第137話 クーデターの後始末

 俺とカサンドラの戴冠式と結婚のお披露目のパレードの際を狙ったクーデター計画は失敗に終わった。

 クーデターの首魁の一人伯爵家の長女は後難を恐れて離縁され実家に戻る途中で恨みを持った家臣に石礫を投げつけられていた。

 投げ付けられる石礫を伯爵家の長女は一子を庇っていたが、運悪く投げられた石礫が頭部に当たり、聖魔法使いの営む病院に担ぎ込まれたが、頭部の傷は思ったより深く、治療のかいもなくそのまま亡くなってしまったのだ。


 警備兵はその惨劇を見て石礫を投げつけていた五人程の者達を捕らえ、伯爵家の長女の忘れ形見の男の子を保護した。

 その後の調べで石礫を投げつけていた者は素行の悪さ・・・(後で調べたら非は伯爵家の長女の嫁ぎ先の夫にあるのだが)で伯爵家の長女の夫のもとを追い出された家臣の者達で、その場での共謀共同正犯で傷害過失致死罪が認められた。


 保護されていた伯爵家の長女の忘れ形見の男の子は六歳とも思えない堂々とした態度で五人の裁判に臨み。

 実母を殺されたとはいえ相手のことを思って・・・(何か知っているのか)助命を嘆願した。

 後で、伯爵家の長女の夫を取り調べたところ、魔王配下の魔法使いと結託して今回のクーデター計画を立案、武器の手配等をしていたのだ。・・・首謀者の一人として死刑に処した。


 伯爵家の長女の夫は自分に害が及ばないように巧妙な罠を仕掛けてクーデター計画の首謀者を伯爵家の長女に仕立てていたのだ。

 伯爵家の長女に石を投げつけた者達は、その巧妙に張り巡らされた罠により、伯爵家の長女がクーデター計画の首謀者だと思い込まされていたのだった。

 クーデター計画を止めようとして素行不良と言う理由で放逐されて、伯爵家の長女の手の者と名乗る者から殺されかけたからだった。


 厳粛である法廷の中で、真実を知った被告人の嗚咽の声と、伯爵家の長女の一子の見事な態度を見て裁判役の女王セレスの目にも光るものがあった。

 当然と言っては何だが、俺が親代わりになって男の子を伯爵家の当主にした。

 男の子は何と石礫を投げつけていた5人を鉱山奴隷から買い戻して、家臣にしてしまったのだった。


 伯爵家の対応が終わったので、次は公爵令嬢セシリヤについてだ。

 俺や女王セレスが会いに行くまで、セシリヤは捕らえられてから飲まず食わずで三日三晩を過ごした。

 痩せ衰えて立つこともままならない状況であった。


 俺はセシリヤを医療ポットに放り込む。

 翌日

「死なせて。」

と泣いて訴えるセシリヤを医療ポットから引き摺り出して俺と女王セレスが強引に精神感応を行う。


 セシリヤは

『私の父親の公爵は旧皇后派に組する者でした。

 それで、主様とヤマト帝国の女帝カサンドラ様の結婚式のパレードが行われる際に何か事を起こすのではないかと、弟達に調べさせていたところ、父親の公爵がクーデター計画を立てていることを知ったのです。

 私は、直ちに公爵邸に戻ったのです。

 その日はパレードが行われる前日、つまりクーデター計画実行日の前日だったのです。

 私は、必死で父親に思いとどまるように懇願したが聞き入れられず、逆に自室に幽閉されてしまったのです。

 自室から抜け出したときには時遅くクーデター計画が実行され、クーデターの現場の当事者は全ての者が捕縛され、クーデターは未遂に終わったとの連絡が入ったところだったのです。

 クーデター計画の失敗を知った父親は宝剣を持って武装し、公爵邸での籠城を叫び、公爵邸の守備兵を集め、用心棒を集め始めているところでした。

 自室から抜け出して、再度父親に罪を認めて主様と女帝カサンドラ様の前に出頭するように懇願したのですが、今度は、

「お前は父親に死を賜れというのか!」

と言って持っていた宝剣で切りかかって来たのです。

 やむなく父親の持っていたその宝剣を取り上げて。

 父親の首を切り落としてしまったのです。

 その相前後に公爵邸で雇われていた用心棒が暴走したのでした。

 私の父親が主様と女帝カサンドラ様を亡き者にしようとしてクーデター計画を実行させてしまい申し訳ない!

 父親を諫めることが出来ず、更には命までも奪ってしまった。

 申し訳ない!

 このクーデター計画により、インドラ合衆国の士官学校の友人達も裏切ってしまった。

 申し訳ない!』

という思いが溢れていた。


 俺もクーデター計画に直接係わっていない者は無罪とするとしていたが、セシリヤは首謀者の公爵の次期当主としての届け出もあり、周りのものから死刑にすべしという声が高まっていた。

 俺の妻の女帝カサンドラは、そっとセシリヤを抱き寄せて、頭を撫でてやっていた。

 するとステータス画面や付帯脳を通じて俺の妻達の思いが色々と流れ込んできたのだ。

 セシリヤ抱いていた女帝カサンドラは俺の妻達の思いを流してあげているようだ。


 その後、俺と女帝カサンドラに対して、クリスやモンからセシリヤが士官学校の学業の成績が1、2位を争う成績最優秀者であり、士官学校卒業時には士官大学に入学させる予定であり、武道の力量や当然人物的にも申し分ないことを理由に助命の嘆願がなされたのだ。

 俺は、セシリヤを公爵家の次期当主とヤマト帝国にもつくられる巡検士部隊の女性部隊の隊員に任命したのだった。

 他にもクーデター計画に加担していた者の中には優秀な人材がいた。

 ただ、それらの者のなかにもインドラ連合国、真正カンザク王国国王の俺憎しや、俺の嫁になったヤマト帝国の女帝カサンドラを裏切り者扱いにして、俺と同様に憎しみで凝り固まり、思想を変えない者も多いのだ。


 ある程度の年齢がいくと中々その思想を変えられないものだ。そして、その思想で視野狭窄を起こしてしまっているのだ。

 これらの者は前回の海の航海で見つけた三ヶ月島以外の大きな無人島において、強制労働者として入植を行った。

 かなり大きな無人島で前世の日本の北海道程の大きさだ。


 船で十日程の距離なのだが、島の周りはウミヘビや大蛸の住みかで俺達以外は、この島に近づくことも出来ないのだ。

 すべての今回のクーデター計画に加担した者で思想を変えない者が、この島に送り込まれた。

 これらの者は高い塀のある刑務所のような広い場所にいれた。

 これは脱走を防ぐためではない、この島には前世でもお馴染みの恐竜の住む島なのだ。

 大きな首長竜が木の草を喰らい、その首長竜をティラノサウルスのような恐竜が襲うような場所なのだ。

 それで、この島での強制労働は命がけなのだ。


 俺も最初の強制労働者の建物や高い塀造りでティラノサウルスのような恐竜の大群に襲われて撃退するのが大変だった。

 俺と女帝カサンドラと手が空いた俺の妻達とで、三ヶ月に一度くらいの割合でこの島に赴く。

 強制労働をしている者の健康状態等を見るためだ。

 最初の三ヶ月で巻き込まれたように今回のクーデターに参加した家臣団を、精神鑑定能力で判定する。

 また、年少の子供達がこのような場所で亡くなるのを見るのは忍びない、優先的に鑑定を行う。


 家臣団にはもう反旗を翻す気持ちは無いが思想を捨てる気は無いようだ。

 ただ年少者は純粋なために、まだクーデターをあきらめていないようだ。

 俺と女帝カサンドラを見ると飛びかかろうとする者もいる始末だ。

 その後何度か訪れるが、気持ちが変わらないようだ。

 年少者は家族に引き摺られているようにも見える。

 この世界は家族が一つの世界で家長の言う事は絶対だからだ。

 家族のなかまで裂いて気持ちを変えようとは思わない。


 何度かの訪問の後、再び訪れた三ヶ月の時の間に刑務所のような高い壁の所々が入植者自らの手によって崩されていた。

 入植者が開墾場所を壁の外まで広げようとして内側から崩されていたのだった。

 壁の中には入植者の遺体と、恐竜の屍が腐臭を放っていた。

 恐竜との戦いの跡が垣間見えた。

 残念なことに強制労働の入植者は全滅していた。

 この場所に入植者の鎮魂碑を造って、この場を後にしたのだった。


 ヤマト帝国のインドラ連合に対する脅威が無くなり、友好国となったいま、ヤマト帝国の内部にも運河を造り、石畳の真直ぐな道路を造りあげなければならない。

 ヤマト帝国の女帝カサンドラがインドラ連合国に来訪する事になった。

 何時までも俺や俺の妻達で運河や道路造りをやっているわけにはいかないので、土魔法を使える工兵部隊が運河や道路を造ることになった。


 ヤマト帝国の貴族の中には土魔法を使える者が多いのだ。

 彼等貴族を工兵部隊に入隊させた途端、以前からいた工兵部隊員から苦情が嵐のように押し寄せてきた。

 貴族だと言って、まず仕事をしないのだ!

 何かというと拳骨を振るい、体罰を加えるのだ!・・・不安材料だ!

 貴族階級に胡坐をかいて、仕事を命じる側に慣れてしまい、自らが仕事をしようとはしないのだ。


 軍隊は階級社会なのに、貴族階級を盾に取って仕事をしないのだ。

 確かに今のところヤマト帝国の最高司令官はカサンドラだが、ナンバー2の軍務卿は元皇帝の義弟の公爵様で何かというと貴族の肩を持って、貴族の不祥事を握り潰してきた。

 民衆には貴族との間に根差す階級格差社会に不満があるのだ。

 民衆が暴発しないようにするためにも、この勘違い貴族達を将兵学校に放り込んで様子をみることにしたのだった。


 真正カンザク王国では貴族たちの識字率の無さに愕然として学校を造って学びさせ始めた。

 真正カンザク王国では、貴族と共に国家の統一と国家経済の安定を行ってきており、貴族自身が民衆とよく馴染んでいたためにヤマト帝国ほどの問題はなかった。

  

 プロバイダル王国では、真正カンザク王国に攻め込んだ際に魔力のある貴族がほとんどなくなってしまっていた。

 貴族自体が本当に少なかったので、問題が起きなかったのだ。


 ヒアリ国はゴーレム国家なので最初からいない、オーマン国は亜人国家で貴族階級に当たる者はいるが、何方かというと

「力こそが正義である。」

の世界なので下手な貴族意識を持っていようものなら殴り倒されてしまうのだ。


 このヤマト帝国で初めて肥大した貴族思想に挑戦する形になるのだから、将兵学校の教官たちは大変だ!

 ヤマト帝国の貴族で将兵学校に入学してきた者は約百名。・・・特に不安材料で問題になりそうな貴族を集めているのだ。

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