第54話 ドのつく天然ってことですか?

「あら、冒険者さんですか?わたくし所用でこちらの国の王様の元に行きたいのですがご存じですか?」

「いや、あんたその前になにか着てくれないか・・・?」

「え?何かおかしいでしょうか?」


緑色のロングヘアに貝がらの髪飾りをつけた青い瞳の少女は不思議そうに自分の体をチェックしているがおかしなものは何も無いといった様子で小首を傾げている、引き締まった身体にたわわに実った胸が目の毒になるとは露にも思っていないようだ。

むしろ身につけるものが何も無い気がするんだが・・・。


「ちょっと待っててくれ!」と慌てて馬車に戻ると遊んでいたクロとクララに出くわした。


「どーしたユウスケ?」「ご主人様?」

「なんでもいいから女の子用の着替えないか!?」

「ではこちらをどうぞ・・・?」


そうしてシンプルな白いワンピースを受け取るとすぐUターンして湖のほとりに戻ると彼女に渡して着るように促した。


「あらあら、わたくしに贈り物ですか!?いきなりは困ってしまいます・・・♡」

「困るのは俺だから受け取って着てくれ!」

「とても熱いアタックをなさる殿方ですのね、フフ、ありがとうございます。」


なぜだかとても嬉しそうに服を受け取った彼女はいそいそとワンピースを身につけ、


「あの申し訳ありませんが背中のファスナーを上げていただけますか?」と髪をかきあげて背中を向けてくる。


この世界の女の子は羞恥心が無いというのは既に知っているがここまでとは・・・と着付けを手伝う。

着替え終わると水面に自らの姿を写しながらクルクルと回り始めた。余程嬉しかったようでしきりに自分に似合うかニコニコしながら聞いてくる。


「あー、ところでさ」「そういえば貴方さまのお名前はなんと言いますの?優しい冒険者さん。」

「え?江戸川悠介・・・。」「エドガー様というのね、ステキなお名前です♡」


会話にならないな・・・一旦馬車に連れて行ってみんなの意見も聞くか。


「えっと、なんて呼べば?」

「はい、申し遅れました。わたくしはジョアンナ・ダルク・ローレライ、気軽にジェーンとお呼びくださいな。」


そのまま彼女を連れて再度馬車に戻ると今度はみんな降りてきていた。ジェーンはジェーンで俺に大勢の仲間がいた事に感銘を受けているようだ。


「まあまあ、貴方様にはこんなに奥様が!」

「違います・・・悠介、こちらは?」「例の湖から出てきたから話しかけたんだ、ジェーンさんと言うらしい。後何も着てなかったからワンピース借りたぞ?」


おそらく微妙なリアクションしてるのでルヴィンの私物なんだろうな・・・悪いことしたな、後で埋め合わせするか。


「はい、ご紹介に預かりました。ジョアンナ・ダルク・ローレライと申します。」

「ローレライ・・・?人魚国と同じ名前かの?」

「ええ、わたくし第一王女ですわよ?」

「成程それで国の名前と苗字が一緒・・・ん?王女ォ!?」

「はい♡」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


人魚の国ローレライは国家の大半が海中にあることで有名な大国である。中でも首都リヴァイアサンは海に浮かぶ大聖堂なんて異名をもつ美しい都とのことだ。

海産物はもちろんのこと、海中からしか採れない真珠をはじめとした数々の強力な魔石や良質の塩を主な国益としている。


・・・だがなんでそんな王国の人魚姫に服を一着あげただけでテイム可能(かえで談)なくらい懐かれているのだろうか・・・。


「クックック、やはり悠介にはステータスにこそ見えないが亜人たらしスキルが備わっておるに違いないな!例えば【酒池肉林ハーレムマスター】とかの名称で。」

「やろうと思えば作れそうだからマジでやめてくれ!」


一応ステータスを二度見したがやはりそんな項目は無い、あってたまるかそんなスキル!・・・隠しステータスとか無いだろうな?

むしろ酒池肉林なんて本来アンタが中国にいた頃にやった事じゃ、あ、そっぽ向いて口笛吹いてやがるこの妖怪狐。


「エドガー様には凄いお力があるということですか?」

「俺は有名なゲームキャラか、ちょっと人より魔術が得意なだけだよ・・・そんな事よりジェーンはなんであんなとこにいたんだ?仮にもお姫様なんだろ?」

「そうでした!私としたこと大義を忘れてしまうなんて・・・。」


ポンコツ姫かな?


「わたくしは城から逃げてここまで来たのです!私の父であり国王たるビスコット・ダルク・ローレライは今や国を乗っ取らんとしている宰相の傀儡。そこでわたくしはドワーフ国の王に助けを求めるためにこうして宰相ゼファーの密輸の証拠やお父様に使用したおかしな魔道具をこうして・・・。」

「こうして?」

「どこにしまったかしら・・・そうそう、コレですわ!」


と頭の髪飾りの貝の一つを外して開くとドバーっと日記帳やらトライデントやらが出てきたのだった、中にはファンシーなぬいぐるみやら化粧品のポーチのような物も混ざっている。魔導鞄マジックバッグだったのかそれ。


「なるほど、渡りに船ってことだな。」「どういうことですの?」

「俺たちはちょうどこれから人魚国に乗り込んでその証拠を掴もうとしてたとこなんだ。」

「まあ、まさにおとぎ話の英雄のよう・・・なんて素晴らしい・・・。」


そしてどれが証拠や魔道具なのかと見ていくが・・・なんかコレお姫様の私物にしか見えないような?


「ああ!またわたくしとしたことが・・・これはプライベートなポーチであって証拠品の入った魔導鞄ではないです!」「え?!」

「いそいそと出てきてしまったので金庫に隠した別のポーチを持ってきてしまいました、これではただ逃げてきただけになってしまいます・・・申し訳ありませんエドガー様。」


慌てて旅行に出たら別のカバンを持ってきちゃったってことか・・・。

まあしょうがない。

落ち込む彼女の頭を撫でてやりながら声をかける。


「なら俺たちは予定通りに行くだけさ。」「?」

「人魚国に乗り込むってことだ!」

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