斯くして僕は、彼女の「笑い」の弟子となる。
著者。
純然たる第一話
01.プロローグ
人の心を掴むにはまずは何事も「出だし」が肝心だと思う。
そして僕が置かれている今のこの状況が、まさにその「出だし」に当たる。
それは話術であれば、声の抑揚や身振りや手振りで多少の誤魔化しができるけど、文章だけで人の心を掴むのは誤魔化しができないぶんそれなりに難しい。
だから僕は次の言葉をもってして、本書の「出だし」にしようと思う。
僕の青春時代は次の言葉で要約すことができる。
「それは上司がお勧めする、アニメ映画のようである」
そのこころは、
「面白くなくても、面白いと言わざるを得ない」
上手いことを述べているつもりだけど、ニュアンスは伝わっただろうか?
つまり、これよりお贈りする僕の青春時代の物語が、いかに面白くなくても、僕からしたらそれはとても面白くて愉快な物語だったと断言しよう。
騙されたと思って読んでみなされ、ひょっとしたら面白いかもしれない。いや面白いと言って欲しい。できれば感想を伺いたいので、今夜一緒に飲みに行こう。そしたら君はこういうだろう「面白かった」と。
余談が過ぎた。本題に戻るとする。
それは、携帯電話がガラケーでテレビはアナログ放送だったこの時代、僕らは十代そこらの若者で青春時代のまっただなかにあった。
当時の世相は今よりお笑いに熱があり、僕もお笑いを熱心に研究していた。
お笑い芸人の真似事をしたりして、クラスメイトを良く笑わせていたものだ。
自分で言うのもあれだけど、クラスの人気者だったりしたのだろう。
そんな僕だけど、ただ一人だけ苦手とするクラスメイトの女子がいた。
その女子の名前は、
変わった名前に見えるけど、それは彼女のプライバシーにも関わるので偽名にしたからだ。ただ、字面に彼女の性格が多少なりとも反映しているのは少なからず否めない。
とにかく彼女は僕がどんなに面白いことをしても一切笑顔を見せなかった。何ならすました顔をしてそっぽを向くし、時折僕を親の仇も同然に睨みつけるくらいだ。
そんな強気で勝気な彼女はクラスで少し浮いていたように思う。
髪の毛も甘栗色で、目鼻顔立ちがはっきりとした浮世離れの美人であったので、もとより浮いていたのだ。
僕はそんな彼女が好きだった。
前述した僕が彼女を苦手というのは実は建前で、クラスのみんなを笑わせるよりも彼女一人を笑わせるほうが何よりも得難い価値があると思っていた。当時の僕はそればかり考えていて他は何も見てなかった。
それでは次項より、鬼武羅サクラとの当時の関係性を決定づける、ある重大な出来事から振り返るとする。
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