終章-18:現れた希望の魔人、マヒコとメイア 対 サラピネス

 メイアを3本の腕で捕らえたサラピネスが、残り1本の腕で自分の顎を押えて、思念で言う。

『小童と貴様を足せばちょうど良いのだが、上手くは行かぬものだ。そうは思わんか、小娘?』

「ぐくっ!」

 神霊付与魔法を纏った上から圧力がかかり、メイアが苦痛にもがく。

 サラピネスが少しだけ力を緩めて問うた。

『痛みで声も出ぬか? あの小童はどこにいる? まだ出て来ぬのか? 2人でかかって来るがいい』

「すぐに来るわよ! 命彦が来れば、あんただって! ぐはあっ!」

『ハハハハ……信頼というヤツか、良かろう。では、下の虫どもの悲鳴を聞きつつ、待ってやるとしようか』

 メイアを掴む腕に力を込めて、サラピネスが嫌らしく笑う。

「ま、待て! あああぁぁぁっ!」

『貴様が我を戦場から引き離したおかげで、魔獣が随分減ってしまった。戦力を足さねば宴が盛り下がろう? フフフ、アハハハハッ!』

 サラピネスが高笑いをして魔力を発した。

 空恐ろしい魔力が放出され、空間転移で1体の高位魔獣が出現する。

 魔竜種魔獣【水龍】。全長は18mほどで、命彦が《魂絶つ刃》で消し飛ばしたミズチより、一回りほど体躯が勝る、成竜のミズチであった。

『小童に我の駒を消滅させられたゆえ、新たに同じ種類の駒を手に入れたのだ。こちらの方が少々力はあるが、魔竜は魔竜。存分に暴れさせようと思う。フフフ、【魔晶】の警護に迷宮へ残していたのだが、まあもう1体、魔竜種魔獣を残しておけば警護には十分だ。粘った虫共への褒美だと思え。ありがたく受け取るがいい、フゥッハハハハハッ!』

「は、放せえっ! ぐあああっ!」

 神霊付与魔法を全力で使うメイアだが、サラピネスも神霊付与魔法を使っているため、腕を振りほどくことができず、逆に圧力が増したせいでメイアの左腕がへし折れた。

『じっと見ていろ! 苦痛と絶望で貴様の心を砕いたその時こそ、我が食ろうてやるわ!』

「命彦! 早く、早く来てぇぇぇぇぇぇっ!」

 メイアの叫びを嘲笑うかのようにミズチが咆哮し、【迷宮外壁】を守る義勇魔法士達へ攻撃を開始した。


 魔獣達の骸が山のようにある戦場を、水の魔法力場を纏いつつ悠然と闊歩するミズチ。

 移動砲台のようにミズチは1歩ずつ進み、魔法弾の雨を降らせる。

 これまでの魔獣達との戦闘で疲弊していた義勇魔法士達が、この高位魔獣の攻撃に耐えるのは無理だった。

「ぐああっ!」

「きゃああっ!」

「誰か、誰か治癒魔法を!」

 戦局が簡単にひっくり返り、地獄絵図のように前衛の魔法士達が倒れて行く。

 梢は捕らわれたメイアの救出よりも、ミズチへの対処を優先した。

『前衛の魔法士は後退して、後衛の魔法士は結界魔法を使えたら誰でもいいから魔法防壁を展開! 他の魔法士は攻撃魔法でミズチを足留めしつつ、前衛の治療を急いで! 〔呪闘士〕と〔呪術士〕は、弱体化や状態異常でミズチの戦力を削るのよ! 都市に近付けちゃダメ! 死守して!』

『くっ! メイアも上で捕まっとんのに! ええい、ウチが出る!』

『あ、勇子! あのバカ!』

『勇子、1人で突っ込んだら死ぬわよ! 空太、勇子を援護して!』

『分かってる!』

 思念が飛び交い、混乱する結界魔法内で勇子が呪文を詠唱しつつ、単騎でミズチへと駆け出す。

「地礫の天威、水流の天威、火炎の天威、旋風の天威。精霊の円環、融く合し束ねて神の衣と化し、相乗四象の加護を与えよ。包め《四象融合の纏い》」

 淡い4色の色相環を作って輝く、分厚い融合魔法力場を身に纏った勇子が、ミズチに殴りかかった。

「てぇええぃやああっ!」

 ミズチの腹部に融合魔法力場を纏う勇子の拳が触れる寸前、数重もの魔法防壁が出現し、拳が受け止められる。

 しかも、勇子の〈魔甲拳〉はこれまでの戦闘で、すでに弾切れであった。

「しもたっ!」

 危機を察知して、飛び退いた勇子の目にミズチの口が映る。

 食われる、と勇子が死を確信した時。空太の火の集束系魔法弾が、ミズチの頭部に着弾した。

 衝撃で噛み付きの軌道が逸れて、逃げる隙が生まれる。空太の思念が届いた。

『今だ、勇子!』

「すまん、助かった!」

 魔法力場の上からでも痛かったのか、前足で頭部を引っかいていたミズチが、結界魔法内に退避した勇子を見る。

「ブオオオォォーッ!」

 そして、無数の水の追尾系魔法弾を連射し、結界魔法の魔法防壁をどんどん破壊し始めた。

『壊されてもいいから、魔法防壁を再展開して! 絶対に止めるのよ!』

 梢の指示が、思念伝達網で義勇魔法士達全員に伝えられ、壊れた端から結界魔法が展開される。

 他の魔獣達は、一部の魔獣がミズチの魔法攻撃に巻き込まれて蜂の巣にされた姿を見て、後退して様子をうかがっていた。

 恐らく、ミズチが義勇魔法士達の結界魔法の壁を破ってから、一斉に進攻しようとしているのだろう。

 十重二十重の魔法防壁が突破されたら、全てが終わりだということに、梢も気付いていた。

 ゆえに、梢はミツバに言う。

「ミツバ、魔法機械を前面に出してミズチを攻撃させて! このままじゃ、力押しで突破されるわ!」

「了解しました!」

 ミツバの指揮で、空陸の魔法機械がミズチに突進する。

 しかし、〈オニヤンマ〉と〈ツチグモ〉計80機による、空と地上からの二面攻撃は、ミズチの展開した水の周囲系魔法防壁によって、簡単に止められた。

 そして、6重の魔法防壁に籠るミズチから、凄まじい魔力の気配を感じて、梢が思わず口走る。

「まさか、この距離で《魔竜の息吹》を使うつもりっ!」

「マズいですよ、姉さん! この距離で着弾すれば、地下避難施設まで蒸発します!」

『回復した前衛の魔法士達と、結界魔法が使えずに手が余ってる後衛の魔法士は、死に物狂いで攻撃して! ミズチの魔法を妨害するのよ!』

 思念で叫んだ梢は、自らも前衛として飛び出し、精霊付与魔法を身に纏ってミズチに迫った。

 【迷宮外壁】から200m地点まで近付いているミズチ。

 義勇魔法士達は【迷宮外壁】から100m地点に展開し、当然多重展開された魔法防壁も外壁から100m地点に具現化されていた。

 《魔竜の息吹》は効力射程が10km前後、余波を除く効力範囲が半径600mと言われており、普通に考えればミズチ自身が巻き込まれる可能性も高いため、義勇魔法士達を狙ってミズチが《魔竜の息吹》を使うとは考えにくい。

 であれば、ミズチの狙いは1つ。魔法士達の背後にある三葉市そのものであろう。

 街を破壊すると同時に、進路上の障害物を全て消し飛ばすつもりだと、梢はミズチの狙いを見抜いた。

 危機感をあらわにした戦闘型前衛系の学科魔法士達が、魔法機械と一緒に結界魔法へ接近して攻撃し、後衛の魔法士達も遠距離から魔法攻撃を行って、1枚ずつミズチの魔法防壁を破壊して行く。

 周囲系魔法防壁の最後の1枚を叩き割り、いざミズチへ攻撃しようと飛びかかる魔法士達だったが、ミズチがその場でクルリと回転し、水の魔法力場を纏った尾の一撃で、前衛の魔法士達を全て弾き飛ばす。

「ぐふっ!」

「があっ!」

 魔法の妨害に気が急いていた梢や勇子も尾の一撃を避け切れず、【迷宮外壁】まで弾き飛ばされた。

 すでに《魔竜の息吹》は完成間近であり、その場にいた魔法士全てが、自分の死を、三葉市の崩壊を確信する。

 そして、ミズチがのそりと首を振り上げ、口の前で膨らむ精霊融合魔法弾を放とうとした時である。

 ブォンと空間が震動し、ミズチの目の前に1人の魔人が出現した。


 眼下の様子をニヤついて見ていたサラピネスが、突然の出現者に驚く。

『あれは!』

 短距離空間転移のためか、空間の裂け目も発生せず、突然出現した魔人は、サラピネス以上に驚いていたミズチの下顎に、素早くその右拳を天へと振り上げるように叩き込んだ。

 魔人の拳が撃ち込まれた瞬間、ドゴォムッと空間が揺れて、ミズチの頭部が瞬時に消し飛ぶ。

 放出寸前だった《魔竜の息吹》が暴走して弾け飛びかけるが、魔人が移動系魔法防壁を6つ展開し、立方体のように密閉した魔法防壁の内側へ精霊融合魔法弾を封じ込むと同時に、魔獣の群れへそれを思いっ切り投げ込んだ。

 凄まじい速度で魔獣の群れに突っ込んだ立方体は、突っ込むと同時に魔法防壁が消えて、暴走寸前だった魔法の効力を全周囲に飛び散らせる。

 全力の《魔竜の息吹》と比べれば、破壊力は数段落ちていたが、数百体の魔獣達が一気に姿を消した。

 そのまま空間転移で消えた魔人は、眷霊種魔獣サラピネスの眼前に出現し、いつの間にか魔力物質製の日本刀を持っていた右手を振るう。

『貴様、ぐぼぁああっ!』

 事態を理解するのに一瞬時間を要したサラピネスの腕が、3本まとめて斬り飛ばされるのと、サラピネスの胴体に魔人の左拳がめり込むのは、ほぼ同時であった。

 拳の先が爆発するように弾け、数百m先まで吹き飛ばされて、廃墟に突っ込んで瓦礫に埋まるサラピネス。

 ミズチの胴体の上に、メイアを抱えて着地した魔人が、自身の戦果を確認しつつ言った。

「すまんメイア、待たせちまった」

「お、遅いわよ、バカっ! 滅茶苦茶怖かったんだからね! それに、滅茶苦茶痛かったんだからっ!」

 優しい命彦の声に、メイアは泣き笑いの表情で答え、その首に抱き付いて勝利の希望を見出した。

 腕が骨折した痛みも、この時は忘れていた。


 命彦が眷霊種魔獣を殴り飛ばしたその時、【精霊本舗】の庭では喝采が上がっていた。

「いよっしゃあぁああーっ!」

「若様が、あの眷霊種魔獣をぶっ飛ばしたわよ!」

「ワカサマかっくいいぃーっ!」 

 庭に浮かぶ平面映像で、戦場の様子を見ていた従業員やその家族は、魔力消費による心的疲労でややフラつきつつも、歓声を上げて小躍りしている。

「す、凄いです、命彦さん!」

 舞子も、店の者達と一緒に飛び跳ねて、拍手喝采を平面映像上の命彦へ送っていた。

 魔法具祖型への魔法封入作業が終わり、《戦神》を展開していた命彦にでき上がったばかりの防具型魔法具〈魔竜の練骨具足れんこつぐそく〉と、武防具型魔法具〈四象の魔甲拳:エレメントフィスト〉を装備させ、戦場へと送り出したのは、つい数十秒前のことである。

 その数十秒間で、明らかに追い詰められていた義勇魔法士部隊の危機を、都市の危機を命彦は救い、捕らわれのメイアまでも救い出した。

 舞子の目には、さぞや命彦が英雄ヒーローのように、眩しく映っていたであろう。

 しかし、目を輝かせる舞子の横で平面映像を見ていた数人の従業員達は、難しい顔をしていた。

 ドワーフ翁とエルフ女性、鬼人女性とその夫の禿頭の老人である。

 店の古参従業員達は、厳かに口を開いた。

「喜ぶのはまだ早いぞい」

「ええ。不意討ちでミズチを仕留められたのは、確かに喜ばしいことですが、あれは若様の力と当店の魔法具の力が合わさったこと以上に、ミズチ自身が油断していたことも要因として上げられます」

「《魔竜の息吹》の構築に、意識の多くを割いていたことも幸いしたよ。あれのおかげで、ミズチの反応が一拍遅れたからね」

「うむ。魔法のことはよう知らんが、確かに対応が遅かった気がする。まあ、剣術の試合でも自然界でも、一瞬の油断から上位者が下位者に負けることはままある話だ。心に隙がある方が足を掬われた、ただそれだけのことよ。問題は……」

 古参の従業員達が平面映像を見て、揃って表情を硬くする。

 平面映像が、瓦礫の山を持ち上げてゆっくりと浮かび上がり、3本の腕を失って下半身も千切れかけた、眷霊種魔獣の姿を映した。

「若様が頭部を狙った不意討ちの一撃を、ほんの一瞬身体をズラして胴体で受け止め、致命傷を外したアイツの対応力さね」

「ああ。不意討ちにも対応できる時点で、相当の力の差があると言うことじゃ。簡単には勝てんぞ?」

「いかに眷霊種魔獣といえども、神霊魔法といえども、魔法である以上は思考力が必要です」

「それゆえに、頭部を吹き飛ばせば一撃で終わらせられる可能性があった。だからこそ、若様も初手から狙いに行ったんじゃろうが……そう上手くは運ばんのう。さすがは眷霊種魔獣といったところか」

 古参の従業員達の言葉に、舞子も今の戦闘に違う見方があることに気付き、不安を覚えて平面映像を見る。

「ここからじゃぞ、若様」

「どうか、我らをお守りください」

「そんで、無事に帰っておいで」

「待っとるぞ、若様」

 古参の従業員達が我が子を心配するように、平面映像を見詰めて言う。

「命彦さん……皆さん、生きて、生きて帰って来てください」

 舞子も戦場にいる命彦達の無事と必勝を祈った。


 舞子の祈りの時から時間は少し巻き戻り、命彦がメイアに抱き付かれたすぐ後のことである。

 命彦が突然頭を押さえた。

「姉さん、ミサヤも妬き過ぎだって! すぐ降ろすから。メイア、もう離れてくれ。あと腕、すぐに治癒しろよ。微妙に曲がってるぞ?」

「あ、え? ええ。思い出したら、痛みが……」

 神霊治癒魔法で骨折を瞬時に修復したメイアは、誰かと話しているようにハイハイと首を振る命彦を見た。

「命彦、誰と話してるの?」

『私達とよ』

『さっきはくっつき過ぎでしたね、メイア』

 脳裏に響く思念にメイアが驚き、周囲を見回す。

「ま、命絃さんとミサヤの思念が聞こえるっ! どこ、どこにいるのよ2人は?」

「ここだよ。ここにいる」

 《戦神》を使う命彦が自分の下腹を指差すと、下腹部の丹田の位置に特殊型魔法具〈秘密の工房〉があった。

 魔力物質製の装甲にめり込む形で、ほぼ装甲に一体化しているように見える。

 メイアが、ここにいるという言葉の意味を察して、口を開いた。

「え、じゃあさっき精霊結界魔法を使って、《魔竜の息吹》を封じ込めたのって……」

『ええ。私達よ』

『私達と言うか、主に私ですね?』

 命絃とミサヤの思念を聞いて、目を丸くするメイア。そのメイアに命彦が言う。

「〈秘密の工房〉の出入り口を半開きにして、意志探査魔法《思念の声》による思念伝達網で、亜空間にいる姉さん達と現実空間にいる俺の思考を接続し、その時々に応じて使って欲しい精霊魔法を、亜空間から姉さん達に使ってもらってんだ。魔力物質の上に装備していれば、思念のやり取りも簡単にできる。一応言っとくが、さっきのメイアの行動も外の様子も、2人には丸見えだし、丸わかりだぞ?」

 メイアが先ほどまでの自分の姿を思い出し、頬を赤らめて咳払いして、話題を逸らす。

「ゴホン、私のことは置いといて。亜空間を半開きって……あ、そういうことか。亜空間内で構築した魔法を外へ出すためには、出入り口が少しでも空いてる必要があるのね?」

「ああ。密閉した亜空間でも、精霊は空間の壁を透過して入って来れる。亜空間内部でも、精霊魔法は当然使えるわけだが、亜空間内部で構築した魔法を亜空間外部へそのまま出そうとすると、空間の壁にぶつかる。空間の壁を壊して魔法が外部へ出たら、亜空間が崩壊する。つまり、亜空間を残したまま外部へ魔法を出すためには、出入り口から出すしかねえ。だから半開きだ。空間の壁に一部裂け目があり、魔法が飛び出せる。そういう状態の出入り口を、姉さんとミサヤが作り出したのさ」

「考えたわね? それが最後の切り札?」

「ああ。右の触手に埋め込んだ〈出納の親子結晶〉と、店の皆が作ってくれた魔法具。そして、《戦神》の状態でも思い通りに精霊魔法を使える、姉さんとミサヤの援護。この3つが、対眷霊種魔獣用に考え出した俺の武器だ」

 命彦がそう言って、数百m先の崩れた廃墟を見た。

 すると、カランガランと瓦礫がゆっくり浮き上がり、重力を無視するように負傷した眷霊種魔獣サラピネスが、姿を現した。

『クカカカカカッ! やってくれおった、やってくれおったわ、小童め!』

 楽しそうに思念を発散し、サラピネスは時間を巻き戻すように瞬時に身体を修復して笑う。

 サラピネスの喜悦が思念を通じて感じられた。

『ようやく供物が揃った。これで全身全霊を持って、貴様らを喰らうことができるっ! 初めは貴様らからだと決めておった! さあ始めよう、今すぐ始めよう! 宴は今、最盛の時を迎えた!』

 神霊付与魔法を纏うサラピネスが、命彦の方を見た瞬間、命彦が消えていた。

 そして、殺気を感じて振り返るサラピネスの顔面に命彦の拳が迫る。

「ツラツラとうるせえぇえーっ!」

 間一髪、神霊魔法力場を集束した4本の腕で防御するサラピネスに、衝撃が走った。

 恐ろしい破壊力を持った、集束系の精霊融合魔法弾が拳の先から現れ、至近距離で炸裂する。

 サラピネスの腕が2本ほど千切れ飛んだ。そして命彦の斬撃が頭部に迫る。

『この程度で!』

 白刃取りのように、魔力物質製の命彦の日本刀を両手で受け止めたサラピネスがニヤリと笑い、そのまま命彦を蹴り上げようとした。

 神霊魔法力場を集束したサラピネスの足が、命彦の腹部に迫るが、腹部の前に突然具現化した12枚の移動系魔法防壁に、サラピネスの蹴撃は食い止められた。

『ぬうっ!』

「前回とは違うんだよ、ボケが! でぇえいやっ!」

『ふん、だからどうした! ぐっ!』

 拳を振るう命彦から一瞬で転移して距離を取り、勝ち誇ろうとしたサラピネスが魔法攻撃を受けて揺らぐ。

「私もいるわよ、2対1がお望みだったわよねえ?」

 メイアの神霊攻撃魔法による、追尾系の神霊魔法弾がサラピネスをしつこく追った。

 サラピネスは心底楽しそうに笑顔を浮かべ、空を駆ける。

『応とも。これを待っていた! 血沸き肉躍り、己が追い詰められ、討たれるかもしれぬという焦燥感! これこそ戦だ、これこそ生の実感だ! いいぞ、もっとだ、もっと我を楽しませろぉおぉぉーっ!』

 サラピネスが千を超える追尾系の神霊魔法弾を放ち、メイアに応戦する。

「く、化け物め! 命彦!」

「承知!」

 魔法攻撃を連続の瞬間移動で避けて、距離を詰めた命彦が、サラピネスに魔力物質製の日本刀を振るった。

「せえぃっ!」

『はあっ!』

 神霊魔法力場を纏う拳で応戦し、命彦の斬撃とサラピネスの打撃がかち合い、空間が揺れる。

 命彦達の本当の戦いが始まった。

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