第8話
「ああ、これはもっと慎重に書かないといけないよ。
わずかでもずれると、魔法の効果が減退するからね。
発動すればいいわけじゃないよ。
ほんの少しの効果の差が、生死を分けるんだよ」
ウィリアム様が魔術巻物の作り方を教えてくれます。
私も基礎的な知識はありましたが、自分で作った事はありませんでした。
ウィリアム様は基礎知識だけではなく、魔術巻物を実際に作れるのです。
いえ、それだけではなく、素材に何が必要なのか、素材の品質の見分けから加工まで、全てを知っておられるのです。
しかもその知識を惜しみなく私に教えてくれるのです。
本来なら長年仕えた弟子にしか教えない秘術です。
他人に教えるのなら、莫大な礼金をとる知識と技術です。
このご恩をどうやって返すか迷うほどの知識と技術です。
「おい。
余計な事は考えず、今は技を習得することに集中しろ!
お礼をどうしようか考えていたのだろう?」
全部お見通しです。
ウィリアム様は素晴らしい方です。
文武両道に秀でた稀有な存在です。
恐らく双子のイライアス様も同じ能力をお持ちなのでしょう。
それが家を出ることになるなんて、兄に疎まれたのかもしれませんし、家督争いに発展するのを父親が恐れたのかもしれません。
「いいか、この知識と技術を教える事は、俺たちにも利益があるからだ。
今教えているのは、私やイライアスにも可能だ。
だが魔晶石を埋め込んで使うほどの上級魔術巻物は、私やイライアスには絶対に創りだせないのだ。
ポーラに上級魔術巻物を創り出してもらうための練習であり、先行投資なのだ。
だからお礼など気にせずに、今は数をこなして速さと正確さを身につけろ」
「はい!」
そういうことなら、なんの負い目もなく知識と技を手に入れられます。
初級魔法でも威力の弱いモノなら、多く出回っている羊皮紙やインクでも創れますが、その威力と精度は、羊皮紙やインクの良し悪しで変わってしまいます。
これからの事を考えれば、自分で良質な魔皮紙や竜皮紙を作れないといけません。
もちろん描くために必要な血墨も品質が大切です。
「ウィリアム様。
将来的には良質の魔皮紙や竜皮紙を作れる職人が必要になると思うのですが、雇われるのですか?
それとも私が創れるようになった方がいいのですか?」
「ふむ?
余計な事を考えるなと言ったろ!」
「はい!
ごめんなさい!」
「だが大切な事ではあるな。
ポーラには狩りに同行してもらう必要がある。
獣皮紙や魔皮紙作り、血墨作りに集中してもらう事はできないな。
分かった。
今から職人を抱えて工房を開設しよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます