第21話 スマホはないんですか?
「あ!おっさんがドーレさん倒した人間かーすごい人間なんだなー。」
「おっさんではない、王である。」
俺たちはクロを連れて王都でめちゃくちゃに食わせた後にまたリチャード王の元に戻ってきていた。
それにしてもよく食べたな・・・どこにそんなに入ったんだと言うくらい食ってた、ウシオにツケておこう。
「しかしこの子があの毒竜なのか?リザードマンでなく?」
「おっさん!アタシはれっきとしたドラゴンだかんな!見てろ!」
そう言った瞬間クロの存在が膨れ上がり、俺たちは初めて見る輪郭が翼の無い巨大なドラゴンの姿となった。そのプレッシャーは予想以上で、調度品の中には飛ばされ壊れるものもあった。
よくクロを観察すると透明なドラゴンの入れ物に黒い煙を注いだようになって中でもうもうと魔力が躍動しているのが見え、その中心にうっすらとクロの体が浮いていた。
なるほどな、これなら傍から見れば突然目の前に真っ黒な身体に瘴気渦巻く悪竜が現れたように見える。
ってそうじゃない!
「クロ、室内で変身するな!また帰りにあの鳥肉買ってやるから!」
『ほんとか!』
と、みるみる元の姿に戻って言った。
「そうだ、余の交戦したドラゴンは今の姿であった。確かに輪郭がはっきりせぬやつだなと訝しんでおるうちにブレスを吐かれかけたので隊の皆を庇ってやられたのだよ。」
「そっか、やっぱりアタシに負けたんだしアタシの方がえらいぞ!」
「くーろ、その人はこの国で一番偉いんだから噛み付いちゃダメだ。肉やらんぞ。」
「えー、マスターよりえらい人間なんてアタシには、えっ肉はくれ!!」
「じゃあ王様になんて言うんだ?」
「王様ごめんなさい!」と、綺麗な直角に頭を下げて謝るクロ。
「おお、よく出来ました。では余がこの後クロや皆を晩餐に誘おう。国交はこれでまた流れてくれるだろうからな。」
「ばんさんにさそうってなんだ?」
「美味い飯を作って食べさせてくれるってことだよ。」
「そうなのか!?人間の王さまはすごいんだな!
そうしてその後はこっそりと王の普段の食堂・・・といってもやはり大学の食堂並みに広い場所で晩餐会が開かれたわけだ。聞けば祝賀会のような大きなイベントに使う大きなパーティールームも場内にはあるらしい、やはり一国の王の城は侮れない・・・迷ったら出れる気がしないぞここ。
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「くったくった!さすがに腹がはち切れそうだぞ!!」
「しかしホントにクロの出会った黒マントっちゃ何者なんだろうな。」
話は晩餐会の後に戻る。
ウシオは王に例の黒マントの件を報告していた。
「何?ではやはりクロムちゃんを扇動したものがいるということか。」
「そうじゃ、奴ははっきりと獣王国のスピアー連山の向こうから来てそこで突然自分を知る謎の黒マントから『おばさんを倒した敵はあの城とそのずっと先にある町にいるからみーんな壊しちゃえばいい、そうすれば君がいちばん強いドラゴンだ!』って教えてくれたらしいからの。」
「なるほどそれなら合点がいく。あの村は特別大量の家畜を飼ってるわけでもドラゴンに魅力的なものがあるでなし、ならばなぜあの村に来たかといえば連山からまっすぐ城との中継地点にあったからなのだな。」
「それにクロムは翼を出して飛べるのに何故そうしなかったか、それも黒マントに言い含められた故らしいのじゃ、『その方がカッコイイぞ』と。」
「黒マントか・・・どこぞの国の暗部が紛れ込んでおるかそれ以外か。どちらにせよ警戒に越したことはない。」
「わざわざこの時期というのも大規模な頭減らしがあると承知しての動きじゃろうな、我らがおらねば王都をクロムのヤツめに蹂躙されていたところじゃ。ブレスを街中に吐かれでもしたら・・・おお怖い怖い。」
その後はデザートに現れた、魔道具稼動のチョコレートファウンテンに女性陣が感動しアリのように群がってたのを眺めて帰ってきたのだ。
俺はダメだ、甘ったるい匂いとアルコールで胸焼けする、実際した。
そうして帰りついた途端にチョコのカフェインで泥酔したアリスがまた吐いたのでかえでとシルバーに付き添われて公衆浴場に向かっていったのだ。残されたのはウシオとクロの二人・・・と思ったらウシオは呑み直してくるとまた出ていったのだった。
「そうだ、クロは良かったのか?いきなり俺たちに付いて来て。」
「もちろんだ!それになんだかついてったほうが強くなれそうな気がしたからな!」
「竜のカンてやつか、そうじゃなくオヤジ・・・パパのところに戻らなくてってことだ。」
「ああ、パパはどうせ巣にいなかったしママはとっくに枯れて死んじゃってるから平気だぞ?。」
「種族間の寿命差ってやつか、それじゃ仕方ないか。」
無邪気にベッドで遊ぶ姿は(胸以外)子供と変わらないからな。
「じゃあさっき言いかけてた竜王様ってのは・・・ったく、やれやれ。」
さっきまで遊んでたと思ったらもう布団を抱き枕にして寝てやがる、これだから子供は。
この世界に来てもう一週間は経ったはずだ。俺はあのスマホが当然のように手元にあった日常を思い出しながらそういややり込んでたソーシャルゲームのイベントがもう終わった頃かなんて考えながら、ネット環境を惜しみつつその日はさっさと意識を手放したのだった。
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