「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集3

克全

謎多き侯爵令嬢は恋した騎士団長に執着する。

第1話

「ヨアンニスがしくじった。

 儂も連座で騎士団長を引退しなければならん。

 場合によったらステファノプロス侯爵家が潰されるかもしれない。

 王太子がお前を望んでいる。

 家のために身を任せてきてくれ」


 突然の話です。

 身勝手極まりない話です。

 兄の失敗を償うために、妹の私が王太子のオモチャにされる。

 普通の貴族令嬢なら涙を呑んで従うのでしょう。


「冗談は休み休み言ってください。

 本気で言っているのなら、父親でも殺しますよ。

 ヨアンニスのしくじりなら、ヨアンニスに責任を取らせるべきでしょう。

 そもそも私は、王太子が嫌いだから婚約を解消したのです。

 その婚約解消を根に持ってヨアンニスを落とし入れたのなら、断固として王太子に抗議すべきです。

 貴方ができないのなら、私がやってあげましょうか?

 なんなら王太子の生首をここに持ってきてやってもいのですよ!」


「これがお前の言うように、王太子の陰謀ならば、儂も突っ張っていた。

 だが今回は間違いなくヨアンニスのしくじりだ。

 この責任は取らねばならん。

 どうやらヨアンニスのバカは恋したようだ」


 ああ、そういう事ですか。

 ならば仕方ありません。

 冷酷非情を本性にもつ我がステファノプロス侯爵家ですが、恋する相手にだけは情熱を注ぎます。

 父母兄弟にも愛情を持たず、平気で見殺しにするステファノプロス侯爵家ですが、恋する相手にだけは愛情の限りを尽くすのでです。


「で、恋に狂ったヨアンニスはどんな失敗をしたのですか?」


「事の起こりは、ヨアンニスがアイカトリーニという名の売春婦に恋した事らしい。

 第二王子のパナギオティス殿下を戴冠させ、我が家を追い落とそうししていたカポディストリアス侯爵家は、ずっとヨアンニスを調べさせていたのだ。

 アイカトリーニにヨアンニスが執着したと知ると、即座に売春婦を養女にしてヨアンニスを味方に引き入れたのだ」


 あの無能が!

 女にだらしないうえに、状況判断もできないのか!

 ですが、これは我が一族の宿痾なので仕方がありません。

 私にも経験がありますが、恋心に抵抗など不可能なのです。

 我が一族が恋に狂って常軌を逸した行動をするのは、名門貴族家では常識です。

 カポディストリアス侯爵もその事を知っていたのでしょう。


「それで、謀叛に失敗して、カポディストリアス侯爵家に味方した者は、全員処罰されるという事ですが。

 だったらそれでいいではありませんか。

 私には関係のないことです。

 私にまで罪を問うというのなら、他の国に亡命するまでです。

 その国がアンドレウ王国に侵攻するというのなら、喜んで先兵を務めましょう」

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