第7話 嘘吐きは薬草採取の始まり
「ししょー! 薬草いっぱい採れたよ!」
「どれどれ……これ全部ただの雑草だぞ」
「どれも似ていますが違う植物です。こちらが本物の薬草ですよ」
木漏れ日の差す森の中を歩き回る銀太郎たちはクエストで指定された薬草を探していた。
「はあ……もう疲れたよ~。薬草を摘むことがなんの修行になるの?」
ミィルはそう言って原っぱに寝転がる。
「薬草採取も立派な冒険者になるために必要な修行の一つだ。地味な仕事だが、僕たちの採った薬草で誰かの命が救われるかもしれないんだぞ」
「まさかししょーはそこまで考えて……よーし! 頑張るぞ!」
ミィルはやる気を出して薬草採取を再開する。
「(さて、隙を見て逃げるとするか。僕は一刻も早くこの国からに逃げなくてはならない身なんだ。ミィルとリィルには悪いが、この森なら危険な魔物も少ないし、僕が置いていっても自力で街まで帰れるだろう)」
銀太郎は薬草採取に集中するミィルとリィルに気づかれないようにそっとその場から逃げ出した。
「せんせー、薬草ですが、これだけあればクエスト達成には足りるでしょうか? ……せんせー?」
リィルがつまんだスカートの上に沢山の薬草を載せて銀太郎に尋ねようとするが、銀太郎の姿はどこにもなかった。
〇 〇 〇
「うわあ……小さい女の子を森に置き去りにして自分は逃げるとか最低のクズね」
逃げる銀太郎の荷物からソラリスの声が聞こえた。
銀太郎が背負った鞄の中から手鏡を取り出すと、ソラリスの姿が映し出されていた。
「女神様!? どうしてここに!?」
「君のことが心配だったからこっそり手鏡で天界と通信が出来るようにしておいたのよ。ところで君、本気であの子たちを置いていくの?」
「仕方ないだろ! 僕が無能だということをあの二人に知られる訳にはいかないんだ! それにようやく弟子からも解放されるんだぞ! このチャンスを逃してたまるか!」
ミィルとリィルは押しかけの弟子だった。
この二人の前での銀太郎は一人称も含めて割と素を出しているのだが、それでも、彼を偉大な勇者だと思い込んでいる二人に対して真実を話すことも出来ず、今までなんとかごまかしながら師弟関係を続けていた。
「(僕に弟子を取る資格なんてない。こんな駄目な師匠のことは忘れて、別の冒険者に弟子入りした方が彼女たちのためになるだろう)」
その時、銀太郎の背後で大きな爆発音が轟いた。
「なんだ!?」
森を抜けて街道に出た銀太郎は思わず足を止める。
街道の真ん中に止まっていた馬車から男性が銀太郎に向かって走り寄ってくる。
「すいませんそこのお方! 冒険者とお見受けしますが少しお願いが……って、こ、近衛銀太郎さん!?」
走り寄って来た男性は相手が銀太郎だと知って驚く。
「どうした? それよりお前は何者だ?」
「も、申し遅れました! 私は各地を旅しながら見世物小屋を営んでいる者です!」
「見世物小屋? 奴隷商人とかのことか?」
「ち、違います! それは偏見です! 私たちは国からも認可をいただいています!」
「そうか、悪かった。それで、お前の頼みとはなんだ?」
「ええ……実は私たちの商売道具である魔物の数体が檻から逃げ出してしまいまして……」
「それを俺に捕まえろということか。……断る。まずは冒険者ギルドにクエストを発注してくれ。(これ以上、面倒くさいことに関わりたくはないんだ。ここは理由をつけて逃げるしかない)」
「そうしたいところなのですが、逃げ出した魔物はこの辺りに生息する魔物よりも遥かに強く、もし、街の近くに出没してなんらかの被害を出したとなればその責任は全て私たちが負わなくてはならなくなるのです」
「自業自得だ。やっぱりきな臭いぞお前たち」
「そんな風に言われましても……こちら、謝礼は奮発いたしますので!」
男性は銀太郎に金貨の入った革袋を手渡す。
革袋はずっしりと重く、中に入っている金貨の総額はおよそ一か月の間は寝食に困らない程度の大金だった。
「(どうしよう。正直これだけあれば亡命に必要な資金の足しとしては充分なのだが……)」
「では、こちらに逃げ出した魔物の特徴を記してありますのでどうかお願いいたします!」
そう言って銀太郎は男性に一枚の紙を握らされ、男性は馬車に乗り込んで去ってしまう。
「……しまった!」
銀太郎が我に返って叫ぶが、馬車は遠く離れていってしまっていた。
「どうするのよ、こんな怪しい仕事を引き受けちゃって」
「お金も受け取ってしまったからなあ……」
銀太郎は握らされた紙を広げる。
紙には三体の魔物の情報が記されていた。
「猪の魔物パイア、蟹の魔物カルキノス、花の魔物アルラウネ、この三体は見つけ次第すぐに始末して欲しいと書いてあるな。だけど、アルラウネって僕も日本にいた頃にゲームで名前くらいは聞いたことがるけど、こいつも魔物なのか?」
「アルラウネは人間の姿をしているけど、種族としてはエルフやドワーフのような亜人という訳でもないからこの世界では魔物として扱われているわね。それはそうと、どちらにしても、この魔物を放っておくのはまずいんじゃないかしら?」
「なんでだよ」
「だって、この森にはまだミィルとリィルがいるかもしれないのよ?」
「じゃあ、もしかして、さっきの爆発音は――」
銀太郎は背後の森を振り返り、血相を変えて戻っていった。
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