第13話 女神の転生計画

 命が生まれたその時から始まる【無に帰るもの】たちとの争い。

 いくつもの世界を生み、いくつもの世界が消えていく。

 

 女神は見ていた。

自身の生みだした世界が育つ様を、自身が生みだした世界が消える様を。



 いつしか女神は考えた。

 世界が消えないように、世界を壊させないように。

【無に帰るもの】たちを消すことはできない。

自身が生みだした存在を否定するには自身を否定しなければならないからだ。


 世界は生まれ、滅び、また生まれていく。

女神が生んだルールを女神が破ることは許されない。 


 その苦悩が【無に帰るもの】に力を与えてしまった。

力の均衡は崩れ世界は滅びに傾き出す。


 いつしかその力は女神に届きうるほど強まっていった。



「力をつけた【無に帰るもの】たちはついに女神へとたどり着きました。

自身を生み出した存在へ牙をむいたのです。」


「女神はそいつらと戦って?」

 俺の言葉にアンジェは首を振る。


「戦いませんでした。あれを滅ぼしてしまうと世界も消えてしまうからです。

世界を護るために、世界を滅ぼすものを護らなければならない。

その矛盾があの方を滅びに向かわせました。」

「わたしたちが生まれたのはその矛盾から解き放つため。

あの方の苦悩が奴らに力を与えたのと同時に、あの方の希望がわたしたちに力を与えた。」


「私たちは戦い、ようやく【無に帰るもの】とのバランスは保たれました。

女神様は私たちに世界を見守る役目を託し、無へ還っていったのです。」


 話が壮大すぎて理解が追いつかない。ただ、気になることが一つ。


「今この世界に女神はいない?」

「えぇ、現在はいません。」


 女神は世界を生みだすのに、女神はいない。

つまり新しい世界は生まれない?まずいのでは?


「お察しの通り、世界のルールはそのままです。【無に帰るもの】は世界を変わらず滅ぼし続けています。」

「でもわたしたちもいるわ。わたしたちは奴らを滅ぼすことができるの。」


 女神には奴らを滅ぼせなかったけど、アンジェたちはそのルールが適用されないのか。


「じゃあアンジェたちが戦いに勝てば世界はもう滅びることはないってこと?」

「勝てば、そうなります。」


 含みがある言い方だな。さっきは圧勝しているように見えたし、あのままなら負けることはないと思うんだけど。


「私たちに攻撃をしてくるのであれば撃退するのは難しくないのです。

ただ、お互いがお互いのいる場所を把握できないため、本能のままに滅ぼすだけのあれらと、守りに専念している私たちでは」

「いくらわたしたちの方が強くても後手後手に回ってしまうというわけ。」


 なるほど。力の均衡はある意味保たれてしまっているわけだ。

そこでさっき言っていた女神の転生計画の出番、なのか?

計画が成功すればそのバランスも崩れる……?

ただ、お互いの場所は把握できないのに襲撃されたのはなんでだ?……俺か?


「あいつらにとって俺は邪魔、なのか?」


 そう呟いた言葉にピクリとアンジェが反応する。


 何が奴らの邪魔になるのか。

 世界を滅ぼすことを否定する存在、女神。

 転生する俺、そして女神の転生計画。



「……俺は、女神の生まれ変わり?」


 だから奴らは俺を狙っていた?殺された記憶があるのも女神だったから?


「え?でも俺はもう死んでるんだけど。いや、このタイミングを待っていたってことか?

転生するこのタイミングを!?」

「ハジメさん。確かにあなたは女神様です。自身の生んだ世界のルールに従い、無へ帰りそして新たな命として生まれました。」


 そうアンジェが語り出す。


「輪廻の輪を廻り、新たな命として生まれたのがハジメさんです。それも最近まで私たちでさえ気づいていませんでしたが。」

「わたしたちが気づいたのはハジメが殺される未来を見たとき。」

「強盗に殺されるってやつか。でもそれは、」

「アンジェが無理やりねじ曲げた。」


 あれ?手違いって話じゃなかったっけ?


「気づいたときには、すでにハジメさんが殺されてしまう直前だったのです。

ここで死んでしまうと、また最初から探さなくてはならなくなります。

死んでしまうという結果は覆せませんが、死因だけでもどうにかすれば、と」

「そして焦ってパニックに陥ったアンジェはお餅を食べようとしてハジメは死んだの。」

「なんて?」

「アンジェがお餅を食べようしたらハジメは死んだの。」


 どういうことなの?

 確かに言ってたけれども、魔が差したとか言ってたけれども。

 あれは嘘じゃなかったんかい。


「打つ手が無かったんです。どうにもこうにもいかなくて、いったん落ち着こうとお餅を食べようとしたらハジメさんと取り合いになってですね。」

「おい。」

「あ、いけない!と思って手を離したら、そのまま勢い余ったお餅がハジメさんに吸い込まれて死んでしまいました。」

「結果オーライ」

「オーライじゃねーわ。明確にアンジェに殺されてるわ。」


 まぁ経緯はどうあれ輪廻の輪から外れた俺は、ここに来て転生することになった、と。


「輪廻から外れたことが切っ掛けで、【無に帰るもの】もハジメさんのことに気づいてしまいました。」

「だから俺を狙ってここにやってきた、と。」

「来る場所がわかるなら守るのは簡単。わたしたちの方が強いから。新しい世界に転生しても同じ。」

「重要なことは女神様を見つけることでしたから。」

「ちなみにあの強盗は【無に帰るもの】の転生体。本人も奴らも気づいてないけど、本能で女神を殺しに来る。」


 ヤマダァッ!お前、そういうことかコノヤロウ!

 あの世界で輪廻転生してもまた殺されるってことじゃん。


「まぁ俺が狙われる理由はわかった。それで計画ってどうするわけ?

女神を転生させるってことは俺が転生すればいいんだよね?」


 ん?そうなると俺は元々女神の転生体だったわけで、新たに転生させる必要はないのでは?

そもそも何のために転生させようとしてたんだ?


「ハジメさんにはそのまま転生していただく予定でした。それは今も変わりません。ただ、ハジメさんに言っていないことがあるのです。」

「言っていないこと?」


「ハジメさんに私たちの力を託していることです。」

「アンジェたちの力を?それって」


「女神の転生計画とは、女神様に私たちの力を持って転生していただくこと。

滅びゆく世界を救う力をあなたに託すことなのです。」

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