第119話 トラファルガー王の最後
インドラ連合国とヤマト帝国の戦いは、ヤマト帝国側の戦闘参加者10万人の内戦死者6万人と捕虜4万人と言う未曽有の損害を受けて、ヤマト帝国が敗戦国となった。
ヤマト帝国の敗戦がヤマト帝国内や属国において混乱を招いた。
ヤマト帝国の属国の一つ、豚皇太子の実姉で俺の義姉カシスが嫁いだ先のトラファルガー王国においてもインドラ連合参加を巡り意見が紛糾していった。
トラファルガー国王としては、インドラ連合国に参加するには俺と反目する豚皇太子の母親の娘である義姉カシスが一番の障害であった。
トラファルガー国王としては、子孫の繁栄も重大な使命である。
身ごもった子供ごと
それらに対して、何方かと言うと口うるさい古女房の義姉カシスの口を永遠に塞ぐこと。
そして、何よりも産まれてから常に比べられ、最近では国政にも口をはさむ目障りで優秀な義兄の存在が疎ましかった。
王よりも人気の高い国王の義兄を始末する。
それも義姉カシスとの不義密通という
捕らえられた二人は不義密通で八つ裂きの刑となった。
ヤマト帝国としても国家の威信から、トラファルガー国王のこのような蛮行を許すわけにはいかず、義姉カシスの忘れ形見カシムを総大将にしてトラファルガー王国に攻め込んだ。
義姉カシスの忘れ形見カシムの後見人となった俺がヤマト帝国本陣から見守る中で、ヤマト帝国軍が籠城するトラファルガー王国王城を十重二十重と取り囲んでいった。
昼間はヤマト帝国軍の槍が太陽の光を反射して、夜には篝火が焚かれヤマト帝国軍がドラムを叩きラッパを吹き鳴らして威嚇する。・・・前世でいわれる四面楚歌の状態である。
ついにはトラファルガー国王自らが降伏を告げる使者として、自らを縄で縛って現れた。
その姿を見て俺の膝に座っていた幼子のカシムが父王に手を差し伸べた。
これ以上は見せてはいけない!
ヤマト帝国側とすれば皇帝の実子を八つ裂きの刑にする等の蛮行を許すわけが無いのだ。
明文の法律がほとんどないが、使者として現れたトラファルガー国王は、この時代では当然のことであるが、前世のハンムラビ法典のように
『目には目を歯には歯を』
と書かれているのと同じように、八つ裂きの刑にされると思ったのだ。
俺は親父に一言挨拶すると、俺の膝の上に座っている甥っ子のカシムと義妹のカサンドラを抱き上げて魔の森の湖畔の館に転移した。
トラファルガー国王が使者となって現れた時点で、この酷い惨劇が予想されたので、カシムと義妹カサンドラを湖畔の館に転移で連れて行った。
湖畔の館では二人は俺の妻達の歓待を受けていた。
幼い従兄弟同士の出会いや俺の義理とはいえ妹が来たのだ。
まだ発売されていない乳製品の甘いお菓子をたくさん食べて満腹になった甥っ子のカシムや義妹のカサンドラは眠そうである。
以後の情報は逐次巡検士部隊から状況が送られてくる。
トラファルガー国王自らが降伏の使者となってあらわれたが、攻城側は取り囲み続けて、その願いは叶わなかった。
国王が降伏を述べているのだから、国王の命を持って他の王城に籠る兵士の生命を許せばよいのに、王城の兵士は死兵になって抵抗するし、今後の国家運営にも支障をきたすだろうに。
前世の孫子も
「包囲した敵軍には必ず逃げ口をあけておき、進退窮まった敵をあまり追い詰めるな。」
と説いている。
使者として現れたトラファルガー国王は俺が予想した通り、王城から見える広場において、衣服を剥ぎ取られ両手両足に鎖を繋がれて牛に引かれて八つ裂きにされたのだ。
トラファルガー国王の処刑が終わると、遺体が片付けられてヤマト帝国攻城側に攻城兵器が備え付けられる。
その報告を巡検士部隊から受けたので、お菓子でお腹いっぱいになって寝てしまったカシムと眠そうなカサンドラを抱いて、また血生臭い戦場へと転移した。
ヤマト帝国側の攻城兵器が活躍し始めた。
最初は大きな石を飛ばすカタパルト、投石器による攻撃だ、石を飛ばすためキリキリと太いロープが巻き上げられて限界がきたところで解放され石が飛んで行く。
四方八方から投石器による投石が続く。
時々藁に火がつけられ投石器により城内に放り込まれ、城内の可燃物に燃え移ったのか大きな火の手があがる。
戦いの現場ではあるがカシム達は腹が膨れて熟睡中だ。
城壁を乗り越えられる梯子が組み立てられ、上部に弓兵が陣取り城内に弓矢や火矢が射込まられる。
城壁にいた兵士も弓矢で応戦するが、弓矢で応戦してきた場所は投石機の攻撃を受ける。・・・弓矢でハチの巣になってもなお応戦しようとする敵兵が多い。これが死兵か!死に物狂いだ。
ゴロゴロという大きな地響きをたてながら破城槌が現れた。
破城槌は幾つもの大きな車輪が付いており、上部からの投石に備えて三角屋根を設けている。
その三角屋根の中に何百人もの攻城部隊員が入り巨大な破城槌を城門に向かって押していくのだ。
『ドカーン』
といい大きな音を出して城門にぶつかる。
城門がその一撃で少しひしゃげる、城門を守る兵士が破城槌を上部から壊そうと投石器で投げ入れられた石を投げ落とす。
破城槌の屋根に当たって転がり落ちる。
今度は燃える藁を引き摺ってきて投げ落とそうとする。
それを梯子の上の弓兵が許すわけもなく、藁を引き摺ってきた兵士は弓矢で針鼠になって亡くなった。・・・それでも別の兵士が次々とその意思を次いで藁を投げ落とす。時には藁を抱えて破城槌の上に飛び降りる。
破城槌の屋根に当たって先程の石と同様に火花を散らしながら落ちていった。
その攻防も破城槌の二撃目、三撃目で城門が吹き飛んだ。
破城槌を操作していた何百人もの攻城部隊員がそのままトラファルガー王城内に突入していく。
何台もの梯子も城壁に押し寄せる。・・・せめて城の周りを堀でも掘って水で守っておけばよいものを。
そう思っている間にも何台もの梯子が城壁に取り付いて、梯子の上にいた兵士が城壁に入っていく。
城側も弓を射て、石や火のついた油を流し落とす。
阿鼻叫喚の地獄絵巻が繰り広げられた。・・・俺の膝を枕にカシムもカサンドラも眠っていたのが幸いだった。
また、その梯子を登って城壁の中に何百人、何千人もの兵士が押し入っていく。
壊れた城門にも何百人、何千人もの兵士が押し入って行くのだ。
トラファルガー王城が落城するのは時間の問題だった。
義姉カシスの弔い合戦はトラファルガー王城内にいた全員が処刑されヤマト帝国側の大勝に終わったのだった。・・・大勝と言えるのだろうか、トラファルガー王城内には2万5千人の将兵や文官、女官がいた。その全ての者が衣服まで剥ぎ取られて凌辱され殺されていた。片や攻城側のヤマト帝国軍将兵の損害も甚大でほぼ同数の者が亡くなった。軽傷の怪我人を含めると死者の倍の死傷者になる。
ヤマト帝国の招集可能な人員がインドラ連合国との戦いの前までが80万人だったものが戦後70万人になり、今回のトラファルガー王の乱心騒動で65万に激減してしまった。
ヤマト帝国内の属国トラファルガー王の暴走による反逆行為は悲惨な結果に終わった。
総括的に第三者の目から見ると、問題点の一つが長い目での戦略や戦術が無い、それは毒苔の影響でもあり
問題点の二つ目が戦争の原則である。
今回の攻城戦において、使者になったトラファルガー国王の命と引き換えに城兵を許さず、死兵にして攻城側にも甚大な死者をだしてしまった。
問題点の三つ目が、城内の悲惨な状況だ。
軍律などはあっても無きようなものだ。
勝者は敗者の私有財産を略奪して殺生与奪の権限がある。・・・ヤマト帝国の皇帝直属の軍隊がトラファルガー王城内の宝物庫を抑えるが、他は略奪し放題だ。
そのため城内にいた女官が裸に剥かれて縊り殺されていたり、年老いた文官をいたぶったのか血が点々と続き、ついには
今まではこれでも良かったのかもしれないが、これでは兵の統制が無い、単なる無頼の集団だ。
反面教師だ、インドラ連合国の士官学校の生徒に、今回の攻城戦について孫子のいう戦争の原則、戦略や戦術、軍律や軍規について研究させていく、特に軍規をつくっていかなければならない。
巡検士部隊も攻城戦をしっかりと見ているので後でレポートを提出させよう。
兵の訓練時も信賞必罰を旨として軍規違反をさせない。
今回のような強姦や殺害、略奪を禁止しなければならない。
インドラ連合国国内では幼年学校の教育が進み、識字率の向上が認められ法整備が進み始めている。
軍規の制定が進み、軍事裁判所も開設されることになる。
今回の戦闘についても軍記物語が書かれていった。
真正カンザク王国誕生の軍記物語が始まり、大小の小競り合いも文書化されて各国の図書館に配布されている。
図書館ができると製紙業の技術も印刷技術も発展していく。
インドラ連合国の真正カンザク王国内等ではかわら版程度ではあるが新聞業が発達している。
文字が読めるのは子供達が多い。
親たちの世代が子供達に群がってかわら版を読んでもらっている。
今回のヤマト帝国内のトラファルガー王国内乱と言う題名でかわら版が発行されていた。
かわら版には風刺画を描いている人もいる。・・・ヤマト帝国とインドラ連合国の最初の戦いはかわら版では、インドラ連合国大勝としか書かれていない。風刺画に武装豪華貨客船や護衛戦艦を描かせるわけにはいかなかったからだ。
これも文化だ。・・・文が読めなくても風刺画なら一目でわかる。好い発想だ!
美術の発展にも弾みがつく。
発行されたかわら版も図書館に収蔵されていく、歴史が目に見える形になっていった。
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