カーニスギリアムの肖像

@nakatomi-yuka

第1話 1日目A:リノリウムの床を歩きながらに


★ この物語は、「主人公」と「ヒロイン(?)」がダラダラと無駄話をするだけのお話である ★


【 1日目 】


 ここはとある「研究施設」。

 一般的には「総合病院」で通っている普通の建物であるのだが、そこの3階から上の階の一部には「研究施設」が存在していた。

 そして今、そこにある「特別室」へと向かっては二人の男女が歩いていた。

 男が問う。

「一つ聞くけど“患者”の事はいったい何と呼んだら良いんだい?」

「そうですね~……」

 言われて“ふわふわな髪の毛”をした若い娘が

「先生のお好きなように呼べば良いんじゃないんですか♪」

 と「にっこり」笑顔で答えを返した。

「確かにそうかも知れないけれど……、しかしあの“長ったらしいお名前”が“本名”って事は無いだろう?」

「本人からは“そう”聞いていますよ? あの人、私の事が嫌いなのか、あんまり(自分の事を)語りたがらない人ですし……」

 女は少し「しょんぼり」とした。

 男が言う。

「けれど“彼女”とは“言葉が通じない”ってワケでも無いんだろ?」

「勿論です! ……ですが“彼女”は“年齢”、“学歴”、“家族構成”等を含めても“テキトーな事”しか言わないのです。 タチバナ先生の“前の先生”も、その事に嫌気が差したのか五日目で仕事を降りています」

「テキトーねぇ……」

 男はカウンセラーをやっていた。 男は今からカウンセラーとして“彼女(患者)”と会う事になっていた。

「“事前情報”としましては、彼女、黒髪の美人でありますよ♪」

 女は笑顔でそう言った。

「そう言えば、まだ君の名前を聞いて無かったが、ボクは何と呼べば良い?」

「“助手”と呼んで下さいな。 私は“先生の助手”なのです♪」

 助手は笑顔でそう言った。


 男と助手の二人はその後「特別室」の前までやって来ていた。

 そしてナース(看護婦)姿の助手君は「特別室」のドアを背にしては男に対してこう言った。

「それでは改めまして“ルール”をお伝えしたいと思います。 『特別室』の中は『壁』にて半分に仕切られており、その中央部の一部にのみ『ガラスの板』が嵌め(はめ)込まれています。 『ガラスの板』の“こちら側”と“あちら側”には『テーブル』と『椅子』が置かれてあり、先生はその椅子に座っては“ガラス越し”にて患者様との接触を行う事になります。 また、会話はテーブルの上に置かれてある『マイク』を通して行われる事になります。 そして先生と患者様との遣り取り(やりとり)は全て“録音・録画されている”という事をご理解下さい」

「ああ、分かった」

 これは前日にも男へと伝えられた事である。 男は昨日ここの「施設」へとやって来て、頭がボーっとしていたのではあるのだが、話の内容くらいは覚えてた。

 助手は言う。

「次に先生が部屋の中へと入った後の事ですが、“彼女”は先生が席へと着いた後から部屋の中へと入ります。 暫く(しばらく)すると『ピー』という音が『スピーカー』から聞こえて来ます。 そうしたら開始の合図です。 『ピー』という音は“彼女”が任意で鳴らします。 それまでは“目を閉じる等をしてゆっくりと待っていて欲しい”と……彼女側からの要望です」

「了解した」

 助手は言う。

「部屋の中には先生の好きな『ドリンク』と『キャンディー(チャイナマーブル)』の入れられたビンが置かれています。 お好きなタイミングにてお召し上がり下さい。 それとテーブルの下には“いざという時”の為の『非常ボタン』が設けてあります。 万が一の際にはお使い下さい」

 助手は軽く頭を下げた(一礼をした)。 そして助手は続けてこう言った。

「それでは先生、何か質問事はありますか?」

 男は少し考えてから、助手に対して尋ねてみせた。

「つかぬ事を伺う(うかがう)が君は普段からそんな格好をしていたかい?」

「えっ……?」

 男の不思議な問い掛けに助手は一瞬キョトンとした。

「(仕事着ですから)私服の私とは違ってますよ♪」

 助手は「あはは♪」と笑ってみせた。

「ふむ、そうか。 変な事を聞いてしまって済まなかったね。 なんだか以前に君と何処(どこ)かで出会っていたような気がしてね……」

 男は仕事の激務が原因なのか、時々自分の思考が「変」になってしまう事を自覚していた。 そして少し“こっ恥ずかしく”なっている男に対し、今度は助手が尋ねてみせた。

「先生は今回の仕事を終えた後、何か御予定はお有りなんです?」

「プライベートな質問だな?」

「あ! いえ、その……すみません……!」

 助手は顔を赤くしては汗掻きながら、フニャフニャ声にて狼狽えた(うろたえた)。

 男は「かわいい娘だ」と思いながらに正直に答えてみせていた。

「そーだなー。 取り敢えずは実家に帰ってみせるかな」

「ご実家ですか?」

「ああ。 もう随分と顔を合わせていないから、たまには親孝行でもしようかな~と思ってね♪」

 それが男の“成すべき事”だった。

「家族思いで優しいんですね♪」

「(ボクに)惚れるなよ♪」

 男は助手にウインクをした。

 すると助手は「笑顔」で応えてみせたが、それから急に真面目な口調にて男に対してこう言った。

「先生……カウンセリングの件ですが、上からは“出来たら7日以内にお願いします”とのご依頼です」

 男も助手の変化に気付き、鎌を掛けてはこう言った。

「7日間……。 まさか7日目にはボクか患者のどちらかが“処分される”とかじゃあないだろうね?」

「まさかっ!?」

 助手は驚き、声を上げた。

「ははは、冗談だよ。 けどまあボクも“無期限でするべきではない”と思っているよ。 いくらカウンセリングと言ってもね、患者さんと一生向き合っていくってワケにもいかないからね。 出来るのならば期日を設けるべきである。 なるべく早くに解決をする。 医者が“一人しか居ない”ってワケでもないからね、患者さんもまた自分にあった医者を探すべきでもあると考えてるよ」

 それが男の持論であった。

「まあ良い。 ボクはお金が貰えればそれで良い。 あとは……“慢性的な頭の痛み”が悩みの種かな?」

 男はフリーの「カウンセラー」をやっていた。 要望があれば現地へと飛び、そこで“患者を助ける”という事を仕事としていた。 最近仕事が忙しく、慢性的な“頭の痛み”を感じていたが、「これは高給の為だ」と自分に言い聞かせる事にした。

「先生……大丈夫ですか?」

 助手は心配そうに言って来た。

「ん、ああ……、大丈夫だ」

 そう言うと男は「すうっ……」と深くに深呼吸、そして軽く右手を上げてみせては、助手は応じて“横”へと移った。

『よしっ!』

 男はそう意気込むと、「特別室」のドアに対して手を掛けて、部屋の中へと入って行った。

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