008(直属の上司)

ーーバサラは気絶から目を覚ます。陽の光、白い天井、白い壁、腕に繋がっている点滴。病院のベッドだ。


「気が付いたか、バサラ」


渋いダンディーな声。


「その声は、キノさん?」

「休暇中なのに災難だったな。無意識にチェーンをシールドにして爆風を防いだのだろう。数ヶ所の骨折だけだ」

「俺はどれくらい眠っていた?」

「えーと、3日ほどだな」

「そうか、それなら骨は治ってるな」


バサラは上半身を起き上がらせる。キノさん。ちょび髭にアンタレスの刺繍が入ったキャップを被っている。キノ・ベロッキオ少佐だ。バサラの直属の上司。


「事件の前に何をやらかした? 刑事が外で待っているぞ」

「ちょっとインゴットを。アハハ」

「はぁ~…………」


キノさんはため息を吐き、話を続ける。


「金に手を出したのか。笑い事じゃないぞ」

「宇宙人が隠してたインゴットだよ」

「宇宙人が? 上がどう判断を下すか微妙だが、謹慎と減給が妥当だな」

「そんな~」


ウィーンと、病室の自動ドアが開く。バサラは刑事が入ってきたかと思い、身構える。しかし、入ってきたのは、アンタレス情報部の紅牡丹(くれない・ぼたん)だった。軍服が似合わない、今どきの女の子だ。


「バサラさん、気が付いたのね。刑事さん達には、帰ってもらったよ。ちゃんと回復したら、出頭しろってさ」

「刑事が牡丹の口車に乗るとはな」

「勝手に帰ってったよ。何か右手を切り落とされた男がいるとか言って」


バサラはドキッとした。闇サイトの集まりで裏切って、チェーンのナイフで手首を切り落とした奴だ。謹慎と減給じゃ済まないかもしれない。


「最近、宇宙人が金を集めてるって噂知ってる?」

「牡丹、本当か?」


キノさんは食いぎみに聞く。


「あくまでも噂だよ。情報部で囁かれてる。母船の燃料になるんじゃないかって。他の鉱物も」

「取り敢えず、俺は警察署に出頭するよ」


バサラはベッドから起き上がろうとした時によろけて、キノさんが手を差し出してくれた。


「大丈夫か? バサラ」

「すまん」

「バサラさん、まだ無理よ。あんな大爆発に巻き込まれたんだから」


バサラは何とか立ち上がる。


「大丈夫だ。ハイブリッドは伊達じゃない。爆発の被害状況は?」

「警官29人が死亡、1人が意識不明の重体よ。民間人に被害は出てない」

「そんな…………。あっ! チェーンのセンサーで索敵した時に宇宙人は拳銃みたいな小型の得物を撃った。新兵器かもしれない」

「詳しい話は警察署に行った後だ。私が同行しよう。牡丹は基地に帰りなさい」

「はーい」

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