第17話 十一人目①
前回は二人同時と中々楽しめたわねー。
私――星と運命の女神ズヴィオーズはのんびりと空間を漂っていた。
同時に来るのはかなり珍しい上、どっちもそれなりに楽しめたので気分はいい。
両方とも上手くやれば死ぬまで生き続ける物かもと思ったけど、そうはならなかったわね。
意外な展開は新鮮な気持ちをくれるので大歓迎よ。
次も訳の分からない理不尽な理由でいきなり背後から木刀で殴り殺されるなんて展開にならないかしら?
そんな事をぼんやりと考えているといつもの引っ張られる感覚。
お、来た来た。 さぁ、今日はどんな
さぁ、女神の導きの時間よ!
さーて今度はどんなのが出て来るかなと思ったら、何か冴えないおっさんが出て来たわね。
どこにでもいそうな普通の中年ね。 歳相応の腹の出ただらしない体つき。 特筆するような事もないわ。 家族構成は妻と息子。
性格は――あー、こういうタイプか。 一言で言うと自分本位ね。
押しつけがましいと言い替えてもいい。 優位に立てる相手には常に自分が上に立たないと気が済まない感じね。 自分が楽しければ相手も楽しいと無理に共感を強いる性格か。
お陰で人が余り寄り付かない。 ま、余程気が合うか、寛容な心の持ち主でもないと付き合うの面倒臭いわね。 実際、こいつの息子とか話す度に死んだ目を向けているし。
一番の問題はこいつは自分を客観視できないので、周囲の反応の理由を理解しない事かしら?
……歳を食えば食う程、面倒臭くなる典型みたいな性格ね。
さて、私が降臨した事により驚いており、思考は強い困惑で満たされている。
落ち着いた所でいつもの状況説明。 田那邊 醇三は今一つ理解できていなかったが、寿命を代償にガチャを引けるという点は理解できているので問題はないでしょう。
私を見ても動揺しなくなったのは夢と割り切った事もあるけど、考える事が面倒臭いみたい。
いくらなんでも目の前の状況に対してそれはないんじゃないの?
まぁ、引いてくれるなら何でもいいけど。 田那邊 醇三は馬鹿みたいにぼんやりとタダなのかと考えて無料分を引くと言い出したのでどうぞとガチャを回させる。
出て来たのは――
SR:腕力強化(大)
へー、結構いいの引いたんじゃない? 少なくとも殴りっこでは大抵の相手には勝てそうね。
取りあえずそれなり以上に良いのを引けたので、運がいいですよとリップサービス。
そうなんだーとぼんやりと理解され、褒められた事に気分を良くしたのか、追加で五回ほど引くと言い出した。 いいわねー、その調子で死ぬまで回しなさいな。
R:腕力強化(小)
SR:異世界転生権
R:身体能力強化(小)
SR:身体能力強化(中)
R:五感強化(小)
思ったより悪くないラインナップね。 こういう場合って無心で引くのがいいのかしら?
身体強化に偏ってはいるが、最低がRという点を踏まえてもかなりいい結果でしょうね。 何だったらゴミを引きまくってキレ散らかしてもいいのよ?
こいつ馬鹿そうだし、もっと褒めちぎったら追加で引いてくれるかしら?
そういった考えを込めて素晴らしい結果ですと手放しに誉めたのだが、実感があまりない事が不満なのかもういいかといった思考になっていた。 さっきまで馬鹿みたいに何も考えてなかったのに何でいきなり冷静になってるのよ。
田那邊 醇三は引き直しできるの?とかくだらない事を聞いて来たので、反射的に舐めてるのかと言いかけるのを我慢してできません首を振る。
どうやら本気で寿命を支払うと信じてはいないが、もし本当だったらと少し考えて惜しくなったらしい。
支払って結果が出た後に返せとか馬鹿なの? しかももっといいのが出るかもしれない引き直しを要求する点も地味にセコい。
思考が見えているから図々しさが透けて見える。 私が無害と判断して少し調子に乗っている事もはっきりいってウザかった。 その証拠に話し方が慣れ慣れしくなっている。
引かないのなら帰すけどどうするのかしら?
田那邊 醇三は悩んでいるようね。 勢いでここまで来たけど、半信半疑になった事で少し冷静になったようだ。
普段ならこういう場は誰かに決めさせるみたいね。 何故かって? 失敗したらそいつの所為にするから気軽に選べるみたい。 今時、そこらのガキでももうちょっと決断力あるわよ? 優柔不断な男ねぇ。
でも残念。 ここにはお前の行動の責任を取ってくれる心の優しい存在はいないわ。
そもそも自分の寿命をかけるんだから自分の責任でやりなさいな。
田那邊 醇三は悩み続ける。 思考をモニターする限り、引かないとも引くとも言えない状態ね。
正直、こう言った状態が一番鬱陶しいわね。 どっちつかずだから追い出す事も出来ない。
しかも無意識の部分で誰か引く引かないの後押しをしてくれないかと選ぶ為の言い訳を探している点もはっきり言ってウザかった。
しばらく悩んだ後、私に引いた方がいいかと聞いてくる始末。
自分で決めろこの馬鹿がと言いたかったけど、私は完璧な女神なので返答は「自己判断で」の一言。
当然ながら女神スマイルは崩さない。 田那邊 醇三はしばらくこっちを見ていたが、不毛と判断したのかじゃあ最後に一回だけと口にした。
念の為、何年分で一回引きますかと尋ねたけど、一年分でとの事だったのでコインを引き渡す。
みみっちい男ね。 残りの寿命全部突っ込むぐらしなさいよ。
最後に引いたのは――
SR:脚力強化(中)
うーん。 偏るわねー。
田那邊 醇三は余り手応えを感じなかったのか、何か損したといった感じだった。
そうかしら? 割といい感じのラインナップだと思うけどねぇ……。
念の為、もういいですか?と確認を取ると頷きで返されたので、今回は終了となる。
「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」
用事も済んだので恒例の社交辞令を告げて私は田那邊 醇三の意識を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます