第56話 姫様十分強い。
そこは地底運河と呼ばれる巨大な巨大なトンネルであった。
海水で満たされたそこは陸生生物の存在を許しはしないかのように暗闇を静かに水流が流れ、光があるとすれば先程俺たちが入ってきた入口以外には複数の海月が集まって光を発しているぐらいだ。
場所が場所だけにここを交通手段として使えるのは限られてくるだろう、現にたまの光に照らされて見えるのは魚か巨大な海洋生物くらいだ、、、今も魔道具のランタンの放つ光をイルカのような生き物がちらりとコチラを興味深そうに覗いて去っていった、一口で俺たちを馬車ごと飲み込めそうなサイズのイルカだが。
『あれはダイオウイルカですねぇ~大人しくて可愛いんですよ?』
「人は襲わないのか?」
『人はこの道を通りたがらないのでわかりませんねぇ~わたくしは襲われたことは無いですよ?』
「・・・もし何か襲ってきたらこの中から攻撃出来るのか?」
『ウ〜ンやったことありませんからねぇ・・・水中で使える魔術とかあまり聞いたことがありませんし、水中銃とかも知らないですね。』
安心安全な水路ではないということか・・・?
それだったら危険を冒して密輸を行ってたのだろうか。
『あとは魔物避けの魔道具ランタンとかを使うこともありますけど余程じゃない限りは使わないですねぇ~。』
「しかしお主はタフじゃのう、十人近く乗った馬車を引っ張って疲れぬのか?」と、御者席に座る俺の横にウシオが顔を出した。ほかのメンバーは初めての水中の様子に喜んだり怖がったりしているようだ。
『だいじょうぶですよぉ?わたくしはお姉さまたちと違って戦えますから!もしなにか来てもトライデントでえいやぁーって倒しちゃいます!』
「さっきチラリと見えたアレかの?」
『ですよぉ〜これも実は立派な魔道具だったりします!』
そう言いながらリボンのような頭飾りの辺りから物理法則を無視して身の丈ほどある三又の槍を取り出してみせるジェーン、さっきは明るかったからわからなかったが今はしっかりと淡い光を武器全体から放っていることに気づいた。
『これは王家に伝わる宝具のトライデントです~兄弟ではわたくししか使えないのでいつも持ってるんです、これでどんな敵もやっつけちゃいますよ!』
「それは頼もしいのう。」
「魔道具ってことは何か武器に能力でもあるのか?」
『ええ、じゃあ試しに・・・せいやー♡』
直後、振るわれたトライデントから放たれた凄まじい蒼い雷光によって馬車の倍はあろうサーモンのような魚が焼かれた。
今はせっかくの獲物を捉えたので運河の壁にいくつか空いている横穴に馬車を下ろしてみんなでご相伴に預かっている。
「なんなんだよあの槍の威力は・・・。」
「海神のトライデントと呼ばれる王家に伝わる宝具ですわよ。
「ジェーンはすごいな!お魚美味しいぞ!」
「せやな、見た目大味かと思いきや脂ものってごっつ旨いで!」
「魚じゃなく槍の話な!?」
美味しいもので心を開くクロとライラは上機嫌であった。
「まったく、そういやあとどれ位で目的地なんだ?」
「そうですわね、あと半日も進めば海底の出入口から王宮近くに出ますわよ?距離だけでしたらそこまでなのですが運河の流れに逆らっていますので多少時間がかかってしまいます。」
「焦らず行こうぞ悠介、場合によってはたどり着いた瞬間襲われる可能性もあるのじゃからな。」
「なんでさ。」
「妾とて王家の者に馬車など引かせておる奴らは怪しい以外の言葉で言い表せぬぞ、場合によっては誘拐と思われても仕方あるまい。」
「ユウスケちゃんなら面倒ごとは慣れとるやんか!」
「望んで巻き込まれてる訳じゃねぇよ!?」
食べきれない分は【
そこに現れたのは下半身が魚のようになった馬、背には魚人のような男が乗っている。ランタンに照らされたその姿はタツノオトシゴのような頭をしていた。
「姫様ご無事でしたか!!蒼き雷を見かけ馳せ参じましたぞ!」
「・・・バロンですか、宰相の命ですね?」
バロンと呼ばれた男は
「不届き者め、姫様から離れろ!!」
「やっぱそうなるよな・・・。」
【斬鉄剣】を抜くと鍔迫り合いになることも無くサッと槍だけ三等分にしてやった。
あれからアリスを相手に訓練したのが役に立ったようだ、刀はしっかりと俺の手に馴染むようになっていた。
「ある程度は出来るようだな・・・ならば本気で行くぞ!!」
「行かなくていいです!落ち着きなさいバロン!」
「しかし、姫様を攫った不届き者ですぞ!?」
「この方は陸にて困窮していた私を助けたナイトのようなエドガー様ですわ♡むしろ襲撃者は貴方の方になりますわよ?」
「真ですか!?それは大変失礼をば・・・。」
膝を着いてジェーンに平伏する姿は忠臣という言葉が良く似合っていた。
「いやそれよりも共の方々などより早く王宮へとお戻りくださいませ!ゼファー殿も御身を心配しております。」
「彼が心配するのはわたくしではなく海神の槍と王位でしょうに・・・。」
「バロンさんだっけ、お姫様はその宰相に狙われてるのは知らないのか?」
「なんと?どういうことですか姫様!?」
この人は宰相による国の乗っ取りに関しては知らないらしかった。本人曰く王宮騎士団の副リーダーの彼は団員と共に四方八方に散らばり姫を探していたらしく、このトンネルに向かったという証言を聞き付け止める声も聞かずに地底運河を探索していたらしい。
「真面目と言えば真面目なんだろうけど一直線な人だな・・・。」
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