王子様がスライムと一体化したようですMk.2

有部理生

第1話・婚約者にスライムを貸したら戻って来なかった件

婚約者の王子にスライムを貸したら戻ってこなかった。


「えーん、ラムネちゃんいなくなっちゃったー!」


今よりうんと小さな子どもに戻ったようで、涙が止まらない。そう、まるでスライムを見つけて従魔にし、ラムネと名づけたころのように。


「ごめんよ、な、なかないで……」


彼が死に掛けたとき私のスライムが傷口を塞いだらしい。そのままスライムは傷に溶けるように消えてしまって、婚約者は助かったけれどスライム――ラムネはいなくなった。


ラムネ瓶の色で核はビー玉みたいだった。だからラムネ。あんなに綺麗で愛らしかったのに。動きが雑だと躾で父母に叱られるたび、もにゅもにゅして慰めてもらっていたのに。ひんやりと冷たくていつでも触れると気持ちがよかった。父母は最弱のスライムなどとっとと追い払ってもっと強い従魔と契約しなさい、とせっついていたけれど。ラムネとのつながりだけは譲りたくなかった。王太子の生命を救った、奇跡だ!などと言われてもてはやされてもいまさらだ。


スライムは身の回りの汚れをとって綺麗にしてくれるから、初めて狩りへ遠出する彼が困らないようにと思って渡した。野生のものより大分大きくなっていたけれど、ラムネはうまく身体を縮こませて婚約者の懐に収まった。


そして彼のお腹に大穴があいたら、そこに納まった。


別に彼に亡くなって欲しかったわけではない。彼が魔猪に跳ね飛ばされたと聞いたとき、心臓が止まりかけたのを覚えている。ただ気持ちの整理がつかない。


死に掛けて復活して、王太子殿下はすっかり健康体だ。今までろくに寝床から起き上がれないくらい身体が弱かったのに、それも含めてすっかり治ってしまった。本来異物であるスライムが溶け込んだにもかかわらず、何も異常なし。無さ過ぎておかしいくらい。それも含めて王国一同は奇跡だなんだと盛り上がっている。……病がちだった彼が、これまで死に掛けていたときは見向きもしないか陰口かだったのに。


「ひっく、ひっく」


ようやく泣き止んだ私の頭を、婚約者はそっとなでていた。


「ごめん、本当にごめん……」


「殿下がわるいんじゃありません、わたくしは殿下をお恨み申し上げているわけでもございません、でもただかなしくてさみしいんです……」


「僕がいつでもそばにいるよ、君のスライム、の代わりになるかはわからないけれど。今まで無理だったけれど、あの子のおかげでそうできるようになったのだから」


私は何も言えず、ただひたすらに彼に抱きつく。以前寝床の中で手を握った時は熱っぽかったのに、今の彼の体温は不思議にひんやりとしていた。その冷たさは私はラムネを思い出させる。今よりさらに幼い私の、片手の平の上に乗るくらい小さかったこと。芝生の上で干からびそうだったラムネをみつけたこと。手に乗せたらぷるんと震えるラムネにくちづけたこと。私の手からご飯を食べさせたこと。日の光に透かすとラムネの体内にゆらゆらと虹が見えること。氷嚢代わりに、婚約者の額にラムネを乗せてみたこと。


ラムネとの想い出が蘇るたび、悲しさと寂しさもぶり返す。私は彼の体に顔をうずめてまた泣いた。






















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