第76話 ゾンビ騒動

 オーマン国からの帰国ルートの選択に当たって、隣国サンドウルフ国経由では、気まぐれに高い通行税を取ったり、国境を閉鎖するようでは安全に安心して通行が出来ない。

 またヒアリ国経由の砂漠地帯のルートは保秘の関係から封鎖したい、無理にこのルートを抜ける者については、森の中の砦で阻止すれば良いのだけだ。

 もしヒアリ国ルートで広大な砂漠地帯を通る道路を造くりながら帰国したとしても、その道路は砂嵐で砂の海に沈んでしまい、維持や管理費にも金がかかることになる。

 そこで目を付けたのが、オーマン国から深い緑の森を通ってプロバイダル王国へむかう直接陸路をつくりながら帰国するルートにした。

 その深い緑の森を通る経路は、距離が短く比較的短時間で目的地まで行けるうえに、ヒアリ国のような砂嵐に等襲われないなど安全である。

 この陸路を造った方が、ほとんどの旅人や商人等はその安全な通路を通ってくれることからヒアリ国の秘密が守られるはずなだ!

 問題はプロバイダル王国とオーマン国の間にある魔の森と同様に緑に包まれた深い森が存在することだ。

 この森を抜けるという事は魔獣や魔獣植物が襲い掛かかられる危険性が考えられる。

 しかし、真正カンザク王国やプロバイダル王国で道路を造った際の経験から、道路以外の場所に出入りしなければ安全なはずだ。

 もう一つの問題点は、その深い緑の森の土壌が硬い岩盤であり、道路を造ろうとしても通常では、その硬い岩盤に阻まれて何年も何十年もかかってしまうのだが、この世界は魔法を使える世界、俺や俺の妻達の魔法にかかれば豆腐を切るよりも容易に硬い岩盤を切り裂き道路を造る事が出来る!

 まあ一番のルートを選択する際に思った事は、来た時と同じルートを使って帰国するのは芸の無い事だと思い至った‼

 新たなルート開拓も兼ねて、この深い森の中に道路を造りながら帰る事にした。

 金ばかり溜まったオーマン国の王城内の大迷宮という名のダンジョンでは俺の妻達や子供達もそれなりに・・・(この世界の魔獣の頂点の龍を倒すほどに)レベルも上がっている。

 色んな魔法で硬い岩盤を切り裂いていけば魔法の練習にもなり、レベルの上がった妻達の力も借りれば問題はないはず。

 それに最近では魔獣植物も俺に道を譲るので、石畳の舗装路を造りながら帰る事は容易だと思った。

 帰国のルートを深い森の中と決めた時に問題が発生していることを豪商から聞きつけた。・・・以前豪商からトラブルメーカーのように言われたが、俺はトラブルメーカーではない!

 行こうとする所にトラブルがあるのだ‼・・・あまり説得力は無いか!

 そのトラブルとは、ルート上の深い森の中でゾンビが発生したという。

 その原因が、オーマン国におけるシャーマニズムなのだ。

 この国の宗教であるシャーマニズムは、シャーマンの巫術ふじゅつによる治療や、シャーマンの黒魔術師により葬儀の際に、死者をゾンビにして蘇らせ、死者の言葉を聞くという儀式がある。

 ルート上の深い緑の森の中にゾンビがそれも大量に発生してしまった。

 ゾンビ退治は俺達が行うにしても、それはゾンビに対する対処方法であって根幹の部分、宗教としてのシャーマニズムの問題解決はなされていない。

 このオーマン国における、生活の中で宗教として根付いたシャーマニズムには怪しげな巫術による治療が多い。

 その巫術による治療は聖魔法の逆、黒魔法のため、

『毒は毒をもって制する。』

という解毒法を行い。

 その分野においては成功例が多い。

 対毒物であれば、巫術による治療が可能だろうが、前世の戦国時代のように小便で傷口を洗ったり、泥を傷口に塗りたくるのは感染症の問題があると思うのだ。

 何はともあれオーマン国の国王となった白神虎と女王になる予定のヨウコさんも士官大学校の医学部課程の卒業証書をもらっているので、医師の資格も持っているのだ。

 二人は退化したエルフ族の治療のために、宇宙エルフ族の医師から高度な医療技術を直接学んでおり、また退化した原因である毒苔の研究からウイルスなどの細菌学も宇宙エルフ族の医師から学んでいる。

 オーマン国の王都の裏門付近に王立の病院も建てた。

 これで危険な民間療法よりも高度な医療を身につけた白神虎国王とヨウコさんに治療を王国民は受けることができる。

 これによってシャーマニズムによる治療を受ける者は少なくなると思う。

 病院については、オーマン国王都内には余った土地がなく、そのえ狭い土地に5万にもの人がうごめき合う状態のため王都の郊外で王城裏門に接するように建築された。

 現状は、王都裏門側に建てたためか病院にはあまり人が集まらない。

 その原因が未だシャーマニズムが横行しているためなのだろう?

 今のところオーマン国民には病院の治療費等は国が持つと言っているのだが、先程も述べた生活の中に宗教としてシャーマニズムを信じている為か、巫術により治療をしてもらっている者が多く、死者の葬儀のような宗教的な分野においても、黒魔術師により死者を蘇らせるゾンビを行い、死者の言霊を聞こうとする者が多い。

 それは、葬儀の際シャーマニズムによって、亡き人を偲んで、一言生前の言葉を聞きたいと死者を蘇らせてしまうのだ。

 ゾンビとなって蘇った死者も少しは生前の知識、知能が残っている為に生前の言葉として語られるのだ。

 シャーマニズムで死者を蘇らせても、生前の魂が無い体では、魂を持った生者に恨みを持つたゾンビへとなって、放っておくと生者を喰らい始めるのだ。

 その前にシャーマニズムでは術を解いてゾンビを土に返すのだが、ゾンビの方が力が強くて術者を倒して喰らってしまう奴が出てくる。

 ゾンビが術者を喰らうと、術者の力も喰らってしまい更に生前よりも力が強くなるのだ。

 そしてもっと最悪なのは食べられた術者もゾンビになる事だ。

 そのシャーマニズムの死者蘇生の失敗で、オーマン国の王都付近の深い緑の森の中にはゾンビが横行しているのだ。

 今後、宗教的な葬儀の際に死者の言霊を聞くという、死者をゾンビで蘇らせる行為は止めさせなければならない。・・・代替え案としては世界樹教なのだが・・・

 それよりも今は、オーマン国の王都の住人の中にも生活の為に、狩猟や薪を拾おうと森に入った者までもが多数犠牲になっている。

 深い緑の森のゾンビが生者を喰らい、喰らわれた者もまたゾンビになり数を増やしているのだ。

 ゾンビの大量発生という悪循環に陥り始めているのが現状なのだ。

 そのゾンビを放置すればオーマン国一国がゾンビで喰らい尽くされて、ゾンビ国家となり、そのうちゾンビも腐り果ててオーマン国もまたヒアリ国と同様に無人の国家が誕生してしまうことになるのだ。

 プロバイダル王国へこの森を切り開きながら帰国を考えていたので、このゾンビの横行は邪魔でしかない。

 それに今後の旅人や商人の旅だけでなく、運輸関係にあっても、ゾンビが徘徊すのは安全面においても非常によろしくない。

 俺はそのようなことになるのを防ぐために、新国王の白神虎や俺の妻達等を連れて森の中のゾンビを退治する事にしたのだ。・・・白神虎は王としての実力を示す試金石として参加しているのだ。

 亜人国家では「力が正義」であり全てなのだ。

 俺としては、プロバイダル王国への帰国の際に、この森を通り抜けた方が早く着けるうえ、ヒアリ国の保秘やオーマン国との今後の流通の安全のためにもゾンビを退治する事にした。

 森の中に少し分け入っただけで、腐臭を放ちながら腐り崩れた皮膚の間からボロボロと体内に沸いたウジをこぼしながら彷徨さまよっているゾンビの群れを発見した。

 俺や俺の妻達、そして聖魔法を使える者がこの森に入っている。

 ゾンビ退治は火魔法で殲滅せんめつする方法があるが、魔の森と同様に魔獣や魔獣植物が大量にいる、この森では火魔法を使って魔獣植物に下手に火が飛び移って焼くと、怒った魔獣や魔獣植物が大量に集まりオーマン国の王都まで壊滅させられるかもしれない!

 これでは本末転倒である。

 それで、聖魔法を使える者が森に入ったのだ。

 俺や妻達が、それぞれ聖魔法を放つてゾンビを退治するのだが、聖魔法の使い方が個性的なのだ。

 俺は遠いゾンビには戦略的な聖魔法の大きな塊をぶつけ、近寄ってくるゾンビには聖魔法を纏わり付かせた守り刀の雷神で切り裂いていく。

 セイラやセレスは近づくゾンビには聖魔法をドーム状に広げてゾンビを倒していき、あまりにも遠いゾンビには弓矢の矢に聖魔法を纏わり付かせて倒していく。

 モンは青龍偃月刀に、白愛虎は雷女神の長刀に聖魔法を纏わり付かせて、その長刀を振り回して近づいてきたゾンビを倒し、遠いゾンビにはその長刀の刃先から聖魔法ので創った刃を飛ばして倒すのだ。

 新しく配下になった山賊の親分のジャックは聖魔法を纏わり付かせたトマホークで近づくゾンビを倒し、遠くにいるゾンビはそのトマホークを投げて倒している。

 また新しく配下になったキャサリンやシンディは刀に聖魔法を纏わり付かせて近寄ってきたゾンビを倒しているが、まだ放出系は出来ないようだ。

 遠くにいるゾンビを聖魔法を色々な形で飛ばして倒したり、広範囲に聖魔法のドームを広げて倒すことは魔力量の関係と魔法の質らしい。

 豪商の双子の兄妹も聖魔法が使えるからと言って無理を言ってついて来たのだ。

 双子の兄妹は自分の体を守る程度の聖魔法のドームを創り出すことが出来るが、余り広げる事が出来ないようだ。

 問題は、その護衛だと言ってついて来た義理の兄の番頭のセバスも傭兵も聖魔法を使うことが出来ないうえに火魔法等の攻撃魔法を禁止しているので、途中で這う這うの体で逃げ出したのだ。

『命からがら』

とは、このようなことを言うのだろう。 

 ゾンビは聖魔法で倒されると光の輪を出して死体は崩れ去り土に変える。

 ゾンビには仮の魂が宿っているだけなので、仮の魂の光の輪が出るだけだ。

 妻達のレベルがオーマン国王城の地下ダンジョン攻略のおかげで上がっているので、ゾンビ退治は順調に進んでいった。

 魔力切れで疲れたら聖魔法のドームの中に俺が魔法の袋に入っていた医療ポットが何台もあるので、その中で休んで魔力量を回復することができる。

 白熊の亜人族がゾンビ化した族長のおかげで・・・(おかげ等と言っているが、ゾンビになった白熊の亜人族の氏族、本家どころか支族にあっても堪ったものではないのだ!)オーマン国のほとんどの白熊がゾンビになってしまったのだ。・・・絶滅危惧種だな‼

 俺のステータス画面の地図表示で、あと残るのは術者を喰らったゾンビと、そのゾンビを創って自らもゾンビになった術者だけになった。

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