第19話 十二人目①
前回はそこそこ楽しめたわねー。 無駄に長かったから途中でちょっと飽きていたけど。
順当になり上がった馬鹿が順当に馬鹿な事をして落ちぶれただけの話だったわねー。
完全に自分の力に酔っぱらっていたから当然の帰結と言えるでしょう。
私――星と運命の女神ズヴィオーズは暇を持て余しつつ、いつものようにのんびりと空間を漂っていた。
ダラダラと同じような展開を眺めるのは退屈だったけど、暇潰しにはなったわね。
さーて、次はどんな奴が私を楽しませてくれるのかしら?
そろそろ来ないかしらと考えているとお馴染みの引っ張られる感覚。
おぉ、来た来た。
さぁ、女神の導きの時間よ!
今日はどんなのかしらと見ていると、出て来たのは何とも特徴のない男だった。
いえ、その表現は適切じゃないわね。 特徴はなくはないけど、なーんかどっかで見た事のあるような感じなのでパッとしない印象しかない。
髪は染めており、ピアスなども付けてはいるけど流行り物に乗っかった感が強いのだ。
記憶を読めばどういう奴かも一発で分かる。 道理で印象に残らない訳ね。
この男を一言で言うなら「小物」かしら?
人生を一通り見れば分かるけど、こいつにはとにかく自分という物がない。
その癖、自己顕示欲と征服欲だけ人一倍持っているみたい。 総合すると、行動基準は自分本位の癖に価値や判断基準が他人依存といった良く分からない生態をしていた。
学生時代はクラスのカーストでは普通と不良の間といった所だったわ。
さて、どう小物かと言うと、こいつは他者にマウントを取るのが大好きなのだけど反撃されたりすることを非常に恐れている。 その為、他人が虐めている相手を便乗して攻撃する事で悦に浸るクズね。
他者を一方的に攻撃して悦に浸るのは自己の優性を証明する手っ取り早い手段ではあるけど、裏を返すとそれ以外の方法では他人に注目されないと言っているようなものだ。 こいつに限って言うのならそれすらも他人に乗っかるだけなのでどうしようもない。 自信がない癖に安全な他者を攻撃して自信ありますアピールだけは欠かさない滑稽な生き物ね。
基準が他所にあるというのはどういう事か? つまりは何をするにも周りの評価が判断の基準になる。
虐める相手も他がやっているから自分も虐めていいと判断し、ファッションや趣味も皆やっているからいい物だと判断して自分も乗っかるのだ。パッとしないのもその所為ね。 流行りを無計画に取り入れた結果、どっかで見た格好をしている以上の感想が出てこない。
これは根底にある「支持の大きさ=正しさ」って考えの所為ね?
スマホやパソコンを手に入れてからは情報収集に余念がなく、常に自分は情報強者とか言って笑っている正真正銘の馬鹿ね。 実際は取捨選択が出来ずにその情報に踊らされているだけなのだから笑うしかないわ。
要するに自分で考える脳ミソを持っていない癖に周りから評価されたいとか考えている訳ね。
身の程知らずにも程があるでしょ。 他人の後追いしかできない癖に一番になりたいとか、存在自体が滑稽ね。
さて、この根本から破綻している馬鹿はどんな芸を見せてくれるのかしらと期待を込めていつもの説明を行う。
干羽良 脩鰭は最初は強い戸惑いを覚えていたが、冷静になっても思考は止まったままだ。
内心で溜息を吐く。 判断材料がないと本当に何もできないのね。 面倒くさいけどこういった輩は操縦が楽ではある。
……ただ、こういった形で誘導するのは本意ではないのよねぇ……。
自分で選ばせなければ意味がないのだけど、こいつの場合は最低限の誘導を行わないと本当に何もできない。
ただ、誘導自体がそう難しくないのが、私としては困りものなのよね。
この馬鹿は言葉尻に「皆やっていますよ」とつければ簡単に好きな方に誘導できるからだ。
追い返したいというのなら否定的なニュアンスの言葉を並べればあっさりと止めるといって消えるわ。
このガチャはあくまで自らの意思で回す物。
仕向けられるのではなく自らの意思で回す事に価値がある以上、他から強制された結果になんの意味もない。
だから、無料分を引かせる所までは誘導するけど、後は好きになさいな。
最後まで判断できないならそれがこいつの決断と見做すわ。
一通り説明をすると今まで何人の人間が引いて来たのだの、何を引けば今まで来た連中より優れた結果なのかばかり気にしている。
一応、質問には正直に答えたわ。 リスクがほぼない事を強調すると無料分はあっさり引いた。
出て来たのは――
SR:異世界召喚権
あら? 思った以上に良い物を引いたわね。
召喚なら狙って呼ばれるので、そこそこいい待遇が待っているはずだしその際に何らかの付加価値を付けられる事が多いので運が悪くなければ大事にされると思うわ。
干羽良 脩鰭はこの結果がどれぐらい優れているのかをしつこく聞いて来るので、めんどくせーなこいつと思いながらもかなりいい部類ですよと褒めておく。 実際、マシな部類なので嘘は言っていない。
それに気を良くしたのか追加で引くと言いだしたわ。
……はぁ、それぐらい自分で判断しなさいよ。
ともあれ引く気になったのはいい事ね。 はいどうぞっと。
N:聖貨
R:神聖銃
N:大聖貨
N:大聖貨
R:神聖剣
N:大聖貨
N:聖貨
R:神聖鎧
R:神聖剣
十連引いてこの結果なので普段なら笑う所だけど、今回ばかりはちょっと笑えなかった。
取りあえず簡単な結果説明を行うと、聖貨、大聖貨は転移先の通貨のようね。
魔力結晶体を加工した物で所謂、魔石と呼ばれる魔力媒体を金銭としてやり取りしているらしい。
神聖剣や神聖銃といった物は向こうの世界にある標準的な武具のようね。
見た目は装飾に重きを置いた剣や古臭い感じの――こっちではフリントロック・ピストルとでも言うのかしら? それに見た目が近いわね。 鎧は白を基調とした全身鎧。
どれも生体エネルギーである魔力を用いて性能を発揮できる所謂、マジックアイテムだ。
レアリティが低い割にはどれも高性能ね。 人間ぐらいなら軽く屠れる威力だわ。
他の世界だったらSRクラスをつけてもいい程の性能だった。
――そして私が笑えなかった理由が最後の一つだ。
SSR:神聖召喚(極)
SSRクラスのレアリティ。 以前の馬鹿が引きまくっていたような幻影じゃない。
本物の高レアアイテムだ。 「神聖」とついている点からもどうやら本人に備わっている類の物ではなく、召喚後に付与される物のようね。 効果は適性を無視して最大規模の「神聖」を召喚できるという物。
一回限りみたいだけど、低レアリティの武具であの性能だった事を考えればかなりの力を秘めた物である事は分かる。
私がその結果とSSRの希少性を伝えると干羽良 脩鰭は満足したのか帰ると言いだした。
ま、そうなるわよねぇ……。 流石にこの結果には私も驚いたので、特に何も言わない。
「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」
いつもの社交辞令を告げて干羽良 脩鰭の意識を後にした。
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