第6話
「よく来てくれた、アンゲリキ・ステファノプロス。
そなたと会ったのはもう十年以上前であったか?
まだそなたは幼かったであろうから、覚えていないかもしれないな」
私を試しているのかしら?
それとも、本気で覚えていないと思っているのかしら?
それならキッチリと、絶対に思い違いしないように、思い知らせないといけませんね、国王陛下!
「いえ、よく覚えております、国王陛下。
あれは十年前、私が八歳の時でございました。
ステファノプロス侯爵家の真の次期当主として、先代の真の当主である祖母に連れられて、国王陛下にコンスタンティノス王太子殿下との婚約を解消していただくように、お願いに参った時でございましたね。
国王陛下は、あの時の祖母の言葉をお忘れになられたのでしょうか?」
「……あの時のヴァリシキの言葉は本当だといいたいのか」
愚かな男です。
報告が理解できていないのでしょうか?
それとも、どこかで意図的の報告が隠蔽されているのでしょうか?
報告されていたとしても、矮小化されている可能性もありますね。
仕方ありません。
この場でキッチリと思い知らせてあげましょう。
「ああ、貴男。
貴男は近衛騎士ですね。
国王陛下にどうしても知らせしなければいけない重大な話があります。
ちょっとこちらに来てください」
私がほんの少し眼力に力を注げば、胆力の足りない騎士など思いのままです。
「随分と立派なように見える鎧ですが、見せかけだけですね。
この程度の鎧では陛下を御守りできませんよ」
私は鋼鉄製の板金鎧を引き裂いてあげました。
少し爪を伸ばして、軽く撫でてあげればすむことです。
亜竜種どころか属性竜の鱗を切り裂く爪です。
鋼鉄程度なら薄紙同然です。
「国王陛下にはろくな家臣がおられないようですね。
私の爪から逃げる素振りすらできないのですから」
「「ウァァァァァァ!」」
ようやく悲鳴をあげることができましたね。
私に鎧を切り裂かれた騎士だけでなく、国王陛下も悲鳴ですか。
情けない男です。
あの腐れ王太子の父親だけはあります。
「国王陛下、祖母ヴァリシキが十年前に諫言した言葉を、今度は私が今一度申し上げさしていただきますね。
王城の城門は、腕龍よりも脆く、直ぐに破壊できるのでございますよ。
国王陛下のお首は、腕龍に比べればとても細く柔らかなのでございますよ。
どうしてもケンカを売りたいと申されるのでした、買わせていただきます。
それでよろしいのですね?」
「ま、ま、まて。
待ってくれ!
余は何も知らん。
余は何も知らんのじゃ!
全部王太子が勝手にやったことじゃ!
殺すならコンスタンティノスを殺してくれ!」
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