第11話

 私の目の前に、ガリガリにやせ細った子供がいます。

 わずかに身体を隠す、元は服だった襤褸切れだけを身につけています。

 身体中アカまみれで、異臭さえ漂っています。

 ボサボサの髪にはノミやシラミが湧いているでしょう。

 思わず後ずさりそうになりましたが、貴族の矜持がそれを許しません!


 意志の力を総動員して、その場に踏みとどまりました。

 最悪の状態だった私が、今は幸運に恵まれたのです。

 安全な居場所を手に入れたのです。

 もう衣食住の心配は不要になりました。

 工房をとして使える家は見つかっていませんが、眠るだけの部屋なら直ぐに確保できる立場です。

 貴族の責任を果たさないといけません!


「これをあげましょう。

 硬いですから、ゆっくりと食べるのですよ」


 私は魔法袋から保存食の兵糧丸を取り出してあげました。

 兵糧丸もウィリアム様とイライアス様に教わった保存食です。

 我が家にはない特別な保存食です。

 特別美味しいモノではありませんが、塩辛い干肉とカチカチの堅パンに比べれば、保存食ならごちそうといってもでしょう。


 ああ、ああ、ああ。

 ゆっくり食べなさいと言ったのに、むさぼるように食べてしまいました。

 乾燥していますから、喉が渇くのです。

 後でお腹の中で膨らむのです。

 苦しい思いをしてしまいますよ。

 ああ、むせてせき込んでいます。


「これを飲みなさい」


 あまりに苦しそうにむせるので、思わず抱きしめて背中をさすってしまいました。

 ノミやシラミが移らなければいいのですが、むりかもしれません。

 虫除けの香を炊き込んだ服を着ていますが、それだけでは防ぎ切れないかもしれません。


「これも運命の出会いだと思わないか、ウィリアム」


「またイライアスの運命論か?

 まあ、それでポーラに出会えたのだから、全面否定もできんな。

 分かった、認めよう」


「よかったな、ポーラ。

 その子の弟子入りを、普段は慎重なウィリアムが認めたぞ。

 もちろん最初から俺は賛成だからな」


 え~と、なにを言っておられるのでしょうか?

 もしかして、この子を私の弟子にするという事でしょうか?

 勘違いもはなはだし過ぎます!

 直ぐに反論しなければいけません!

 

 うん?

 マリオがニタニタと笑っています。

 お二人の家臣であるマリオがそんな笑い方をするというのは、私への謎かけです。

 なにが言いたいのでしょうか?

 ああ、そういう事ですか。

 この子を助けろ。

 この子を弟子にしろという要求なのですね。


 しかたありませんね。

 お二人がお節介なのは、助けてもらった私が一番知っています。

 同時に自分たちも利益を得るしたたかさもあります。

 ですがこの子にどんな利益があるというのでしょうか?

 まあ、そんな事は私の考える事ではありません。

 私は貴族の責任を果たすだけです!

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