第70話 オーマン国の重鎮会議

 ヒアリ国が滅亡して俺が統治しているという実情を知っているウサギの国王はキツネの宰相夫婦の反乱で亡くなってしまったのだ。

 俺が現時点で実効支配しているヒアリ国であるから、公の場でヒアリ国の国王を兼ねると宣言して俺の国にしても良いのだが・・・⁉

 色々と問題があるのだ。

 ヒアリ国は元々オーマン国と同様に誕生時から亜人国家であったが、過酷な環境でも生きていけるトカゲの亜人種が代々この国を統治するようになったのだ。

 そこから生まれたのが、ヒアリ国が歴代亜人国家であり亜人種を国王とするという不文律だ。

 不文律だからと言って反故にするわけにはいかない、他国からそれをネタに攻め込まれる可能性があるのだ。

 ヒアリ国は辺境の砂漠の国家とはいえ広い領土が広がっているのだ。

 攻めるのは王城のみという一点突破で国が乗っ取られてしまうのだ。

 俺は亜人種かというと、俺の父方の始祖が虎王という虎の亜人種であり、俺の母親はエルフ族であった。

 俺も一応先祖をたどると虎王に行きつぐが、見た目は人類、それも巨人族の大男なのだ。・・・巨人族も神話の世界では、地に落ちた神の一人だそうだ。

 亜人族かどうかは、尻尾が無いと亜人族とは認められないのだ。

 残念かどうかは分からないが俺には尻尾が無いのだ。

 亜人と言っても俺の母親のようなエルフ族やドワーフ族は宇宙エルフ族を祖先とするものと、魔獣を祖先とする亜人、例えばウサギの国王等とがいるのだ。

 ちなみにこの世界の人類は宇宙エルフ族と魔獣を先祖とする亜人の混血種と言われているのだ。

 亜人と一括りにしているが種の始まり自体が違うのだ、これでは人種差別的な意識がどうしても起きてしまうのだ。

 力が正義だと言っている魔獣を祖先とする亜人種等は殴り倒して従えても良いのだが、あまり暴力に訴えないで平和裏に解決させたいものだ。・・・しかし、ヒアリ国は殴り倒す相手もいないのだ⁉

 ライオンの近衛隊長が豪商宅に戻ってきて

「王城内に残っていたキツネの宰相の残党の掃討戦が終了した。

 打ち漏らした残党が王城の地下にある大迷宮に立て籠もったので、大迷宮の入り口に部隊を配置した。」

と豪商に告げ、さらに

「オーマン国の後継者問題を王城で話し合いたい。

 オーマン国の重鎮達が待っている。」

というのだ。

 豪商とライオンの近衛隊長に勧められるままに、俺は白愛虎の寝ている医療ポットを風魔法で浮かせ、ルウを連れて王城の謁見の間という大広間に着いたのだ。

 謁見の間に白愛虎の寝る医療ポットを置いて周りを見渡す。

 空位の玉座が寒々しく中央に位置している、その左右にオーマン国の重鎮達が立ち並ぶ。

 重鎮達の多くは種族を代表する杖をついた亜人族の長老達で、その後ろには次代の後継者や長老を補佐する者が立っているのだ。

 人族の豪商と俺は末席についた。

 早速次代を担う後継者の若者達から俺に

「オーマン国と関係が無い者がいる。

 重鎮会議には出席が出来ない、ここにいたいなら我と戦え。」

等と次々と挑戦の言葉が発せられた。

 彼等としても反乱の中心的存在だった熊族の守備隊を討伐した俺を無碍むげには出来ないので、挑戦して排除しようとしたのだ。

 力こそが正義であり、排除できれば長老の誰かが王となる事も出来ると思ったことからの挑戦でもあるのだ。

 挑戦者には痛い目に遭ってもらおう、

「まとめてかかってこい!」

というと、俺の周りを何種類もの若い亜人種が取り囲む、俺がキツネの宰相の反乱の際に、熊の守備隊員を守り刀の雷神で一掃したのを知らないのか?

 守り刀の力を開放する。

 俺の周りを自信満々で取り囲んでいた若い亜人種達の体からブスブスと煙をあげている。

 俺の持っている雷神は白虎の持っている姉弟刀だ、それを見て慌てて重鎮達が膝をついて俺に詫びるのだった。

 これで俺もオーマン国の重鎮会議に出席することが出来る。

 議題はオーマン国の後継者問題と隣国のヒアリ国の後継者問題だ。 

 オーマン国とヒアリ国が友好国で亜人国家なので、オーマン国の重鎮達はヒアリ国の統治者が亜人とは言えない俺だから、オーマン国の重鎮達の誰かを代表として選んで統治したがっているのだ。

 しかし肝心要のオーマン国自体にも後継者問題が解決していないのだ!

 オーマン国の前王のウサギの国王はキツネの宰相の妻によって殺され、先王の女王白虎もまた、キツネの宰相夫婦に奴隷の首輪で操られて俺と争い、自分の娘、白愛虎を切り捨てた事から自我を取り戻して、奴隷の首輪に抗ってに切られてしまったのだ。

 これでオーマン国の血筋としての後継者は、前ウサギの国王の忘れ形見のルウと、先王の王女白虎の産んだ白愛虎と白神虎に絞られたのだ。

 白愛虎も白虎に切られて瀕死の重傷を負ったが、白虎が俺に切られて、最後の力を振り絞って傷ついた白愛虎と融合したのだ。

 今は白愛虎が生き延びて、医療ポットで激しく失った血液と体力を補充しているところなのだ。

 空位となったオーマン国において、血筋から先の白虎王女の忘れ形見である、俺の近衛騎士見習いの白神虎と白愛虎の二人の姉弟。

 そして前ウサギの国王の忘れ形見である、俺の女官見習いのルウが後継者になることができるのだ。・・・ただ今回のウサギの国王の外交使節団の随行員が漏らしたように実力があれば亜人種であれば誰でもなることが出来るのだが、血筋の後継者がいるのに力が正義だ等と言って王位に就くことは厳に戒められているのだ。

 血筋の後継者が王位に就いて初めて、その者に対して戦いを挑み勝利すればよいのだ。

 その戦いの場は前世のコロシアムのような闘技場で国民が見守る中で、闘いが行われるのだ。

 王自らが戦っても良いし、代理人を立てても良いのだ。

 血筋の後継者がいない場合は、一旦ウサギの国王のように宰相等当事の最高権力者が国王になるのだ。

 争いごとが得意ではないウサギの国王は代理人としてライオンの近衛隊長を指名していたのだ。

 それでオーマン国内には彼以上の力の持ち主はいなかったので、挑戦者は現れなかったのだ。

 キツネの宰相夫婦に操られていたように見えていた大熊の守備隊長も

「王となったキツネの宰相夫婦の寝首を掻いて、俺が王となってやる。」

等と寝物語にキツネの宰相夫婦から与えられていた妾に語っていたのだった。

 これだけ情報が漏れていれば、寝首を搔かれるのは大熊の守備隊長の方だったのだが。

 力が正義だという実力主義や血筋的に考えると白愛虎か白神虎がオーマン国の国王になるのが妥当である。

 ただ、人気を考えると気安く人当たりの良いウサギの国王に軍配が上がり、一人娘のルウに王位を与えるのも良い考えだとも思うのだ。

 ルウに瑕疵かしがあるとすれば、亜人狩りにあっているということだ。

 亜人狩り後の事を考えれば、当然良くて奴隷、悪く考えれば性奴隷としてもてあそばれていたと考える者が出てくるだろう。

 それらの者はルウがオーマン国の女王になること事態に嫌悪感を感じ、懐疑的かいぎてきな意見が出てくるだろう。・・・奴隷と言えば白愛虎もそうである。

 さらに言えば白虎等優秀な女王が統治した時もあったが、亜人国家はどちらかと言うと男系を重んじる男尊女卑の考えが根底にあるので白神虎にするか等と思案に沈んでいたのだ。

 そんなことを考えているうちに、先王の白虎と融合した白愛虎が医療ポットで失われた血液や体調を回復したのか医療ポットの蓋が開き、その中から白愛虎が出てきて皆の見守る前に立つと

「我は、先王の白虎の魂を引き継ぐ者。

 このオーマン国の王を私の弟の白神虎とする。

 オーマン国で王を継ぐことが出来るルウを空位となった我が国と同じ亜人国家だったヒアリ国の女王とする。

 そして我、白愛虎はオーマン国とヒアリ国の全権大使として真正カンザク王国に赴任する。」

というものだった。・・・ヒアリ国は現状は俺の支配下の地だが、亡くなったオーマン国のウサギの国王とのその場での協議の結果であった。

 しかしこの信託の通り、ヒアリ国も亜人国家で不文律として王は亜人でなければならない。

 俺の女官見習いで魔獣を祖先とするウサギの国王の娘のルウが国王の地位に就いてもらった方が良いのだ。・・・俺としても一つの可能性として考えていたのだ。

 白愛虎の口を借りて、先王の白虎の御神託が下りたのだ。

 オーマン国の王城の謁見の間で開けれていた重鎮会議に出席していた重鎮達や近衛の隊長のライオン達も、その後神託を聞いて白愛虎やルウに臣下の礼を取って頷いているのだった。

 俺はその後神託を聞くと直ちに、世界樹の元に建設された白神虎が働く病院に転移したのだ。・・・残された豪商と重鎮達、ライオンの親衛隊隊長は伝言魔獣の他に転移できる者を見て腰が抜けるほど驚いていた。

 豪商は俺が転移魔法を使えるのは叔父の奴隷商から聞いているので知ってはいるのだが、目の前で人が消えるのは精神衛生上も良くは無いようだ。

 重鎮達やライオンの近衛隊長は俺が転移魔法を使えることを全く知らなかったので、俺の消えたあたりを、その後も行ったり来たりして調べていたのだ。

 確かに白虎が融合した白愛虎が提案した案が最上と思われるが、当事者の白神虎の意見は聞くべきだと思うのだ。

 俺の転移先のその病院では白神虎が、宇宙エルフ族の医師の指導のもとに、未だ北カンザク地方の退化しているエルフ族の治療に当たっているところだった。

 そう言えば、この病院の毒苔対応の簡易型医療ポットをプロバイダル王国の国内の怪我人の対応の簡易型医療ポットに改造して持ち出しているので、病院内の簡易型医療ポットの数が一時的に減ってしまっていたのだ。

 それを、クリフさんやクリスティーナのアンドロイドによって簡易型医療ポットを計画的に量産し続けているので、今ではかなりの数の簡易型医療ポットが世界樹の元にある病院に収められているのだ。

 転移したついでと言っては何だが、今回のキツネの宰相の妻の反乱でオーマン国の王都内にも怪我人が多数出ているのだ。

 医療ポットは俺の魔法の袋に入れてあるので、今頃は聖魔法を使える妻達は天手古舞の状態だろう。

 その罪滅ぼしもあって、この簡易型医療ポットをある程度、魔法の袋に入れてオーマン国に持って行く事にしたのだ。・・・妻達の幻の角が見える!

 俺は病院の一室を借り受けて、今回きた最大の課題であるオーマン国の後継者問題を白神虎と話し合うことにしたのだった。

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