケさん……………………。
「オリャァァァア!」
俺は、先程拾ったものを右手に持ち、無防備なゴリラ男の背中へ腕を突き出す。
「ウガァァァァァアアア!!!」
直後、男の叫び声が洞窟内にこだまする。
俺が右手に持っていたものが、ゴリラ男の背に深々と突き刺さっていた。
それは、カクさんの骨を抱いた時に、なぜか自然と手に収まっていたカクさんの剣だった。
「アァァァァァアアア!!!」
痛みにのたうちながらも、ゴリラ男が力任せに振った大剣が俺を真っ二つにする。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い!!!!!!!!!!
気が狂うほどの熱が身を焦がす。
まるで、腹を火炎放射器で満遍なく焼かれ続けているような感覚だ。
俺は苦痛に顔を歪めながらも、せめてもの仕返しにとゴリラ男にニヤリと笑いかけてやる。
「……ざばぁみど」
苦痛と喉に詰まった血液のせいでうまく喋れ無かったが、言いたい事は言ってやった。
腹から血液が溢れ出て行くに連れて、急速に身体が凍えて来て段々と視界が暗くなってくる。
また……死ぬのか、俺。
死ぬのはやだなぁ………………………
意識が暗転し、どこともしれない海のような場所を漂っていたかと思うと、ふっと意識が戻る。
……はっ!
気が付くと俺は、ポイントでモンスターを交換した時と同じようにダンジョンコアの前に裸で立っていた。
状況を確認しようと慌てて周囲に視線を巡らせると、殆ど時間は経っていないのか、優男と対峙するエンギは右手で左腕の付け根を押さえている。
女魔法使いと対峙するミトとゴブリンウィザードも…………。
ふと視線を下に向けると、ミトとゴブリンウィザードの喉が切り裂かれて倒れていた。
喉からは血が溢れ出て、ミトもゴブリンウィザードもぴくりとも動かない。
「っ…………!?」
どうにかなってしまいそうな感情を、まだ終わっていないと、理性で締め付け意地で抑える。
その2つの骸の側には杖を右手に、短剣を左手に持つ女魔法使いがいた。
どうしてこいつがこんな場所に……まさか、こいつも水蒸気に乗じて攻撃しに来たのか?
そういえば、魔法を使って水蒸気を起こしたのはこいつだった。
寧ろそれを狙ってウォーターボールを撃ったと考えた方が自然だ。
残るは俺とエンギの2人だけ、絶望的とはこういう状況を言うんだろうな。
そんな絶望的な状況の中、不意に声が掛けられる。
「さて、ダンジョンマスター。 私と取引しませんか?」
優男は何を考えているのか、顔には張り付けたような笑みを浮かべていた。
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