第5話

「さて、準備はいいかしら?」


「はい、準備万端整っております。

 相手が亜竜種の腕龍であろうと、直ぐに解体して魔法袋に収納いたします」


 表面上は凄く丁寧で、満面の笑みを浮かべていますが、内心では怒り怒髪衝天なのでしょう。 

 ステファノプロス侯爵令嬢の私に逆らえないと諦めているのでしょう。

 こういうところが、王都冒険者ギルドと各貴族家の冒険者ギルドが断絶しているのを表しています。


 私がどれほどの実力なのかは、我が領の冒険者ギルドに問い合わせればわかることなのに、そんな簡単な事もしていない。

 いえ、違うかもしれませんね。

 王家と戦うことになった時の事を考えて、自領の戦力は秘匿するのが貴族家の常識なのかもしれません。


「そう、それはよかったわ。

 事前通告しているにもかかわらず、貴重な亜竜種の素材を無駄にしたりしたら、ステファノプロス侯爵家は嫌でも冒険者ギルドを訴えなければいけなくなるもの。

 その心配をしなくていいのは喜ばしい事ね。

 ではアタナシアス、後は頼んだわよ」


「お任せくださいませ、アンゲリキお嬢様」


 王家との交渉役のアタナシアスが、自信満々請け負ってくれました。

 この場にいながらいないことになっている王家の特使も無言でうなずいています。

 これで何の心配もありません。

 後は私が実力を披露するだけです。

 領地内でも抑えていた真の能力の一端を見せつけてやります!


 私なら、ドレスを着ていても亜竜など簡単に狩れます。

 ですが人前でそんなはしたない真似はしません。

 ちゃんと狩猟用の衣装を着ています。

 眼にも止まらに速さで移動して、目に留まった魔獣の血管を切りさき、血を噴出させながら元の場所に戻ります。


「亜竜をおびき寄せるから、魔法袋に入れてはダメよ」


 嫣然と微笑む私を、冒険者ギルドの者たちは恐怖に顔を引きつらせてみています。

 王家の特使も真っ青になっています。

 この程度で怖がってもらっては困ります。

 これからが本番なのです。

 私は手当たり次第に魔獣を狩って、特使の前に積み上げていきました。


「こいつの血は魔道具の触媒に使えたわね?

 こいつは魔法袋に入れておいてちょうだい。

 あら、そろそろ集まってきたわね」


 私が狩った百キログラム級の亜竜、鉤竜を見て腰を抜かしている者がいます。

 王都の冒険者ギルドはレベルが低すぎますね。

 さあ、これからが本番です!

 血の臭いに引き寄せられてきた、強力な肉食系の魔獣や亜竜を狩って、私の実力と怒りを理解させなければいけません!


「私の誇りを踏み躙ろうとする者は、この腕龍のように首を捩じ切ってやります。

 必要ならば、他国の軍勢の先頭にたって、一族一門皆殺しにしてあげましょう!」

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