013(オリジナル・バサラ)

「テレビを点けて。番組はニュース」


バサラは腕時計型ウェアラブル端末に、そう言うと壁掛けテレビの画面が映る。〝彼女〟は答える。


『11分32秒後に今夜のニュースが放送されます。それまでサッカー日本代表の試合か討論番組はいかがでしょう?』


彼女はバサラの趣味嗜好を理解している。


「討論番組にして」

『かしこまりました』


パッと、画面が切り替わる。司会のじいさんと中年のコメンテーターが白熱してるようだ。


「トラピストの使徒に参政権を与えるべきです! 彼らが居なかったら、地球は滅んでいた!」

「そんな事したらねえ、文明が滅びますよ!」

「文明が進化するだけです! 地球温暖化を阻止してくれたし、トラピストの使徒が手を加えなかったら小惑星アポフィスの衝突は確実だった!」

「でもねえ、地球は寒冷化しすぎたんですよ。北極、南極の周辺は毎日、ブリザードが吹き荒れてる。これが進んだら、本当に文明崩壊ですよ」

「だから、北米のシェールガス等の化石燃料採掘や牛を大量生産してるんですよ! 温室効果ガスを増やすために」


バサラはポカンとしてしまった。


「牛を大量生産って、まさか牛のゲップの事か。メタンガスを撒き散らす作戦はまだやってるんだ、アハハ。ーーサッカーに替えて」

『かしこまりました』


テレビのチャンネルが替わる。ちょうど、ハーフタイムだ。ビールのコマーシャルをやってる。


「ゴクッと、一杯! お酒は人類の進化と伴に!」


一通り、コマーシャルが終わり、中継に戻って、ピッチが映る。


「それでは、3年前に亡くなった日本の英雄、徳川バサラさんの全盛期のゴールシーンをどうぞ」


バサラのオリジナル……。バサラは何か変な気分だ。バサラは、この人のDNAにトラピストの使徒から取ったDNAを混ぜて造られた。コードネーム:プロトタイプ・バサラ。トラピストの使徒が地球で自然に暮らせるように、実験材料として生を受けた。


オリジナルのポジションはセンターフォワードで、次々とゴールを量産していた。左右どちらの脚でも正確な弾丸シュート。188センチメートル、90キログラムの日本人離れした体格でフィジカルも凄い。ドリブルで相手ディフェンダーを手玉に取るように交わしていく。裏への飛び出し、スペースの使い方が上手い。100メートルを9.8秒台で走り、90分間疲れ知らすの体力。リーグ戦1シーズンで、100得点を超えることもざらだった。強豪揃いのヨーロッパリーグを渡り歩き、優勝請負人とまで言われた。実際、ワールドカップで徳川擁する日本は金メダルを取っている。


バサラは違和感を感じた。


「既視感? 何だろう。最近、どこかで…………」

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