第24話 十五人目①

 あー……。 危ない所だったわ。

 私――星と運命の女神ズヴィオーズはほっと胸を撫で下ろす。

 外に放り出されるところまでは笑えるで済まされたけど、アレを釣り上げるなんて運がなさすぎるわ。

 

 ……まぁ、Nしか引いていないカスみたいな運だったし当然かしら?


 内容的には特に盛り上がる場面もなかったし特に感想はないわ。

 ちょっと精神的な疲労を覚えていたけど――不意にお馴染みの引っ張られる感覚。

 お、来た。 さーて、今度は外に放り出されるような事にはならないで欲しいわ。


 さぁ、女神の導きの時間よ!


 

 いつもの空間に現れたのは中年に差し掛かった男。

 太良田たらだ 亮右りょうう。 三十九歳、職業は教師。

 記憶を参照すると――あ、ふーん。 こういう奴ね。


 地元の中学校でそこそこの年数勤務しているだけあってそれなりにやってるんじゃない?

 上手くかどうかは知らないけど。

 いつも通りの説明をすると太良田 亮右は私の顔、胸、股間を眺めた後、理解したと頷いたわ。

 

 妄想するのは勝手だけど、気持ち悪いから後にしてくれない?

 どうでもいいけどあんた仮にも教師なんだから、そういうのは控えたほうがいいんじゃないかしら?

 まぁいいかと思っていると取りあえずお試しは引くみたい。


 SR:身体能力強化(中)


 あら、結構いいのを引いたわね。

 現代日本で役に立つかは微妙だけど、この後に転生か転移を引けばそこそこ役に立つんじゃない?

 いつも通り、引いた物に関しての説明をして、追加で引くかを尋ねる。


 無駄に歳を重ねているだけあって色々と質問をしてきた。

 割と基本的な事ばかりだったけど、この手の確認作業はそれなりに重要だ。

 

 内容は――

 何が出るのかは分からないのか?

 あくまで本人の可能性を引き出すだけだから何が出るのかは私にも分からない。

 

 ……馬鹿ねぇ。 何が出るか分からないから面白いんじゃない。


 排出率は?

 レアリティが高いほど低いとしか答えられないわねぇ。

 統計を取っている訳じゃないから体感になるけど、Nは六割、R三割、SR一割ぐらいじゃない?

 それ以上? ゼロじゃないってレベルなので何とも言えないわ。


 物品の場合、いつ頃手に入るのか?

 いつか必ずとしか。 具体的な日時までは何とも言えないわ。

 ただ、引いた以上は何があっても手元には届くようにできている。


 ――という質問に対してオブラートに包んだ回答を与えたわ。


 後は実際に引かないと質問のしようもないでしょうね。

 人間性には問題ありそうだけど、そこそこ考えているようで追加を引くか迷っているようね。 

 夢か現実かの判断が付かない事が大きな要因のようで、現実味がないので夢と断じる考えと夢にしてはリアルすぎるといった認識が鬩ぎ合っているようだ。


 一応、次はないといった話はしている事も迷う要因ね。

 人生半分以上過ぎてしまっている太良田 亮右に取って寿命は割と重要だ。

 十代、二十代なら多少は許容しようといった気持ちにはなるでしょうけど、四十手前だと少し惜しい。


 思考は見えているから理解はできるけど――


 ……ま、リスクヘッジしたいならちょっと普段の行いを見直した方がいいんじゃないかしら?


 それでもガチャの誘惑には抗えなかったようで、五回引く事を決めたわ。

 結果で追加を引くかの判断をするみたいね。


 結果は――


 SR:異世界転生権

 SR:スキル:鑑定眼

 R:スキル:剣術

 SR:スキル:属性魔術(無)

 N:銅貨

 

 結果を見て私はあぁこれかぁとこの先に起こるであろう出来事を察した。

 仕事なので引いた物の説明を行う。

 最初の異世界転生はそのまま。 SRだからそこそこいい感じの世界に行けるんじゃないかしら?

  

 問題はその後に引いた三つね。

 鑑定眼は対象のステータス・・・・・を読み取る能力で、剣術は名称そのまま。

 属性魔術は属性に定義されない変わった魔法を扱う為の技能ね。


 ……どうでもいいけど属性魔術なのに無属性ってなんなのかしら?


 言葉の不思議を考えながらスキルについての説明を続ける。

 これは何かというとスキルと呼ばれる外付けの技能で、特定の世界でしか扱えない制限付きの能力になるわ。 最初に引いた身体能力強化とは効果的には似たようなものだけど、こちらは転生先の異世界でしか使えないといった制約がかかっている。


 まぁ、転生は決まってるし、レアリティと効果を見ればいい結果だったんじゃないかしら?

 太良田 亮右はガチャの結果と転生についての話を聞いて追加を引くかを悩んだけど、『転生』『魔術』『異世界』といったワードで胡散臭いと感じたのかこれ以上引く気をなくしたようね。


 引く気がないのはとっくに分かってはいるけど、念の為に確認を取る。

 太良田 亮右が頷いた事を確認してから――

 

 「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」


 ――いつもの社交辞令を告げてその意識を後にした。

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