全能少年「看破と転生と質問」後編
読天文之
第1話神童と鷹の目
ゼウスから力を授かった全能少年こと千草全治、そんな彼も小学五年生になり小学校生活の後半期を迎えた。今日は入学式があり、それに伴い新しくここに新任してきた教師の自己紹介があった。
「初めまして、名古屋市西区北小学校のみなさん。この度着任した、大橋照子といいます。私は独自の信念と教育を、貫いていくつもりです。皆さん、これからよろしくお願いします。」
小顔にキリッとした眼鏡に映るは鷹さながらの鋭い目、見るからに手厳しい女性教師である。そしてなんとこの大橋が、全治のクラスの担任になった。
「五年二組の皆さん、改めまして担任になりました大橋照子です。これから厳しくも愛のある教育をしていくつもりですので、よろしくお願いいたします。」
五年二組の生徒は、「一生涯で一番の不幸だ・・。」と言わんばかりにため息をついた。そんな中大橋は、全治の名を呼ぶと全治の席の所まで行って言った。
「あなたは今までこの学校で神童と言われてきましたが、だからと言って生徒たちを嗾けて問題を起こすことがないようにお願いします。」
そう言って教卓へ戻ろうとする大橋に、全治の質問。
「どうして僕と黒之のこと知っているの?」
「他の先生から聞きました、質問は以上ですか?」
全治は小さな威圧感に負け、黙っているだけだった。
下校の時、全治は黒之に声を掛けられた。
「どうしたの、黒之君?」
「君が知っておかなければならないことがある。」
「何?」
「君のクラス担任になった大橋照子と僕のクラスの担任になった松宮浩二は、校長の差し金だ。」
「どういう意味?」
「あの二人は教師の世界では有名人なんだ、これまで多くの学校で活躍している。おそらく僕の一派と全治派を、潰すために送り込まれたんだ。」
「うーん、でも僕や仲間達は学校に迷惑をかけるつもりは無いのに・・・。」
「それでも疑うのが大人というものだ、まあ僕は優秀で神の力を持っているから、いざという時はどうとでもできるけどね。」
そう言って黒之は去って行った。
翌日から大橋は全治をマークするようになった、授業中もチラッと全治の方を見たり、掃除中にすれ違いを装って監視したりした。
「全治様、最近あの先生によく見られていますね。」
眷属のホワイトが言った。
「うん、僕が何か問題を起こすと思っているようだ。」
「それは無いわ!問題を起こすのは、決まってあいつらよ!!」
眷属のルビーが言った。
「でも僕と黒之を中心に対立が起きているのは事実だ。一体どうして何だろう?」
全治は考えた、しかし答えが出ないので近くにいた北野に尋ねた。
「北野君、いいかな?」
「何だ、全治?」
「どうしてこの学校で、僕と黒之を中心に対立が起きているんだろう?」
北野は、「今頃気づいたのか?」と呆れ顔をした。
「そんなの、全治と黒之に人を惹きつける力みたいなのがあるんだよ。」
「そうそう、カリスマ性っていうの。」
途中で伊藤が話に入ってきた。
「なるほど・・・、でも僕は黒之君と戦うつもりは無いのに・・。」
「俺たちは黒之の上から目線な態度が気に入らないんだ、そのうえ成績も運動神経もよくて先生にも強い。だから俺達は黒之に嫌気を感じているんだ。」
「全治君は成績も運動神経もいいけど、黒之みたいに威張らずに謙虚でいる。そこが好きなんだ。」
伊藤がいうと、北野は頷いた。
翌日、全治にある事件が起きた。全治が図書室から教室に戻る途中、小学二年生の生徒が同学年の生徒三人にいじめられているのを目撃した。
「あれは黒之の仲間じゃないか、止めさせないと!」
全治は三人の生徒に立ちはだかり、二年生を守った。
「あっ、千草全治!!」
「君達、こんなことをしてはいけない。」
「何を言うか!!」
生徒の一人が足を蹴り上げたが、全治は身をかがんでかわした。
「危ないじゃないか!」
「あっ、怒った。あの全治が怒った!!」
三人は全治の怒りを、あろうことかからかった。すると全治は、覇気のある目つきで三人に言った。
「君たちは人を見下すことしか楽しめないの?」
すると三人の威勢はすっかり消え、身を寄せ合って震えだした。
「それなら僕が君達を打っても何も言えないよね?」
そう言って全治が腕を振り上げた時、全治の腕を大橋が咄嗟に掴んだ。
「ついに本性が出たわね。」
「・・・大橋先生・・・。」
「今から職員室に一緒に来なさい。」
全治は大橋に引っ張られるように職員室に向かった、いじめられていた二年生が大橋に何か伝えようとしたが、大橋の耳には入ってこなかった。
その日のホームルーム、大橋は全治を教卓に出すと皆に言った。
「全治派の皆さん、今回あなた達に残念なお知らせがあります。今日の昼放課、千草全治が校内で暴力を振るおうとしました。相手は五年一組の生徒三人、幸い殴る寸前で私が止めたので怪我人はいません。」
生徒たちは普段寡黙で優しい全治が暴力を振るう事が信じられず、どよめくばかりだ。
「嘘だろ・・。」
「全治、ホントかよ!!」
すると北野が机を叩きながら、立ち上がった。
「みんな、最初から噂話をしてるんじゃねえ!!やったかどうか、本人の口から言わせるべきだろ!!」
北野の一言で、みんなのどよめきが収まった。
「北野君、声が大きいですがあなたの言う通りです。全治、本当の事を言いなさい。」
そして全治が声をだそうとした時、「失礼します。」という声と共に戸が開き、光也先生と全治が助けた二年生が入ってきた。
「あ・・君はあの時の。」
「何ですか、こんな時に。」
「大橋先生すみません、この木俣君が言いたいことがあるようです。」
「・・・・何ですか?」
大橋は面倒くさい感じで、木俣に言った。
「全治さんはいじめられている僕を助けようとしただけなんだ!これは暴力じゃない!!」
「ちょっと、何てこと言っているの!!そんな訳ないじゃない!!」
大橋がヒステリーを起こすと全治は新美の時のように、大橋をじっと見つめながら質問をした。
「木俣君の言う通りなのに、どうして違うというの?」
「それは私の都合が悪いからよ!!」
大橋は口を滑らして、魂胆を漏らしてしまった。
「何で都合が悪いの?」
「だってここのクラスの支配者は私であって、あなたじゃないわ!!だからあなたの悪い印象をつけて、クラスで孤立化させて力を弱めようとしたの!!」
大橋が全治を指さしながらハッと気づいた時、全治以外の生徒全員と光也と二年生が疑りの目で大橋を睨んでいた。
「えっ・・・、いやあの、これは・・・。」
「先生の嘘つき!!」
「汚いぞ!!それでも先生か!!」
「この腹黒おばさん!!」
生徒は怒り狂い、罵倒の嵐が吹き荒れ大橋に消しゴムなどを投げる生徒もいた。
「みなさん、落ち着いてください。確かに大橋は僕を陥れようとしましたが、僕にも暴力を振るいかけた落ち度があります。ここは五分五分で大橋先生を許してください。」
全治が言うと、生徒全員が静かになった。そしてその後ホームルームは終了したが、大橋は帰り際の光也に「この件は校長に報告します。」と宣告され、気が気で無かった・・・。
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