第10話 え、戦闘シーンこれだけですか?

~生贄にされたアラクネ視点~


真っ赤な炎に彩られながら踊り狂う赤い帽子の小人レッドキャップ。

移動式のやぐらのような祭壇に掲げられたアラクネの女性たちは震えながら、せめて自分たちに毒牙の向くその瞬間が来ないでくれと切に願う。

そんな思いとは逆に小人は早く早く儀式が終われと涎をこぼす。


「GYIIIIIIIIIIIII!!!」

「!!GUROOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!」

「ヒッ!?」


恐らくそれが神に捧げるダンスの終焉の合図であったのだろう、杓のようなものを掲げて絶叫した司祭のような真っ赤な帽子を被った一際大きいレッドキャップの声に周りも雄叫びを返す。

ああ、始まるのだ・・・生け贄が慰みものに変わる時が・・・!!


「させるか。」


不意にゆらっと空気が震える感覚の後、突然黒髪の男が私たちのいた祭壇で仁王立ちするボスを蹴り落とした。

階段を転げ落ち、他の仲間に激突する。


「この祭壇がある程度高さがあってよかったよ。【昏睡】スリプル。」


そう男が口にした瞬間に小人たちはバタバタと倒れ始め、ようやく仲間に起こされていた頭目以外の者は大の字にひっくり返っていた。

当の司祭も頭を揺すりながら男を睨みつけている。

敵対する者を眠らせる魔術など生贄の少女(?)たちは皆目見当もつかない。この男は魔術師どころの存在では無いのだろうか?


そして、ようやくガスのようなものが全身に回ったのかボスも地面に頭を打ちつけ深い眠りに落ちたようだ。

男はスっと指をレッドキャップ共の首に向けるとそこから水のようなものが放たれ、どんなトリックなのか当たった瞬間首が寸断されていった。


そんな処理に近い討伐を終えると他の薮から女性の影が三人現れる。・・・一人はアラクネ?


「悠介!?いつの間に飛び出したの?・・・ていうか既に終わっちゃってる???」

「えっコレは・・・?」

「ボクたちに少し待ってって言ったらすぐいなくなっちゃって・・・う?!おええええ・・・。」


~悠介視点~


「アリ・・・アドネ?この子達が連れ去られた家族か?」

「ああ、姉さん!母さん!ユリシーズ!」


そっと口の周りの吐瀉物を拭いてからアリスは彼女たちに飛び込んで・・・いや、突進していった。感極まったのであろう、自身のステータスが倍化してることも忘れて家族に自身の体を叩きつけた為・・・結果として彼女たちはその場に伸びてしまったのだった。

仕方ないので俺たちは魔石や討伐証明となる特徴的な帽子を剥ぎ取ってから死体をまとめて焼き、夜が明けてから街に戻ることにした。


なんでも魔物だろうと人だろうと魔力の淀む森や洞窟に亡骸を放置すると意思無きアンデッドへと変貌するらしい。それはまさに俺たちの知るゾンビ、亜人種のアンデッドはしっかり己を持っているので一緒にされるのは解釈違いとのこと。


「その巨体で突進してくるなんて考えたくもないな・・・。」

「テンション上がっちゃって仕方なかったんですよぅ、だってお父さんは死んじゃったけど母たちは無事だったので・・・んぅ。」


祭壇にアラクネたちを乗せたまま、俺たちは篝火を囲んで食事をとっていた。先程やってみせたように【亜空間】アナザーは俺自身が入り込めば瞬間移動、何かを突っ込めばその時間が停止したまま保存出来るので暖かい料理もそのままだ。なので宿から提供されたスープとパンを鍋と皿のまま入れて運んできたのだった。


「まさにアイテムストレージみたいなもんよね!ホント便利〜。」

「そうっすね、あいてむすとれぃじ?はわかりませんけど確かに似たようなことの出来る魔道具のカバンマジックバッグや箱はありますけどこんな作ったばっかりみたいには保存できませんし、なによりものすごく高いので商人さえ大きいお店から借りてようやく使えるらしいっすよ?」


そこで俺は口外するなという条件付きでアリスにチートを教えてみた。

俺の魔法は魔術では到底再現不可能。マネをするなと言われても使えないだろうな。


「ま、魔術のその先の技術??まさかそんなことが出来るなんて・・・教会の司祭様やそれこそ魔王だって無理な気がしますよ・・・。」

「ああ、ギルドには魔術師だってことにしてもらわないとそれこそ魔王認定されかねん。」


ああ、米が懐かしいな・・・と頭の中で思いつつ異世界4日目の夜はすぎていくのだった。

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