白皙の少年

滝沢明矩

樹上

 少年たちは樹の上にいた。

「おい、確かなのか? 青い鳥が今日来るって」

「さあね。僕の予測では、今日か明日かな」

「憶測を言うなよ。俺をバカにしてるのか?」

「無茶を言わないでくれ。なんたってここ三日食事を摂ってないんだ。頭も回らないよ。それに、眼鏡も落としたばかりなんだ。もしも、青い鳥が来たって、ぼくにはふつうの鳥と判別がつかないかもしれない。ぼくは目が悪いからね。捉まえることだって、むづかしい。ぼくはここにいるだけだよ。ぼくはここにいる」

 赤い髪の少年は傲岸に笑い、

「俺が殺してやるよ。仮に酷い抵抗したらな」

「よせよ。君の髪が泣く」

 一方、ブラウスにカーディガンの黄金の髪の少女は、

「ねえ、今日来るって? 青い鳥」

「腹ペコのあいつが言うんだ。信憑性は薄いな」

 灰色の瞳の少年がいった。凄みのある笑みを浮べて。

「何笑ってんの? きもちわるい」

「いや、俺の霊感が言うんだよ。うしろに気をつけろってさ」

「どーゆー意味よ、それ」

 細身の少年が、視線をあげて、流れ来る雲を眺めた。

「まだか? 俺の青い鳥は」

 ヘッドフォンを無造作に頸元に垂らした少年が、言葉を続けて、

「なあ。まだか? って聞いてんだよ、俺の青い鳥」

「何苛ついてんの、あんた。今日来るって話じゃない。もうちょっと待てないの? あいつが眼鏡落としたのだって、あんたが急に大声出すからでしょうが。全く、ちょっと青く見えたからって、そこまで大騒ぎするかなあ? もう何週間になるけど、あの男が言ってたじゃない。気長に待ちなさいって」

「うぜーんだよ、あの男。俺たちのこと、監視してる」

「はあ? どうやって?」

「望遠鏡」

「うっざ……」

 ヘッドフォンが風に揺れた。

「ほんとに今日来んのかよ。こんなに風が強いってのによ」

 ぽっちゃり体形を彼女は隠さず、

「あたし、ちょっと太ったかな……」

「聞けよ、話を」

 ふと、少年たちは目を上げた。風が、やんだ。

 誰かの携帯デバイスが鳴った。小屋の窓辺のベッドから、男がいった。

「すまないが、急用が出来た。作戦は中止だ」

「そうか。まあいいだろう」

 青い鳥は捉まった。少年たちは笑いあった。明日もまた、青い鳥を、待てる。いつか、必ず、しあわせの青い鳥が見つかる、と。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る