第8話

「え?

 いや、そんな事を申されても。

 アンゲリキ様はご存じないのでしょうが、私は親も分からない孤児なのですよ?

 サマラスの両親が孤児院から引き取ってくれたのです」


「大丈夫です。

 全て知っております。

 第一氏素性などその人の能力には一切関係ありません。

 私は何も知らない状態で、ひと目ヴァシレイオス様を見て恋しました。

 全てを知っても、この想いに変わりはありません。

 だからこそ、王太子との婚約を解消したのです。

 話を聞かれたことはありませんか?

 私から王太子に婚約解消を申し入れたこと。

 それはヴァシレイオス様にひとめ惚れしたからです!」


「いや、しかし、確かに、そんな噂を聞いた覚えはあります。

 ありますが、その頃アンゲリキ様は七つ八つではありませんか?」


「はい、七つでした。

 しかし女は七つでも女なのですよ」


「待って!

 待ってくれ!

 だったらなんで今まで黙っていた。

 今更なんでしゃしゃり出てくるんだ?!」


 ディミトリオス、無粋な男です。

 女が恥を忍んで自ら告白しているというのに。

 途中で邪魔するなんて無粋過ぎます。

 男のくせに嫉妬でしょうか?

 男の嫉妬ほど醜く汚いモノはありませんね。


「女が恥を忍んで告白しているのに邪魔するなんて、無粋な男ですね!

 男のくせに嫉妬しているのですか?

 今回はヴァシレイオス様にも聞いていただきたいので許しますが、次に邪魔をしたら騎士団から追放しますよ!

 ヴァシレイオス様、よくお聞きください。

 ステファノプロス侯爵家は竜神の末裔と言われています。

 それだけの力があるからこそ、世襲で騎士団長の役目が与えられているのです。

 父や兄とは剣を交えたことはありますか?」


「なるほど、それで分かりました。

 父上も兄上も、剣技はともかく常人離れした筋力と体力を持っておられました。

 私ごときの剣技では対応できない筋力と体力でした」


「はい、父と兄は普通の人間に比べれば、常識離れした強さです。

 でも圧倒的に人間の血が濃いのです。

 残念ながら始祖といわれる竜神の万分の一の力も受け継いでいません。

 ですがその分力の使い方を覚えるのが簡単なのです。

 ですが私は先祖返りなのです。

 始祖竜神に近い力を受け継いでいるのです。

 その力を使いこなし、人を傷つけないようにするにはとても時間がかかるのです。

 七歳の頃の私が、恋心のままにヴァシレイオス様に抱き着いてしまうと、ヴァシレイオス様を殺してしまっていました。

 だから、恋焦がれる想いを抑えて、領地でこの身体を使いこなせるように鍛錬していたのです」

 

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