第117話 ヤマト帝国の混乱の波及

 アンリケ公国を打倒してインドラ連合国への参入を阻止しようと派遣されたヤマト帝国の地方領主軍約10万弱の6割、約6万弱の兵士が開戦地点のカボサン王国の領地の開戦予定地において、インドラ連合国軍の未来の科学力、・・・(蜘蛛型生物の科学力も含まれているが。)によって造船された護衛戦艦と武装豪華貨客船の艦砲射撃によって戦場の露と消えたのだ。

 戦場の露と消えた、その兵数はヤマト帝国が動員できる総軍約80万人の1割にも満たないものであったが、ヤマト帝国内の今回の戦争における人的被害としては甚大であった。

 敗戦の事実や実態は噂話として尾ひれがついて、ヤマト帝国に従属する各国や地方領主等に衝撃を与えていったのだった。


 ヤマト帝国やヤマト帝国に従属する各国の国内や地方領主の領内にはインドラ連合国の巡検士が事情を調査している。

 巡検士は現代風にいうと諜報機関の諜報員なのだ。

 特に前回アリサ公爵令嬢をヤマト帝国の帝王城内から救出する際に、俺の細々とした記憶に基づいて転移魔法で転移をして救出する事が出来た。

 こんな幸運にばかり頼っていてはならない。

 それで、そのような不測の事態を考えて巡検士部隊が他国に配置されていった。


 巡検士は殺生与奪の権限が与えられている。・・・前世の映画の「007」だ。

この世界では俺が殺生与奪の権を与えても、実際に使えるのは我がインドラ連合国内のみであり、他国では暗殺ぐらいなものだ。

 プロバイダル王国のセレスの戴冠式に来た国々との交易と国の状況を調査する為に巡検士部隊は、その国々に派遣された。

 その国々には巡検士部隊は外交使節の館と奴隷商の館、そして豪商によって建てられた商館などに配置されていた。


 特に豪商の商い自体が他国においても大きな荷物を背負った担ぎ商人が主であり、彼等がその国の情報を国々に建てられた商館に持ち帰り集められていくのだ。

 どこそこで子供が産まれた等と言う噂まで集められる。

 今の様な不要と思われる噂話も集めれば、その地方の人口も類推も出来るうえに

埋もれていた人材も発見できるかもしれないのだ。


 その商館には、そこに機密の塊の転移装置が設置されている。

 機密の塊の転移装置が設置された部屋に入るには、指紋、網膜、骨格の順に扉を開けるたびに宇宙エルフ族の高度な科学力で調べられるのだ。

 そのうえ転移装置には秘密の保持のために爆薬が備え付けられている。

 通常は侵入者は指紋認証などの科学技術を知らないので、指紋認証の照合の部屋に設置された睡眠ガスで御眠りいただいている。

 最近の巡検士の報告によると、ヤマト帝国やヤマト帝国に従属する各国の国内や地方領主の領内においても、インドラ連合国に参入するや否やについて意見が分かれ対立して、地方によっては内乱や反乱がおき始めているところもあるのだ。


 特に酷かったのが俺の義理の三姉妹の一番上の姉、つまり皇后が産んだ三姉妹の一番上の姉カシスの国トラファルガー王国においてだった。

 この二人の義姉達については、皇后が自分に男の子が産まれなかったら、自分の産んだこの二人の義姉を俺に嫁がせ、皇后の傀儡くぐつ政権の足掛かりにするつもりだったのだ。

 成長したこの二人の義姉は皇后の若い頃に似て、とてもきらびやかで、あでやかなグラマラスな美人だった。


 一番上の義姉カシスは俺が出奔後・・・(ヤマト帝国内では、そういうふうになっているのだ)、隣国のヤマト帝国傘下の大国トラファルガー王国の王子と結婚したのだ。・・・その頃は義姉カシスは、まだ前世でいえば小学校に入る前の年齢の子供で、同年の王子とひな人形のように並んでいるだけだったのだ。

 その王子も成人して今は現国王になっており、義姉カシスも后となって、二人の間にはカシムとい2歳になったばかりの皇太子が産まれていたのだ。


 義姉カシスの生活も、御顔に似て豪奢ごうしゃであり、悪く言えば浪費家で国の経済をも傾けるいわゆる傾国の美女であった。

 トラファルガー国王もよく似たもので、彼の悪い性癖が若い女の子に手を出し、妊娠したり飽きたら棄て去るのだ。

 棄てる先はそれも身分の低い、国王である自分に敵対する恐れのある家臣に与えるのだ。

 いくら家臣でも優雅な生活を送っていたお手付きの女性をもらっても、それに見合う生活も出来ない事から日頃の鬱憤うっぷんもあって逐電してしまう家臣まで出る始末であった。

 こんな事もあってトラファルガー王国の組織がガタガタと音を立ててきしんでいたのだ。


 トラファルガー王国内における義姉カシスのとんでもない額を浪費する性格と、お手付き女性を家臣に与えて喜んでいるトラファルガー王。

 何の遠慮も無く女性をとっかえひっかえしていることから、幾度となく妻である義姉カシスから注意を受けて五月蠅うるさがられていたが、今では公然と若い女の子二人を侍らせているのだ。


 今回のヤマト帝国が手痛い大敗をうけて義姉の国、トラファルガー王国においてもヤマト帝国の傘下から抜け出してインドラ連合国に参入したいと言う者の声が増えてきていた。

 ヤマト帝国の皇后の娘である義姉カシスはインドラ連合国に参入の大きな妨げになっており、現在国王となった夫からも目の上の瘤の扱いであった。・・・国王からはそう見えても、義姉カシスとすれば現国王になれたのはヤマト帝国の後ろ盾があったからだと思っているのだ。


 国王にとってもう一つの目の上の瘤は義理の兄の存在なのだ。

 義兄は妾腹、それも末端の下級貴族の娘で行儀見習いに御城にあがっていた者を面白がって前国王が犯したもので、男子がほとんど産まれなかったトラファルガー王国では現国王に何かあった時の予備の存在(昔の俺と同じ御継様)であった。

 しかし現国王にとっては、義兄は妾腹といっても一つしか歳が離れておらず、何事においても優秀で真面目な性格である義兄といつも比較されて育ってきたのだ。

 国王になる際も義兄を国王にと要望する家臣も多かったが、后であるヤマト帝国の義姉カシスの存在は大きく国王となることが出来たのだった。

 しかし、今もなお義兄を慕う家臣も多く、国王は義兄が何時なんどき自分の地位を脅かす存在になるかと、戦々恐々せんせんきょうきょうの日々を送っていたのだった。


 インドラ連合国の大勝とインドラ連合国の大統領が実はヤマト帝国の皇太子であり、幼い頃にヤマト帝国から放逐されている事もあり、大統領の俺が義姉カシスをも恨んでいると軽率に考えた国王と国王寄りの家臣群は一計を案じたのだ。

 

 トラファルガー王達もそう思ったのだろうが。・・・義姉カシスは覚えていないかもしれないが、もう一人の義姉のカレンと、俺がヤマト帝国から連れ出されるまでは時々遊ばせてもらっていたのだ。

 ヤマト帝国皇后の俺への懐柔策かいじゅうさくだったのかもしれないのだが、普段は俺の母親を蛇蝎だかつの如く嫌ってたのだが乳臭い二人の娘を連れてくるときは

「未来のお婿さんだよ仲良くするんだよ。」

等と言っていたのだ。


 そのうえ皇后は一度、俺にそのグラマラスの肢体から予想した通りの巨乳を見せて乳を含ませてくれたのだ。・・・その優しい笑顔が忘れられないのだ。

 その時は俺の母親が皇后の胸を見比べてガックリしていたのが印象的だった。

 皇后にとっては勝利の美酒というより勝利の巨乳だな!

 ところが、皇后からは豚皇太子が産まれるとてのひらを返したような扱いを受けたのだった。・・・カムバック巨乳!やっぱり豚皇太子は敵だ‼

 それでも前世の記憶がある俺にとっては、仲よく遊んだ義姉カシスやカレンは、この世界での初めての姉弟きょうだいだったのだ。


 トラファルガー王と家臣が思いついた、その一計は后カシスと義兄の二人を同時に亡き者にするという案であった。

 当日は荒天の中で強行された。

 王は国王寄りの家臣等を集めてパーティーを開いた。

 そのパーティーではトラファルガー王は、今日目の上の瘤が二つ消えると思って上機嫌で杯を干していた。

 皆が程よく酔いが回ったところで、義兄と自分の后カシスをベットのある一室に虚偽きょぎを告げて二人を集めたのだ。


 荒天で雷が煌めく中、義兄は呼び出された部屋がベットのみの部屋で、雷で部屋の中が一瞬明るくなり、そこには后カシスのみが佇んでいたのだ。

 義兄は后カシスしかいない異変に気付き、咄嗟とっさにその部屋から逃げ出そうとしたが、部屋の周りは既に王の手の者により固められており義兄は抵抗も空しく、后カシスは従容しょうようとして捕らえられたのだ。


 后カシスは従容として捕らえられた、それはトラファルガー王の心を知って絶望したのだ。

 ヤマト帝国の後ろ盾で国王になれたのにもかかわらずそれを裏切り、一度の開戦でヤマト帝国が大敗をきっしたのは事実だが、まだヤマト帝国には74万有余の兵力を有しており、その大国、ヤマト帝国を裏切り牙をむいた夫に対してだ。


 また国王と后カシスの間に出来た、まだ2歳児にしかならない皇太子カシムは、その夜の内に廃嫡のうえ国外追放の目にあったのだ。

 トラファルガー王は精力だけは抜群で子供等は何人もいるのだ。

 母親の敵だと言って息子のカシムに命を狙われるのは願い下げなので、国外追放で国外に出たところで亡き者にしようとしたのだ。・・・俺はこっそりと亡き者にされかかり、義理とはいえ俺の甥っ子も亡き者にされかかったのだ。

 皇太子カシムが生き永らえたのは、皇太子の乳母と俺が派遣した巡検士のおかげであった。


 対ヤマト帝国の一環としてヤマト帝国の友好国の一つであるトラファルガー王国の王都においてもインドラ連合国との交易のために豪商が商館を買い上げて、巡検士部隊の基地としているのだ。

 御多分にもれず、足元に爆弾が仕掛けられているが転移装置まで設置してあるのだ。

 トラファルガー王国の王城の城門付近が騒がしくなり、皇太子カシムの廃嫡と国外追放が言い渡された。

 国外追放される皇太子を追って巡検士部隊が国境付近まで来ると暗殺者の集団があらわれたのだ、その時皇太子を守って乳母が切られた。

 その一時の間のおかげで皇太子を巡検士部隊が救出する事ができたのだ。

 皇太子カシムの身に起こった事は、まるで俺の身に起こった事を見ているようなのだ。・・・因果応報、ヤマト帝国の皇后が俺にやった事が孫カシムに対しても起こってしまったのだ。


 義姉カシスと国王の義兄は捕らえられた翌日の早朝には処刑が行われたのだ。

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