第131話 急速な文明開化

 インドラ連合国による運河をつかった豪華貨客船による内航海運業、大量の物資を送れるようになり、その波は陸上においてもまた波及し始めた。

 それは、王立の駅馬車、荷馬車が走るようになった。・・・前世の国鉄の始まりだな!

 最初は王都や主要都市内を定期的に走る馬車が発展して、帝都や王都間、主要都市の間を走る駅馬車になっていった。


 駅馬車が頻繁に走るようになり、さしもの石畳の路面が傷み始めた。

 それで石畳の道路の両隣には駅馬車用の最初は木製のレールの線路が引かれるようになった。

 その木製のレールも、すぐに鉄製の線路に取って変わっていった。


 馬車ならば魔獣や魔獣植物も集まってこないのだが、それを進化させて蒸気機関車を走らせると魔獣や魔獣植物が集まって壊してしまうのだ。

 それを解消するために音が漏れない地下鉄を研究課題とした。

 地下鉄には蒸気機関車どころか、電気を利用した電車を走らせる地下鉄の研究も進んではいるのだが、問題が三つある。


 一つ目は電力の供給なのだ。

 三日月島では地下にある円型宇宙船の何処に流れるのか大電流が消費され慢性的な電力不足で、他の研究施設も苦労しているようだ。

 穴を掘ると海水が湧き出してしまうのを何とか工夫して円型宇宙船の太陽光パネルを掘り出したことがある。

 それは三日月島の電力不足を解消するためではなく、オーマン国がインドラ連合国に参加したことに端を発する亜人種の風土病の蔓延が原因である。


 その風土病は今までの聖魔法では対応ができず、かといって真正カンザク王国やプロバイダル王国以外の国では医師や看護師が不足しており、急激な医師や看護師の育成が無理だったことから医療ポットを使うことにしたのだ。

 インドラ大陸全体を襲った亜人種の風土病の蔓延により、急遽各国に病院が建てられ医療ポットが設置されたが肝心の電源がなかった。


 それを解消するために三日月島の太陽光パネルを掘り起こして使用したのだ。

 インドラ連合国参加国のいろいろな地域に建てた病院で太陽光パネルを使ったために、掘り起こすことが出来た太陽光パネルがほとんど残っていないのが現状である。

 この残った太陽光パネルを使った発電でも三日月島は電力不足の状況が続いている。


 ヒアリ国ではサンドスネークと呼ばれるミミズの化け物の大量発生(スタンピード:魔獣暴走)によって魔獣や魔獣植物がいなくなった。

 そのおかげで水の神殿から湧き出す大量の水によって水力発電が進み大電力が供給可能な状態になっている。


 地下鉄の問題の二つ目が、土地の問題、土壌についてだ。

 電力が一応供給できる三日月島では穴を掘ると海水が湧き出してしまいトンネルが崩壊してしまう、一応ヒアリ国ではトンネルも崩壊することなく地下鉄としての形が出来てきた。


 これでヒアリ国での地下鉄研究を行えるかというとそうではない、ここで最後の問題がモグラの化け物の出現が研究の行く手を阻んだ。

 地中ではミミズの化け物のようなサンドスネークだけではなく、サンドスネークを餌とする天敵モグラの化け物が残っていた。


 モグラは漢字で土竜とも書くように、竜の下位種のワイバーンの変異種と言われている。

 ワイバーン等の竜種は火魔法を得意とするが、このモグラの化け物、土竜は土魔法が得意で高速で穴を掘ることが出来るのだ。

 この土竜は音に敏感で、何度目かの地下鉄走行実験の際に姿を現した。


 土竜の土を掘ることに特化した前脚の強烈な一撃で走行中の地下鉄の鉄で出来たボディが無残にも粉砕されてしまった。

 ただ土竜は地中に長く住んでいたためか、目が進化して暗い中でも良く見えることから強烈なライトを浴びせると逃げてはいくのだが・・・俺としては弱ったものである。


 土竜の餌になるサンドスネークを俺達が殲滅してしまったので、空腹で大分いらだっていたようだ。

 土竜については餌になるサンドスネークがヒアリ国内にはいないので、そのうち死滅するか何処かへ行くのを待つしかない。


 土竜を殲滅するという考え方もあるかもしれないが、長い間の研究中に一度襲撃を受けただけの生物を殲滅することは不適切だと考える。

 何度か走行実験をしているうちの土竜の襲撃は一度ということは、土竜自体が絶滅危惧種とも考えられるので保護の対象か?・・・弱ったものである。

 駅馬車から地下鉄へと発展させたかったのだが、殲滅したサンドスネークの天敵の土竜の出現で地下鉄の事業は頓挫させられてしまった。


 それでも電化した地下鉄の形態は出来上がっている。

 電気事業が他国でも使えるようになったら使ってみよう。

 地下鉄研究の頓挫は既存の商業ギルドや工業ギルドとの対立を経て、文明開化ともいえる事業を次々と行っていこうとしたところでの最初のつまずきだ。


 それでも駅馬車が鉄の線路を走っている。

 いつかは前世の世界のように高速鉄道網が出来上がる事を期待しよう!


 このように、インドラ連合国の中世時代から近未来への近代化が進んでいるのだが、どうしてもネックになるのが、単調な音により魔獣達の襲来による破壊だ。

 魔獣や魔獣植物を管理している真正カンザク王国やプロバイダル王国でも魔獣被害はあるにはあるが、魔獣の住む地域を保護地域として人類が住む地域と棲み分けすることにより魔獣被害が少なくなっている。


 オーマン国でも深い緑の森が多数存在するために、そこに魔獣や魔獣植物が沢山隠れ住んでおり、魔獣と人類の棲み分けが進んでおらず、管理も行き届いていない為に被害が多発してしまう傾向にある。


 棲み分けだけではどうしようもない部分があるので、魔獣植物のアオイを魔の森に呼んで魔獣や魔獣植物襲来のメカニズムを研究して見た。

 魔獣や魔獣植物は環境の変化を嫌うようだ。

 環境の変化を魔獣や魔獣植物は音で感じるのだ。

 たとえば、テリトリー内に入ってきた人々が木を切り払って開拓する音や単調な水車等が回る連続音を嫌うのだ。


 ただ馬車は大きな音を立てていてもあまり襲われることがない。

 馬等は魔獣の仲間だと思っている部分も多く、余程空腹でない限り、馬や牛等の動物を襲わないので馬車なども襲わないそうだ。


 そのうえ、最近の馬車は車輪や軸が真円になっており、駅馬車の様に遠くまで走る馬車は鉄道のレールを走るために音が小さくなって被害が出なくなったようだ。


 魔獣植物のアオイとアオイの子供達に連続音についての実験を手伝ってもらう。

 アオイの子供達も連続音には敏感で破壊感情が抑えられなくなるらしい、それでどの音が感情を刺激するのかを試してみたが連続音は全て刺激するようだ。


 ただ駅馬車の様に、音が小さくなるようにすると反応が鈍くなるようだ。

 無音化が魔獣襲撃に対する防衛の一助になる事が証明された。

 これに伴って、三日月島やヒアリ国の学園都市でモーター類の無音化に挑戦することになった。


 モーター類の無音化も大事だが、地下鉄を走らせる際に、光に弱いモグラの化け物を撃退する強力なライトを点けるのも、やはりエネルギーの問題だ。

 光魔法は生活魔法の範囲であり、魔力量によって光度が変わる。

 それに聖魔法使いしか使うことが出来ないため、光魔法使いの使い手が限られてくる。


 それで科学の力に頼るのだ、ただ前世の化石エネルギーのように公害を産むものでなく、できるだけクリーンなエネルギーの開発という事で、水力発電か太陽光発電、風力発電を行うことにしてみた。


 魔獣や魔獣植物がいなくなったヒアリ国では砂漠の緑化事業のため、水車を利用して緑化地域を広げている。

 また、水車を利用できることから、緑化の水を利用した水力発電や風力発電の実験を行っている。

 問題は風力発電だ、渡り鳥等の鳥が風力発電の羽にぶつかって落ちてしまう。


無駄話だが、アメリカ合衆国のヨセミテ公園に向かう途中の小高い山に風力発電の風車が多数林立していた。これら林立していた風力発電の風車を取り壊すというのだ。

 数少なくなった渡り鳥等の鳥がぶつかって死んでしまうから、絶滅するかもしれないからと言って鳥の保護のために自然環境に良いと言われる風力発電所の風車を壊すのだ・・・⁉閑話休題。


 この世界でも同様の事故が起きている。

 それで風力発電の計画は棚上げされた。


 空を飛べる竜種が少なくないので、鳥達はその竜種の格好の餌である。

 その為に鳥の数は少なく、鳥自体が絶滅危惧種と言って過言ではない。


 風力発電の羽が鳥を落とす。・・・う~ん時々空を飛ぶ竜種に逆に破壊されることもある。

 動かなくなった風力発電の風車の下で、何時落ちてくるか分からない鳥たちを待ち受ける死肉を貪るジャッカルのような動物の姿が滑稽でもあった。


 水力発電も魔の森にある滝の裏の家のように滝の中で音が漏れないように工夫すれば、魔獣や魔獣植物が集まってこない。

 俺の支配するインドラ連合国の広い領土では何か所か水力発電に適した場所がある。・・・適宜滝の裏に水力発電所を設置する事にした。


 次にヒアリ国や三日月島の学園都市で盛んに行われたのが空を飛ぶ飛行機等の開発だ。

 グライダー、ハンググライダー、人力飛行機、気球等の様々の様式で開発が進められた。

 モーターの無音化が出来れば、地上を走る乗り物、前世の自動車や空を飛ぶ飛行機もまた夢ではないのだ。

 空には魔獣の頂点に君臨する竜種がいる。


 大型の鳥類もいるにはいるが、自分より大きいものは襲わない、それは自分より大きいものと言えば竜種だけであり、竜種に逆らえば餌になるだけだからだ。

 それに鳥自体が何度も言うが絶滅危惧種のような状態で数が少ない。


 竜種の上位種である東洋の龍のような竜種は、ほとんどが聖龍山系に住んでいて、里には降りて来ないのだ。


 問題は竜種の中でも、西洋の竜のドラゴン達だ。

 西洋の竜のドラゴン達の住み家は高山なら何処にでも住んでいる。・・・ドラゴンも小型のワイバーン、黒、赤、白、銀、金と強さが増してくるのだ。


 特にそのドラゴンの中でも下位種のワイバーンと呼ばれる竜種は数も多く、丘のような低山にも住んで、里に降りて村人を襲って食べてしまう事がるのだ。


 今のところ三日月島にもヒアリ国でもドラゴンやワイバーンの襲撃は受けていないのだが、それに対応できる兵器も開発しなければいけない。

 ワイバーンやドラゴンの大きさを考えると機関銃と言うよりも機関砲のように口径が大きいものでなけれならない。


無駄話だが、銃と砲の違いは口径の違いで、一般的には口径20ミリ以下のものを銃、以上のものを砲と区別しているようです。・・・閑話休題。


 このように技術革新が前世の刀を差した江戸時代から西洋文化を吸収して近代化の道を突き進んだ明治時代の様に急速に文明開化をもたらしていくのだった。

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