第53話 ご注文は人魚ですか?

それからしばらくしてローグスレイプニルの引く俺たちの馬車でかえで達がやってきた。

・・・随分かかったな?スレイプニルに進化したタラちゃんが引っ張って一時間以上かかるなんて。


「おーい!どうしたの突然。」

「いや、ちと事情が変わってな・・・それにしても遅かったな、どうしたんだ?」

「んーとね、なんか急にどばばーんときちゃったからばーんってやってぎゅってしてきた。」

「・・・それやと伝わらんやろカエデちゃん・・・んとな、ウチらが馬車で坑道向かうって言うたら突然町の人らに襲いかかれてもうてん。しゃーないから適度に気ィ失わさせてふんじばってきたんや。」

「ライラのほうがまだわかりやすい・・・。こっちはだな、盗賊の親分と話したら悪いのは町の方じゃないかってなった。」と、ギュウマさんから聞いた事の顛末を教える。


「ほな余計にウチらを残して正解やったんやな。奴らはまさか坑道に向かった仲間と距離置いても話せるなんて露にも思わんやろし。」

「お、やっぱ仲間は女ばっかだったか。ハーレムたぁニクいことするじゃねぇか!」


「おわ、でっかい女の人だねぇ・・・あれ?シバさんの知り合い?」

「おや、嬢ちゃんはわかるのか?オレ様は姉のギュウマってんだ!そっちの子を先に連れてくればよかったなぁユウスケよ!!」

「声でけぇ!」

「なんとなくオーラが似てるって言うのかなぁ?見た感じも鬼人とハイオークでガッチリ系だし似てない?」

「・・・ユウスケよぉ、この子は大事にしな?」

「は?」「は?じゃねぇ、普通のやつはハイオークも鬼人も見ただけじゃ判別なんて出来ねぇもんだ。しかも何だかオレじゃ腕力さえ適わねぇ気がすんぜこの子・・・【白面びゃくめん】やドラゴンまでいるなんてとんだ化け物ハーレムだな?お前さんの趣味か?」

「最初からいた我はヴァンパイアなのだが・・・。」


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「するってぇとおめぇさんら五人であの町の連中全員のしてきちまったのかい!?」

「ええ、突然襲いかかってきましたが一宿一飯の礼もありますので気絶に留めましたが。」と答えたのはアラクネのアリス。

「わたくしも活躍したのですよ!?こうえいやーと気絶させて」「パンチで気絶するとか死んでないだろうな・・・。」駄女神シルバーの言葉はあてになった試しがない・・・。

「ご安心をご主人様、わたしとライラお嬢様で確認は取ってございます。なおカエデお嬢様も手出しはしていないので死者はゼロのはずです。」一番安心する答えを返してくれるのがバニップのクララだ、かえでが命名したらしいけどやっぱり名作劇場ネタなんだろうか。


そして俺は【昏睡スリプル】を解いたがやはり普通の人なら抵抗力も薄いのだろう、まだ起きて来る者はいない。


「アンタはアンタで特殊なスキル持ちみたいだねェ、魔法とか聞いたことも無ぇな。」

「これが俺の固有ジョブ【魔法使いクリエイター】の力なんだよ。で、あの町の処遇はどうする気だ?」

「ああ、引退こそしちまったがオレ様はドワーフ王国の元騎士団長でね。町は丸ごと住民を犯罪奴隷とすることが決まってるんだ、もちろん子供は教会預かりさね。」


この世界は日本と同じような多神教ではあるがやはり主流の宗教もあり、そこの教会は孤児院を併設する場合が多いのだ。ギルドの売上の何割かで営んでいるらしい。


「そうなのか、なら安心だな。」

「問題は人魚国とのパイプをこんな国境近くの町が開けちまってることだ。」

「例えって意味だよな?」

「いいや、トンネルと言った方がわかりやすいかもしれん。この町の南側に湖があるんだがその底と人魚の国が地下を流れる川で繋がっちまってるのさ。通れるのは人魚や水棲の種族だけだがうちの斥候が水面からこんにちはしてる魚人を見たから確定さ。」

「成程、あとは何とかして人魚の国に密輸の証拠を挙げないとか。」

「いや、あそことうちは今国境で小競り合いの真っ最中でね。ヘタにつつけばそれこそ戦争になりかねない、そこでアンタらに依頼があるんだが?」とニマァと笑うギュウマ。


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「あの見た目で策士とはハイオークも侮れんのう・・・。」

「受けるしかないだろ、かえでに俺がギュウマのベッドに寝たとバラすなんて言われたらさ(小声)。」


ギュウマの依頼とはまだ顔の割れていない俺達が人魚国に潜入して例のトンネルの出口と使ってる奴を見つけてこいというものだ。ドワーフと仲は悪いが幸いそれ以外の種族しかいない俺達は目の敵にもならんだろうとのこと。

そして俺達はボルカンの町から南下し例の湖までやって来ていた、なるほど高台から見渡せば湖から国境を越えて海岸線までは一直線でこの下に地下トンネルがあったとしても違和感は無い。それに湖にはおあつらえ向きに水面から木や薮も生えており、こっそりそこから上陸出来るはずだ。


一旦馬車から離れて索敵範囲の一番広い俺が湖のすぐ近くまで行くとマップに白い点が表示されたので咄嗟に身を屈める。

ん?ちょうど湖から誰か出てきた、例の密輸相手だろうか。


「ふう、無事にこっちに来れた・・・後は見つからないうちに何とか国王様のところに・・・あ。」

「あ。」


変化スキルを使い人魚の特徴的な下半身をヒューマンと寸分違わぬ姿に変えた女性は・・・真っ裸であった。

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