異端の王と巡る世界
麒麟山
第1話 新しい名前
どうして我をニクムッ!どうして我をコロスッ!
暗い神殿のような場所でおよそ人とは言えない風貌の怪物が咆哮する。
広く暗い儀式場のような場所ではおびただしいまでの兵士の死体がそこら中に広がっており、尚もその数は増え続けている。
「いい加減諦めろ!どうせ貴様は死ぬっ!」
「これまで何人もの人間を犠牲にしてきておいてふざけるなっ」
「お前がいなけりゃ国は滅ばなかったっ!」
口々に我を罵倒する声が聞こえる。何故だっ!我はただ生きたかっただけナノニッ!殺そうとしてきた奴らを殺してきたダケダッ!
「おぉっ!異端審問会が来たぞ!これで貴様は終わりだっ!」
「もう逃げられはせんぞっ!大人しく死にやがれっ!」
すると奥の方から何やら黒ずくめのフードを被った集団が近づいてくる。
「お前が『国潰し』か」
「なんと醜い」
「醜悪な」
鎌や剣や槍など、様々な武器を携えた十人程の異形な集団が淡々と怪物に向かって悪態をつく。
「我はただ生きたいダケッ!殺される前に殺したダケッ!貴様らのほうこそミニクイッ!自分らの都合しか考えぬ偽善者ドモガっ!」
「怪物の言うことなど聞くに耐えん」
「然り」
「貴様には最古にして最強の魔術で冥土に送ってやる」
「灰すら残さん」
すると異端審問会と呼ばれた集団は何やら詠唱を唱え出し、前方に幾何学模様の魔法陣を浮かび上がらせる。
「クソガァァァァァァァァァッ!」
怪物もそれに応じて魔法陣を前方に発現させる。
「永遠の消滅を」
「「「「「「永遠の消滅を!」」」」」
眩い断罪の光が怪物を覆う。怪物は一切の断末魔さえ残さずにこの世から消滅した……。
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「あれ、ここワ……」
気がつくと狭い道路に佇んでいた。あたりは暗く、高い壁に両側を囲まれていた。なんだここハ。どうなってイル?
自分の体をよく見ると人の体のようだ。それはかつて人であった時の最初のカタチ。
「おいっ!なんだこいつっ!どこから現れやがった!」
「裸じゃねぇか。変態か?」
「まぁいい、目撃者は消せって命令だ。さっさと始末しろ、俺は上にこの件を報告しておく」
三人組の黒い服をきた男が離れた所にいて、地面には血まみれの、死体らしきものが横たわっていた。
「悪いな、にぃちゃん。悪く思うなよ?」
「つーかなんでこいつ裸なんだ?」
二人組の男が知らない言語でこちらへ向かってくる。もう一人の男は四角い小さな板を耳にあて、虚空を見ながらぶつぶつと何かを喋っている。あれはナンダ?
「お前たちはナニモノダ?ここはドコダ?」
「あぁん?こいつ外人か?それにしては聞いたことのない発音だが…?」
「まぁちょうどいい。ここでは外国人の行方不明者なんてザラだからな。後始末が楽だ」
ナンダ?何を言ってイル?しかし、死体のようなものがあるなら好都合だ。こいつに聞くとシヨウ
魔法陣を横たわっている死体らしきものに発現させ、その存在ごと魔力に変換する。そしてそのものが持つ情報が、記憶が、一気に流れ込んでくる。
「なんだ?だんまりか?まぁ言葉がわからないなら仕方ねぇ。とりあえず……」
黒服の男の一人が腰から黒い変な形の突起物をこちらに向ける
「死ね」
あァ、わかル。何度も聞いたそのコトバ。こんな訳のわからない場所でも、自分の境遇は変わらナイ。どうして自分の周りの人間は我を殺そうとするノカ。だがどうしようもナイ。殺さなければ殺されるダケ。だから俺はっ!
「お前がシネ」
二人組の男の地面に魔法陣を出現させ、地面から数本の槍を高速で出現させる。
「グボァァァァッ!」
「ガハァァァァァッ!」
二人組の男は身体中を何本もの槍で貫かれて絶命した。
「な、なんだ?何が起こってる…?」
離れた場所にいた男がぽかんと口を開けたままこちらを見つめている。すると、やっと状況を飲み込めたのか、男は腰からさっきの男が向けてきた黒い突起物をこちらに向けてくる。
「このバケモンがっ!何をしやがるっ!」
「あぁ、それ銃っていうんでしょ?すごい武器だよね」
手を突き出し、男の背後に魔法陣を発現させる
「でもそんな武器じゃあ俺には通用しないよ」
「ゲホッァァァァァァッ!」
またも魔法陣から数本の槍を高速で出現させ、男を絶命させる。絶命を確認し、魔法陣を消すとあたりは閑静な路地裏に戻り、三人の男の死体と裸の男という奇妙な光景が出来上がった。
「うーん、死体からある程度の情報は読み取れたけど完全にはまだまだだなぁ…、魔力もこの世界は存在しないみたいだし…。仕方ない、とりあえず住むとこ探すか…」
男は気を取り直したようにその場を後にしようとする。
「あ、死体を片付けないとね…。こいつらの情報は…いらないや、全部魔力に変換しとこう。服はこいつらから借りるとして名前、名前かぁ…」
そして、いたずらを思いついた子供のように笑うと
「一宮かずき。うん、それにしよう」
と、誰かもわからない死体の名前を自身の名前にすることにした
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「ねぇねぇ、聞いた?一宮君行方不明なんだってー。一週間前から家に帰ってないらしいよー?」
「なんか事件に巻き込まれたのかなぁ、確か実家はお金持ちなんでしょ?身代金目当てで攫われたんじゃない?」
「でもそれなら犯人から身代金の連絡が来るでしょ〜、それすらないなら事故か恨みで殺されたとか?」
「やめてよもぅ、怖いじゃん!どうせ家出だって!しばらくしたら帰ってくるよぉ」
「だといいけどねぇ、一宮君、勉強もできてスポーツ万能でしょ?なによりカッコいいしっ!知ってる?この間また三年生に告白されたんだって」
「またぁ〜?もうどうせなら誰かと付き合ってしまえばいいのにー。例えば私とか?」
「いや、あんたブスじゃん。眼中にないって」
「お互い様だろぉ!」
どこからかそんな話が聞こえてくる。一宮からの報告が途絶えて一週間。ホント、あのバカは一体どこで何をしているのか。
「まーた怖い顔してるよ…。ダメだよ?女の子なんだからさぁ。ホラっ!笑って笑ってっ!」
隣にいるこいつはいつも空気が読めないというかなんというか。人の神経を逆撫でするようなことを平気で言ってくる。だというのにその明るさからか、女子の人気が高く、彼氏にしたいランキングの上位にいるようだ。
全く、最近の女は見る目がないのだろうか。
「うっさい!あいつがいないと仕事ができないでしょう?今月お金なくてピンチなんだからっ!このまま見つかんなかったらあんたどう責任とってくれんのよっ!」
と、やり場のない怒りを八つ当たり気味に吐き捨てる。
「そんなこと言われても…僕は一宮くんの代わりなんてできないよぉ…。人を殺した経験一度もないよ?」
「バカっ!こんなところで物騒な話すんじゃないわよっ!とりあえず例のとこに行くわよ!」
「うぅ…わかったよ…」
二人は大学構内の今は使われてない資料室に足早で向かう。
その資料室は二、三年前まではとある有名な教授が一室丸ごと使用していたらしいが、突然消息を絶ったらしく、今では放置された大量のよくわからない紙の山と机と椅子だけが残っている。
噂では借金がありヤクザに消されたとか愛人のところへ一緒に行ったなど数多くの説が出回っている。
この街では人が消えるなんて日常茶飯事だが、みんな好き勝手言い過ぎだろう。
資料室につき扉を閉め、部屋の中を簡単に調べる。
「人が入った形跡はない?…………盗聴器なんかは?…………ないわね。それじゃあさっきの話の続きをするわよ」
「続きったって一宮君でしょ?何もわからないからどうしようもないよぉ。村上君も調べてるみたいだし、僕らにできることなんてなんかある?」
「それをなんかないかって言ってるんでしょぉ!ちょっとは考えなさいっ!」
「そんなこと言われたって…逆にアンリちゃんはなんかあるの?」
「うぐぅ、うーん………。聞き込み…とか?」
自分で言っておきながらそれはないなと思う。行方不明の一宮が目撃されたなら噂にはなっているだろうし、なにより警察も動いているのだ。何かわかればこちらに情報が入ってくるようにはなっている。
「それは無駄だと思うよ…?うーん、でもこれから見つからなかったら新しいメンバー探すか殺し屋稼業やめるかどっちかだよね…」
「私はやめないわよ…ていうかやめるわけにはいかないのよっ!」
私は声を張り上げる。そう、私にはやめられない理由があるのだ。
「そういえばなんでアンリちゃんはなんで殺し屋なんかやってるの?借金とか?」
「そんなチャチな理由じゃないわよっ!私はね……」
少しの間を置いて私は声高らかに宣言する。
「豪邸に住みたいのよっ!イケメンの執事に広い庭でしょう?噴水でしょう?あ、あとプールなんかもあるといいわねぇ、あとそれから…」
「ハァ……あのね、アンリちゃん」
「な、なによ、不知火」
そして不知火は深呼吸をして意を決したかのようにその言葉を告げる。
「今月の家賃も払えない人が何言ってんの?いい加減その浪費癖直しなよ。つけもしない宝石買い漁っても何にもならないよ。現実………みなよ……?」
と、これまたウザさ百パーセントのドヤ顔で淡々と言い放つ。
「うっっっさいはねぇぇぇぇこのとぉぉぉへんぼくがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
手当たりしだいに近くのものを投げつける。でもわかってはいるのだ。このままにできないことを。一度始めた殺し屋なんて仕事を簡単にはやめられないということも………。
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ここを住処として一週間が経った。
あてもなく、とりあえず眠れるところをと探した結果。今は使われていない暗くおぞましさを感じる廃墟に身を隠すことにした。どうやらここは『廃病院』と呼ばれるところらしい。陰気な雰囲気が前の住処を思い出させ懐かしさすら感じる。
夜中になると何人かの若者が肝試しでここを訪れてきたので魔術で驚かせるとキャアキャアと悲鳴をあげて逃げるのでなんとも面白い。
昼間は街の詮索をした。人通りの多いところを歩くと周囲の視線がこちらに集まっているのがわかる。なんだ?と不思議に思っていると服が血まみれであることに気がついた。
それもそうだろう。なにせ死体の服を着ているのだから。死体を魔力に変換できても服や靴などは変換されないためその場に残る。今思い返せば黒服どもの所持品はその場に置いてきたがあれはまずかっただろうか?
今更考えても仕方がないので俺は考えるのをやめた。とりあえず服を川で軽く洗うと少しは色が落ちたがうっすらと赤みが残ってしまった。まぁこれくらいならと自分で自分を無理やり納得させてその場を後にした。
そんなこんなで一週間。この街のことを調べたところ、どうやら別の世界に来てしまったということだけははっきりした。魔術が浸透してない分、機械は発達しているのだろう。
この世界に来た当初は命を落としかけたが、命の危険は前の世界と比べるとずっと平和な所のようだ。
しかし、何をするにも金がいる。求めていた平穏な生活を送れそうだが、いつまでもこのままというわけにもいかないだろう。
今後の生活、先行きのない不安を感じながら今日も廃病院の診察台の上で穏やかな眠りについた…。
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「あぁ、やっと奴を滅ぼせましたね」
重厚感のある鎧を纏った兵士が異端審問会に話しかける。
「うむ、これで平和が我が王国にもたらされるであろう」
「しかし凄い魔術ですなぁ…。本当にカケラも残っていない…。そんな魔術があるんですねぇ…」
「これは我が教団の始祖様が残した魔術のようでな、最近見つかったばかりのものだ。一度使うと一週間はまともに魔術は使えん癖に一撃しか放てないから奥の手というわけよ」
「なるほど」と、兵士は納得したように頷く。
「だとすればこれからは王国の脅威になっている化け物共もその魔術で滅ぼせますね」
「然り、この魔術はこの世から完全に消し去る魔術だからな」
「ちなみに今回初めて使ったんですか?」
「いや、三回目だ。一度目は『千変万化のバルダ』、二度目は『傀儡師ガイウス』、そして今回が『国潰しのルーク』だな」
「『堕ちた英雄』とも呼ばれてますがね、他にも『墓あらし』、『無限射出』なんて呼び名もありますが」
「どちらにせよ、まだ王国の脅威となる『異端魔術』師供がわんさかおる。全て殲滅するまで我らに安眠が訪れることはない」
「そうですねぇ…」
彼らは知らない。その魔術がこの世から別の世界に強制的に飛ばす魔術だということ。そして、これから多くの怪物共が違う世界で幾多の波乱を起こすということを………
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