ジャネット・トレジェリス?

 おいおいホームズ、「マスグレイヴ家の儀式書」の事件を忘れたのか?

 猟場管理人頭の娘だよ。依頼人というか君の友人のレジナルド・マスグレイヴに仕えていた聡明な執事ブラントンといい仲だったって子さ。

 もっとも、この事件は私が君と出会う前のことだから、私は面識がないんだけれどね。



【ネタばらしコラム】


注 この先「マスグレイヴ家の儀式書」の内容について触れます。未読のかたはご注意ください。



 グロリア・スコット号事件で頭脳明晰さを発揮して以来、ぽつぽつと大学の仲間から持ち込まれた事件を調査していたというホームズ。そんな彼の第三の事件が今回ご紹介する「マスグレイヴ家の儀式書」。ちょっと変わった暗号ものといったところでしょうか。

 儀式書が宝物の在り処を示していると気付いたのは、執事のブラントン。主人のマスグレイヴに隠れてこっそりと調査を進めていたところを見咎められてしまいます。

 このブラントン、なかなかいいキャラクター。いいといっても好人物というのではなく、悪役というかなんというか人物として非常に「立って」いるのです。

 頭脳明晰ながら執事という人の下につくという立場に甘んじ、内心になにか野心のようなものを抱えていそうで表面上は穏やかで知的。裏で主人の家の秘密を探り、主人を出し抜いて宝物を我が物にしようとする。おまけに女好きと、ホームズものには珍しく(?)書きこまれたキャラクター。

 この女好きというのが後半、効いてきます。宝を取り出すために恋愛関係にあったメイド、レイチェルを協力者にするのですが、手ひどいしっぺ返しというか女をもてあそんだ当然の報いというかを受けるのです。

 男女の生々しい愛憎みたいなものを描くには、当時のイギリスではこれが限界、ホームズものではやややり過ぎな感じもします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る