第31話 幼馴染との馴れ初めですか?

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横山 かえで


幼稚園で俺が彼女に初めて出会った時に抱いた感想は『とても物静かな子』だった。

それは付き合いが長くなってから知ったことだったがかえでは良いところのお嬢様だったのだ。たしか仲良くなったきっかけはおやつのホットケーキをあげた時からだったか。そうして大の甘いもの好きであることもこの頃知った。


小学生に上がり、女の子と仲がいいことを揶揄からかわれることも多かったが俺は特に気にもせずいたせいで男子のグループからは外れていき、逆にお嬢様である彼女は周りの女子がお近付きになろうと寄っていき男子を好まず近づけようとしなかったので俺のボッチ気質の基盤はこの頃にはすでに出来上がっていたのかもしれない、ボッチの牙城である。

クラスの班研究や林間学校のグループ分けには仕方なく入れてもらいメンバーからハブられていた辛い記憶がある。


中学に上がって二年生の夏休み直前に事件は起きた。


修学旅行に向かった鎌倉であろうことか、かえでが誘拐されたのである。あとから横山家の財産に嫉妬した彼女の父親の会社で働いていた元社員の犯行であると聞いた。


鎌倉という街は広いようで狭い。

訪れた学生たちはシーズンが合えばそれに連動して増していき、観光客の数はうなぎ登りにどんどん増えていく。

賊はソレに便乗しようとでも考えたのだろうが完全にそれは悪手となったのである。

仲良しグループに混ざった異物として班からは放逐されるだろうと思っていた俺は事前に一人でも名所を一つでも多く回ろうと念入りに下調べしていたのも助け、俺はスマホを駆使しながら犯人達が数多くいる観光客の目を避けて潜伏するであろうポイントを探しあて、隙を狙って助け出したのである。

幸いだったのは・・・逆にそんなものはほぼいないとは思うが土地勘のあまりない誘拐の初心者で、そこまで強い相手でもなかったことだ。

俺は幼い頃から親しくしてくれるかえでを守ろうと(ハブられて暇だったのもあって)身体はよく鍛えて空手道場にまで通っていたり、彼女に教えるつもりで暴漢撃退テクニックなどをよくYOtubeなど見ておぼえていたのも功を奏したのである。


その後学校や警察からはほめられつつも危ないことをするなとこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

そして彼女の両親からは家にまで招待され、これ以上ないと思われるほどの感謝を述べられてすっかりお気に入りになり家同士の交流も増えていった。その頃からかえでは俺に周りに隠すような真似もせずストレートに好意と感情をぶつけて来るようになったのだ。

当然周りの学友たちは面白い訳もなく、二人して忌避されるようになったが特に気にすることも無く義務教育を満了した。


そして高校からは中学の頃の連中を避け二人して電車通学必須の少し遠い学校に通った。思えばこの頃(健全な意味で)遊びまくったせいで彼女の学力が落ちたように感じる。

かえでがオタクを拗らせて様々な趣味に手を広げていったのもこの頃だ。お嬢様という財力にものを言わせて、もともと素養はあったらしく一度ハマると一気に沼に沈むタイプだった彼女にアキバから乙女ロードに中野ブロードウェイといった都内のサブカルチャーエリアは勿論連れ回され、果ては当然のごとくコミケやワンフェス(ガレージキットなどフィギュアや造形物のコミケと呼ばれるイベント)にもよくついて行ったものだ。

お小遣いを減らされた!とバイトを始めようとしたかえでを止めたのも良い思い出だ。


そうして大学受験となり、一人ならばもっと上を狙えただろうにと学年主任の先生から嫌味を受けたが俺は『お嬢様なのにオタクで江戸川なんかに入れ込む恋愛脳のおバカ』とレッテルを貼られていたかえでと同じ大学に進むべくよく家庭教師を買って出ていた。


『つまんなーい、アキバにラノベ漁りにいきたーい!』

『アホ、三年のあいだは我慢して大学進学のために勉強するって親父さんたちとも約束したろーが!!』

『でも年二回のイベ位はいいよね!?』

『中学ん時の誘拐で懲りてないのかお嬢様。』

『・・・それはやめてって言ったでしょが悠介。』


そうして何とかFランクと周りに評価されるようなところではあったが二人で同じ大学に晴れて合格したのだった。


・・・・・・男女の仲はって?それは流石に高校卒業した時に・・・ああ、盛り上がって二人仲良く卒業したさ。言わせんな恥ずかしい。


それからは大学のサークルやら入ることも無く、二人してよくつるんでまたオタク活動に精力的になっていたのさ。

そんな時にかえでのやつが『たまにはリア充パリピ共が行くような遊園地とか行ってみない?』と言い始めたのもあって、ちょうど講義が休みになったのをいい事に郊外のテーマパークまで出かけていきフリーフォールに乗って、まんまと駄女神のドジに巻き込まれて現在に至るのである。


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「思えば色々あったんだし俺の怖いところだって知ってるだろ?」

「それでも悠介がときたま一瞬で凍りついたみたいに冷たい別人になって怒るようなところがあるのも知ってるんだよ?これ以上はそれを見たくないの。」

「・・・わかった、努力する。」


そうやって先に折れるのが俺たちのいつものパターンでもあったりする。

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