第25話
大分遅くなったから、二人は広場から立ち去ることにした。時間的に、もう電車には乗れないかもしれない。これから歩いて帰るとなると、一時間半ほどかかる。それでも、月夜は、それが当たり前とでもいうように、歩いて帰ろう、と真昼に提案した。真昼は、彼女がそう言うだろうと予想していたから、特に反対しなかった。というよりも、ほかに帰宅する方法はない。帰宅しない、という選択肢もあったが、さすがに、それを実行するのは気が引けたし、月夜と違って、真昼には両親がいるから、帰らないと、心配されるかもしれない。といっても、彼の両親はほとんど家にいない。家にいる時間帯も不規則だから、帰ったとしても、一人でいる可能性が高かった。
数時間前に歩いた道を戻って、学校の前に到着する。当然、窓に明かりは灯っていない。正門には鍵がかかっていた。しかし、いつも月夜が出入りしている裏口だけは、今日も開いている。どうして鍵がかかっていないのか、係の者が確認していないのか、そもそも管理人がいないのか、すべて謎だった。月夜一人のために開いている、とは到底考えられない。けれど、それが月夜にとっては利益になるのだから、まあ、なんでもいい、と彼女は考えていた。
「ねえ、今度、僕の家に遊びに来なよ」真昼は歩きながら言った。「きっと、面白い発見が沢山あるよ」
「さっき、そう言われたばかりだよ」月夜は呟く。「沢山、というのは、どれくらい?」
「君が自宅にいるときよりも、多い、とは、いえるかもね」
「うん。分かった。じゃあ、今度行く」
「ああ、楽しみだなあ。君が僕の家に来るなんて、もう、想像しただけで悶てしまいそうだよ」
「ごめん、意味が分からなかった」
「うん、そうだろうね」
「君の家には、何があるの?」
「何、というのは、物について訊いているの?」
「なんでも」
「うん、まずね、高級感がある」真昼は笑いながら話す。「豪邸ではないけど、まあ、一般的な家よりは、少し上をいっている、と思うな」
「うん、いいね」
「いいだろう? あ、もしかして、君も一緒に住みたい?」
「一緒に住んでいいの?」
「君さえよければ、いいと言ってくれると思うよ、うちの両親は」
「じゃあ、一緒に住みたい」
「え、本当?」真昼は驚いて、月夜の顔を見た。
「君が、そう言ったんじゃないの?」
「いや、まあ、そうだけど……。……まさか、本当に了承してくれるとは、思わなかったから」
「じゃあ、やめる?」
「いや……。……ああ、じゃあ、こうしよう。数日間、まずはお試しで住んでみる、というのはどう?」
「いいよ」
「えっと、じゃあ、来週くらいからどう?」
「テストが終わってから、でもいい?」
「あ、いいよ。君にとって、テストの重要度は高いみたいだね」
「そうかな」
「そうだよ、たぶん」
「やらないよりは、やった方がいいと思う」
「その通りだ」
「君は、明日、学校に来る?」
「たぶん、行くと思うけど。どうして?」
「もう、眠くて、起きられないかな、と思って」
「今日は、もう寝ない」
「そっか。でも、大丈夫?」
「きっと」
「私は、寝る」
「うん、そうした方がいいよ。特に、女性なら、もう少し健康に気を遣った方がいい」
「分かった」
空を覆っていた雲が晴れて、巨大な三日月が姿を現した。気分は魔術師、合言葉は月夜。どこかで蝙蝠が鳴いていたが、その声は二人の耳には届かなかった。
月が沈めば、太陽が昇ってくる。
月夜が終わって、真昼が始まる。
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