第116話 ヤマト帝国の混乱

 俺がアンリケ公国のインドラ連合国承認のためにアンリケ公国に向かい、それに反発したヤマト帝国の皇后と皇后派に属する地方領主とが10万もの将兵を集めて国ごと揉み消そうとしたのだ。

 そのたくらみも俺が率いた護衛戦艦と武装豪華貨客船による艦砲射撃によって、逆に殲滅せんめつされてしまったのだ。

 ヤマト帝国側の10万人もの将兵の約6割、6万人もの将兵が地上から消滅したのだ。

 当初は、ヤマト帝国側には何らかの爆裂魔法の合戦に敗れて将兵の6万人がしたと思われていたのだ。

 現場に和平交渉に現われたヤマト帝国の第二宰相もそう思っていたのだが、地上には艦砲射撃によってできた大穴が幾つも開けられ、遺体を焼く煙がたなびく戦場の跡に驚愕きょうがくしたのだ。


 そこには、未だに荼毘だびにも付されていないしかばねが累々と横たわっており、その遺体がゾンビ化しないように生き残ったヤマト帝国の将兵がのろのろと油をかけて火をつけて行くのだ。

 6万人のではなく6万人ものだったのだ。

 この惨劇を引き起こしたのが、はるか沖合いに・・・(現状ではインドラ連合国以外の国では、沖合いに船を出すことは不可能なのだ。)浮かぶ黒い芥子粒のような二つの影からによる艦砲射撃なるものによってだと。


 第二宰相は伝言魔獣・・・(転移魔法が使える希少種。短い伝言も伝えることが出来るが普通は足に筒を取り付け、その中に文章を書いた革や木簡を入れてある。)を使ってヤマト帝国本国と連絡を取り合っていたのだ。

 伝言魔獣の短い連絡でも、ヤマト帝国内で緊張が走った。


 急遽ヤマト帝国では御前会議が開かれた、年老いて見える帝王は

「今はスグルが率いるインドラ連合国と敵対すべきではない、最大に譲歩するように。」

と言い放った。

 この言葉は直ちに第二宰相に伝えられた。


 その結果、この敗戦により、ヤマト帝国は多額の戦争賠償金の支払いと、今回の戦いに加担した皇后派に属する有力地方領主など戦いで亡くなった者の領地を割譲するという条約が結ばれたのだ。

 その後の御前会議の議題は、インドラ連合国の盟主として現れた俺への対応である。

 元の俺は、ヤマト帝国では豚皇太子が産まれるまでは、世継ぎの王太子の身分であり、王太子の証の守り刀『雷神』まで手にしているのだ。


 何はともあれ、インドラ連合国としては飛び地になったアンリケ公国を中心とする小国群や俺が割譲された領地等が段々と今まで以上に住みやすく豊かになってくる。

 ヤマト帝国から割譲されて俺の領地テン・ムスタッチが、この短時間のうちに変化する様子をつぶさに見ていたのは、領地の中に建てた病院内にいた先の戦争で負傷したヤマト帝国兵達だった。

 通常ならば、大きな怪我を負っただけで、出血多量や感染症対策がなされていないため死亡する事例が多い。

 運良く聖魔法で治療されても、小石等の異物を巻き込んで体内に入ったまま治療されたり、事後に感染症で死亡してる者も多いのだ。


 それが手足を落とされる重傷で通常は死んでいた負傷兵が生かされ、失った手足の代りに義足や義手が支給されているのだ。

 それも前世の白鯨の片足が木の義足やピーターパンのかぎ爪のフック船長等が使っているものでなく、ゴーレム機能が付けられた、義手や義足で訓練次第ですぐに傷害を負う前と同様に、自分の手足のように使いこなすことが出来るようになるのだ。・・・最初の義手や義足は形だけを似せていたものをゴーレム技術の各段の進歩でこのような事が出来るようになったのだ。


 ヤマト帝国内の自領に戻らなければ、一財産になるゴーレム技術のすいを集めた義足や義手がそのまま自分の物になることから、そのまま俺の領地に住みつく者が多数いたのだ。

 故郷で待つ家族のために泣く泣くゴーレム義手や義足を諦めた者がいたが、その者達も家族を説得して俺の領地に戻ってきた者の方が多かったのだ。

 ゴーレム義手や義足をもらった者の中には一度それらを我が国に預けて、故郷に戻って家族を連れてくる者も出始めたのだ。


 故郷に立ち戻った者達が夢のようなインドラ連合国の現状を広めたのだ。

 そのうえ、今回の戦闘により、ヤマト帝国の完敗の噂もその者達によって広められ、ヤマト帝国は勿論の事、ヤマト帝国の地方領主やその他各国に広がり、衝撃的な事実として受け止められていったのだった。

 俺達が使った護衛戦艦等から繰り出された艦砲射撃の一撃が、今までの定石だった軍事的作戦や行動を粉砕してしまったのだ。

 俺達だけしか使えないが、高速で広範囲に作戦行動が出来て遠方から高い攻撃力を誇る科学の結晶である護衛戦艦等の登場である。

 巨艦巨砲時代の到来である。・・・ただし、巨艦巨砲を真似しようと思っても、この時代は焚書坑儒による歴代の知識が失われ、毒苔の影響である一定の年齢になると知能が極端に悪くなる影響もあって当分の間はインドラ連合国の独占的なものになる。

 そのうえ、普通では亡くなる恐れがあった負傷将兵が高い医療技術を誇る病院から無事退院して故郷に戻ってくる等の実力を目の当たりにしたのだ。


 傷が癒えて故郷に戻って来たヤマト帝国の負傷兵がもたらしたものは、俺の直轄領地における国の経済の根幹である農業の生産性の著しい向上や、もう一つの経済的な支柱である漁業が

『獲る漁業から育てる漁業』

へと変化していったという噂なのだ。

 それらはインドラ連合国の高い技術力と工業力によるものであり、ヤマト帝国の経済を徐々に圧迫していくほどのものとなっていったのだった。

 その恩智を受けようとヤマト帝国に従属する各国や地方領主ばかりでなく、その他各国が雪崩をうつようにして次々とインドラ連合国に参入を希望したのだった。

 今回のヤマト帝国の敗戦は、ヤマト帝国に対するインドラ連合国の包囲網という形で現れ、その包囲網が着々と完成しつつあったのだ。


 ヤマト帝国内においても、問題が発生した。

 長い間行方不明だった、ヤマト帝国の正当な後継者のみが所持することが出来る守り刀の「ライジン」を持った俺が現れたことが、公に話されるようになったことだ。

 噂話として時々あがっていたが、皇后派によってその噂話は揉み消されていたのだ。

 その俺が雷神「ライジン」を持ってアンリケ公国のアリサ公爵令嬢をヤマト帝国帝王城から救出して、アンリケ公国に迫った危機まで回避して見せた手並みも、ヤマト帝国内に住む帝国雀によって噂が広がったのだ。

 噂の内容かなり正確で、

 ヤマト帝国が敗戦で多額の賠償金を支払わされたこと。

 泥鰌髭の公爵が亡くなり領地のテン・ムスタッチが割譲されたこと。

 ヤマト帝国の御継様だった俺が、敵国のインドラ連合国の初代大統領として現れた。

というものまであるのだ。


 現実に俺を目の当たりにしたヤマト帝国の重臣が多いため、如何な皇后でも

『人の口に戸は立てられぬ。』

である。

 こうなっては、敵対か、それとも再度御継様としての名誉を回復して地位を与え友好関係を築くか、少数意見であるが問題のある豚皇太子を廃嫡して俺を皇太子にするか等と、ヤマト帝国内において意見が分かれて紛糾していったのだった。


 ヤマト帝国内においては、現在もなお、俺と敵対する皇后派が多数派を占めているのだ。

『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』

ではないが皇后は、俺がヤマト帝国の後継者第一位であり、エルフ族の母親・・・(当時は亜人種として格下に見ていた。)との間に出来た子として馬鹿にしていた。

 しかし俺が産まれた当時は、皇帝から一番寵愛を受けていたのが俺の母親だったのだ。

 俺がそのエルフ族の女性から生まれてきたことが憎しみをさらに増したていたのだ。

 その憎しみを隠して、豚皇太子が産まれる前までは皇后の二人の娘を俺に嫁がせて傀儡政権にしようとしていた。・・・皇帝の継承権は男性のみだからだ。


 皇后は二人の娘と俺とを何度か遊ばせようと連れて来た。

 生前の意識がある俺は乳臭い二人の娘よりも、美貌でグラマラスな皇后の方が好みだった。・・・それに俺の母親は美貌では皇后に勝るとも劣らないのだが、体の方が皇后に比べると貧乳というか・・・残念だ!

 俺を嫌っていたはずの皇后が一度、俺を抱き上げて巨乳の乳を与えてくれたことがある・・・その聖母のような優しい微笑みが忘れられないので憎み切れてはいないのだ。当然乳臭い二人の娘もそうなのだ。


 意見の紛糾するヤマト帝国内において、何人かいる宰相達の多数も皇后派であった。

 俺と対立する事に反対して、皇后派の意見とことごとく対立しているのはヤマト帝国の今回敗戦処理に参加した第二宰相と内務大臣達だった。

 特に彼らは素行に問題のある豚皇太子を廃嫡したがっていた。


 その理由としてあげられるのは、豚皇太子が女官や城下街の若い女性を攫っては嬲り者にして帝王や皇后から注意を受けていた。

 そのうえ事もあろうに、豚皇太子の実の妹であるカサンドラ王女に襲い掛かったのだ。

 カサンドラ王女は、俺がヤマト帝国から追い出された後に皇后が産んだ三女で、三姉妹の中でも特に美人で才媛の誉れも高いのだ。・・・確かカサンドラ王女については俺がアリサ公爵令嬢を救出する際、皇后の陰にいた子だと思う。


 カサンドラ王女は持ち前の気丈さで、守り刀を抜いて抵抗した。

 押し倒されたはずみで、守り刀が豚皇太子の右目に刺さり難を逃れたのだった。

 右目を刺されて瀕死の重傷を負った豚皇太子は、丁度その頃ヤマト帝国に滞在していた魔王の治療により、禍々しい気を放つ真黒な魔石を右目に埋められて生まれ変わってきたのだった。・・・俺もアリサ公爵令嬢を救出時に偶然にも、醜く蘇った豚皇太子のその姿を見たのだ。


 その事件で豚皇太子の廃嫡の議論が王城内に沸き起ったが、生みの親である皇后が泣いてヤマト帝国の帝王に詫びを入れたのだった。・・・ことが公になれば豚皇太子ばかりではなくカサンドラ王女にも飛び火してヤマト帝国の後継者が不在になる可能性があったのだ。

 そうなれば俺を嫌でも王太子の身分に戻さなければならなくなるからだ。

 豚皇太子は右目を刺されて瀕死の状態であり、またこの醜聞が他国にしれると国際紛争の火種になりかねないので、いつの間にか豚皇太子の問題は棚上げされていたのだった。・・・⁉

 しかしながら、俺がアリサ公爵令嬢を救出した際、偶然に豚皇太子を見かけた時は、死体を笑いながら切り刻んでいたぞ・・・⁉なぜ廃嫡しない⁉

 その後豚皇太子の性格は以前より輪をかけて最悪下劣となり、皇后派のなかからも第二宰相と内務大臣派に鞍替えする人が増えてきている状況であった。

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