第16話 嘘吐きは旅立ちの始まり
早朝を迎えるエルフィンを銀太郎、リッキー、ミィル、リィルの四人は旅立つ。
「街の人たちには伝えなくて良かったのかなあ……」
「これでいいんだ。寧ろ、ストレグラスと魔王軍の関係性はまだはっきりしない部分も多い。ナルタロの言葉を全て信じられる訳じゃないし、信じてもらえても街の人々は混乱するだけだ」
不安げな顔をするミィルに銀太郎は言う。
彼らは悪竜の洞窟に向かうべく、街の人々に出来るだけ見つからないようにこっそりと出発した。
そのため、馬車などは使わずに徒歩で移動することになる。
「取り敢えずは近くの村に着くまで歩きだ。俺はともかく、ミィルやリィルなら素性は知られていないはずだから、二人は村で馬を人数分買ってきて欲しい」
「有名人は辛いでありますな。それでしたら、馬の調達は私がするでありますよ。幼い子供よりも騎士である私の方が相手からの信用も得られやすいでありますから。……しかし、馬を人数分購入とはそのような資金はどこに?」
リッキーに尋ねられて銀太郎は金貨の詰まった巾着袋を掲げる。
「お前と出会った日にとある見世物小屋の主人から押し付けられた金がある。エルフィンの相場を考えたら、これだけあれば金額は足りるだろう。どうせ、きな臭い連中から手に入れたものだ。こういうものは早めに使い切ってしまいたい。というか、今回持ってきている金はこれが全部だ」
「あら? 意外と勇者様は貧乏なのね。数々の伝説を築いた勇者なのだから私はてっきりお金を有り余らせているのかと思っていたわ」
リッキー身体からナルタロが首から上だけを実体化させて口を挟む。
「せんせーは基本的にあまり金銭を受け取らない人なのです。もちろん、自発的に受けたギルドのクエストなどの報酬は別ですが、先日のストレグラス討伐のような高額報酬のクエストでは手に入るはずの報酬金を断るか、募金に充てるなどをしているので手元には残らないのですよ」
リィルがナルタロの疑問に対して誇らしげに答えた。
「そうなの? あなたの先生は立派な人ね」
「はい! 私たちのせんせーは強くて優しくて凄い人なのです!」
ナルタロはそれを聞いてニマニマとした表情をして銀太郎に目を向ける。
銀太郎はナルタロの視線に気づいて眉をひそめた。
「(俺が報酬を受け取らないのは大したことをしていないからだ。何もしていない奴が報酬なんて受け取れるか。まあ、ナルタロにはその辺りはもう見抜かれているだろうが。……そもそも、俺はまだ国外逃亡を諦めていない。悪竜の洞窟周辺は調べに行くが、俺は一度も洞窟の中まで入るとは言っていない。隙を見つけたらミィルとリィルだけでも連れてこの国から出よう。魔王軍とか守護竜とかどうなろうと俺には関係ない。あとの色々は全部この国の屈強な騎士や冒険者たちに任せておけばいいんだ)」
銀太郎の思考は通常運転だった。
〇 〇 〇
四人と夢魔は峠の頂上まで登り、目的の村まであと少しのところまで来ていた。
「もうすぐだな。俺たちが目指しているのはウルカ村という畜産の盛んな集落だ。そこに着けばきっと馬の一頭や二頭は手に入るだろう」
「ふう、結構歩いたね。だけど、ここまで魔物に出会わなくて良かった」
「魔物が出てこなかったのは魔物避けポーションの効果だ。俺がポーションで湿らせた綿を袋に入れたものを持ち歩いていることにより、周囲に魔物が嫌う匂いを充満させている。量が少ないため、人間の嗅覚では分かりにくいかもしれないが、魔物の嗅覚ならば気づいて逃げ出すだろう。他にも役に立ちそうな道具の様々が俺の荷物に入っている」
「例え半日の道のりであろうとも準備を怠らないその姿勢、私は素晴らしいと思います。見習わなければならないですね」
リィルに褒められて銀太郎は照れ臭そうにする。
銀太郎は卑屈になることも多いが、正当に評価されている時は素直に喜べる男だった。
「おや? ――皆さん! こちらに来て欲しいであります!」
一足先を歩いていたリッキーが慌てた様子で銀太郎たちを呼ぶ。
「なんだ? 村が見えたのか? 半日も歩き続けたから、はしゃぐ気持ちは分かるが、そこまで取り乱すことでも――」
「違うであります! 村が、ウルカ村が、壊滅しているであります!」
「なんだって!?」
銀太郎がリッキーの言葉に驚いて彼女の立つ場所からウルカ村を見下ろす。
ウルカ村はリッキーの言った通り、民家や牧場が意図的に破壊されていた。
ウルカ村の中心には天に向かって咲く、巨大な花の魔物が出現していた。
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