第5話 三人目①

 私――星と運命の女神ズヴィオーズは目を閉じて思い返す。

 何をって? 当然、以前に導いてやった愚かな衆生の事よ。

 名前は何だったかしら? 私って割とどうでもいい事は思い出さないから名前は出てこないけど、死に様は傑作だったクソガキの事だ。


 死ぬ直前の情けない顔は中々に悪くなかった。

 まぁ、女神であるこの私にセクハラした報いね。 神罰って奴よ。

 特にやる事もなかったので目を閉じてクソガキの最期を思い返し、楽しい気分になっていた所だ。


 不敬な馬鹿がくたばる瞬間は何度思い返しても胸がすく思いね!

 そんな事をしていると呼ばれている感覚が発生。

 おや、思ったよりも早かったわね! さぁ、私が運命を恵んであげるわ!


 女神の導きの時間よ!



 いつもの空間から対象の無意識の空間へと移動。

 そこにいたのは――うーん。 何と言ったらいいのか……。

 地味ね。 私の目の前には地味な女がいた。

  

 半端に伸びた髪に不景気な表情。 見るからに陰気臭いわねぇ。

 えーと、名前は――日比埜ひびの 游子ゆうこ。 歳は二十五で職業は――事務関係。

 

 「あ、あの……ここは一体――」


 お決まりの説明を求めるセリフに私は笑みで応え。

 いつもの説明を行う。 ガチャのシステムから記憶を代償にした無料ガチャまで説明した所で納得したのか頷いた。


 日比埜 游子はしばらく悩んでいたけど、取りあえずお試しのガチャは引くつもりのようね。

 たかが夢で起こった事を忘れるだけで一年分の浪費がチャラになるのだから引かない訳がないか。

 

 SR:運気向上(小)


 ……ぷっ。


 思わず笑いそうになった。 レアリティこそSRだけど(小)?

 どれだけ運に縁がないのよ。 いくら何でも憐れ過ぎじゃない?

 ブスな上に運もない、なんて可哀想な生き物……。 私はいつもの微笑みでおめでとうと高レアを引いた事実を伝えて祝福する。


 「おめでとうございます。 最初からSRを引けるなんて貴女は非常に恵まれた良き運命をお持ちですね」

 「え? そ、そうですか、ふへへ」


 キモっ!? こいつブスだから笑うと死ぬほど気持ち悪いわね。

 ついでに笑い方も非常に気持ち悪い。 まぁ、今の所は取り立ててイラつかせて来ないので少しくらいはリップサービスでもしてあげようかしら?


 「はい。 それに貴女の引いたこの運気向上(小)は間違いなく人生を彩るでしょう」

 「そ、そんなにいい物を引いたのですか!?」

 「はい。 効果こそ(小)ですが、その名の通り貴女の人生に幸運を運んでくれるでしょう」


 まぁ、SRで(小)引いている時点で幸が薄っすいから、大した補正にならないだろうけどね。

 ないよりはマシってレベルじゃないかしら?

 

 「それにこの後に引くガチャの結果にも影響が出ますよ?」


 そう言って微笑んで見せる。


 ……回せ、さっさと回せ……運気向上引いたんだから回せよ……。

 

 日比埜 游子は持ち上げられて嬉しいのかうひひと気持ちの悪い笑みを浮かべて頷く。

 

 「で、では、ご、五回引いてみます」

 

 五回かよ。 ケチケチしやがって。 気前よく五十回ぐらい引けよ。

 私は思考を表には出さず、分かりましたと一年分のコインを五枚渡す。

 日比埜 游子は少し躊躇ったが覚悟を決めたのかコインを投入して一気に回していく。


 出て来たのは――


 一枚目SR:魔法適性(火)

 二枚目R :魔法適性(水)

 三枚目R :精神強化(中)

 四枚目SR:異世界転生権

 五枚目SR:記憶想起


 おや、思った以上に運気向上が効いているのかしら?

 六回やってNが一つも出ないのはちょっと凄いわね。

 魔法適性に関してはそのままで、火と水の魔法に対する才能が開花する物だ。


 火と水でレアリティが違うのは元々備えていた適性の違いだろう。

 火が高いのは元から大した才能がなかったからだ。

 異世界転生権は転移系の中では――まぁ、即死する事がない分、マシな方かしら?

 

 完全に生まれ変わる訳だからその世界に適した生命体になるので、生きては行けるでしょうね。


 ……人間かは知らないけど。


 まぁ、魔法適性があるから最低限の知能がある生き物にはなると思うけどね。

 最後の記憶想起は前世の記憶を思い出す事ね。

 これがないと転生した際に前世の記憶を思い出せない可能性が出てくる。 その為、転生の実感無しで死ぬかもしれないから引けてラッキーね。


 ただ、想起である以上は思い出せるタイミングは完全にランダムになるわ。

 人間であった場合は生まれて直ぐか、頭部に衝撃を与える等の肉体や精神に強いショックを受けた時に思い出し易いわね。 この辺は運次第かしら?


 引いた物に対する説明を求められたので順番に説明すると魔法適性の件で目を輝かせていた。


 「あ、あの女神様! 魔法は目が覚めたらすぐにでも扱えるんですか?」

 「いえ、あくまで貴女の内に才能が発生する物なので、使用するには訓練が必要となります」


 魔法適性って形で出ているから、日本での習得はちょっとハードルが高いかもね。

 魔法――こっちではPSIやESP――要は超能力って括りの特殊能力を扱える者はいるには居るけど、基本的にそういった能力自体が認識としてフィクションの域を出ない代物だから不可能とは言わないけど難しいわ。


 ……どちらにせよこの世界の人間は構造的にそう言った事が出来ないように――まぁ、関係ない話だしいいか。


 この辺は転生特典って考えた方がいいかもね。

 日比埜 游子は私から聞いた話を吟味しているのか思案顔だ。

 

 「あの、もう一つ質問してよろしいでしょうか?」

 「どうぞ」

 「転生に関しては分かりました。 その種を指定する事は可能ですか?」

 「可能ですよ? ガチャで引き当てれば」


 甘えてるんじゃない。 欲しいものがあるならガチャで当てなさいな。 

 そして出るまで回しない。 ほら回すんだよ! 早くしろ!


 「貴女は類まれなる運に恵まれています。 真摯に祈ればきっと引き当てる事が出来るかもしれませんね」


 私がそう言うと日比埜 游子は「そ、そうですか?」と気持ち悪い笑みを浮かべる。

 あら単純、こういう馬鹿が変な男に引っかかって食い物にされるのかしら?

 あ、私は勿論違うわ。 導いてやっているのだから大丈夫。 寿命は貰ってるけど食い物にはしてないわ。

 

 私の心にもない言葉に心を動かされたのか十回回すと言い出したので笑顔でコインを引き渡す。

 

 「さぁ、どうぞ」

 

 一度やって抵抗がなくなったのか躊躇なくマシンにコインを突っ込んで回す。

 さて、出て来たのは――


 一枚目SR:転生:人間   二枚目N :転生:鳥類

 三枚目SR:金運向上(中) 四枚目N :精神強化(小)

 五枚目N :異性交際権   六枚目R :魔法適性(風)

 七枚目N :腕力向上(小) 八枚目R :魔力制御(中)

 九枚目N :脚力向上(小) 十枚目N :魔力制御(小)


 へぇ、中々に引きが強いわねー。 

 一年コインだけでここまで揃えられるのはちょっと凄いかもしれないわ。

 説明を求められたので答える――というか主に最初に引いた二つね。

 

 転生先の選択権ね。 複数出た場合は片方が適用されないようにする必要があるので、本人の選択次第となる。 ちなみにさっきの記憶想起もそうだけど、転生を引いたらラインナップに追加される代物よ。 確認すると人間と即答したので、鳥類は削除。

 一年分の寿命が無駄になっちゃったけど、これは諦めなさいな。


 とにかくこれで死亡した場合はどこかで人間として生まれ変わる事になるでしょう。

 ちなみに性別は確定系を引いていないからランダムになるわ。 どちらになるかはその時次第ね。

 金運向上もあるからそこそこ裕福な暮らしも送れるんじゃない? 知らんけど。


 日比埜 游子も引き当てた物を見て満足したのか頷いている。

 この様子じゃこれ以上は引かなさそうね。

 一応は意志の確認をしなければならないのでどうしますかと尋ねると、日比埜 游子はもう大丈夫ですと首を振った。


 十五年かー。 あんまり取れなかったわね。

 ま、この先のあんたの人生で楽しませて貰うわ。


 「では、私はこれで。 貴方に良き運命が訪れん事を」


 質問の類もなさそうだったのでお決まりの文句を述べて日比埜 游子の夢を後にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る