015(クラッカー)

ピピー! キックオフのホイッスルだ。


バサラのバイタルなら楽勝だ。徳川バサラの全盛期とそう変わらない。相手チームのゴールに次々と襲いかかる。仲間のラフなスルーパスに反応して得点を上げる。その後もバサラのコーナーキックから得点が生まれた。小森はキーパーで宇宙人の猛攻を凌いだ。


ーー90分後、結果は2対1で、バサラのチームが勝った。バサラはセンターフォワードの役割を果たした。


「小森さん、楽しかったよ。何度もファインセーブして、失点を1に抑えた」

「ゴールキーパーが好きでしてね。失点は滅多にないんですよ。炬燵に入ってVRゲームをするのが、唯一の楽しみだ」

「地球が氷河期に入ったとはいえ、まだ夏だ。寒い所に住んでるんだな」

「日本ですよ。標高が高い所だから」

「まるで、クラッカーの生活だね」

「えっ? あっ、…………そっ、そんな訳ないじゃないですか」


小森昴は嘘が下手だ。間違いなく、クラッカーだ。


バサラは考える。小森昴という奴を仲間に入れるか。出来るクラッカーなら間違いなく。


「どう? 俺に協力するなら、罪を帳消しにできるかもよ」

「何の事やら…………それに、協力ってテロじゃないだろうね?」

「俺は、アンタレスの隊員なんだよ」

「アンタレス!? それなら、前科を取り消してくれる?」

「やっぱり、クラッカーか」

「しまった!…………」

「大丈夫だ。悪いようにはしない。ウェアラブル端末に着信履歴があるから、追って連絡するよ」

「あの…………、言いにくいんだけど」

「断るのか? いい取引だと思うけど」

「そうじゃなくて。プレー中に君の口座から50万円を抜き取ったんだ。済まない、返すから」

「1失点の訳はそれか。返してくれるなら、目を瞑ろう」

「そうかい、悪かったね。で、僕は何をしたらいい?」

「今は地球を救う、とでも言っておこう」

「何やら面白そうね」

「じゃあ、落ちるから。またな」


バサラは、カネを盗られたにも関わらず、上機嫌でヘッドマウントディスプレイを外して、VRゲームを強制終了させる。小森昴が出来るクラッカーと見込んだからだ。時計を見ると、0時を過ぎてる。バサラは寝室へ行く。


「寝る。間接照明と快眠ミュージック」

『かしこまりました』

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