第49話 プロバイダル王国北の領地へ

 巡検士制度、前世でいう諜報機関に応募した悪党の中の悪党は3人のみで、悪行の数々が明らかにされて、その首は高いところに飾られることになった。

 詭弁きべんかもしれないが、優遇するとは言ったが罪に問わないとは言っていない・・・。自分で言ってはなんだが詭弁だな。

 それでも、この悪党たちは強盗殺人や強姦殺人を数えきれない位犯罪を犯しており、更生する気持ちもないうえに、巡検士の地位を逆手に取って悪事を働くつもりでいたのだ。


 巡検士部隊の体制が整ったことから、プロバイダル王国の地方領主百名のうち過酷な税を課していた地方領主67名の実態調査をおこない、それに相応した処分を下すことにした。

 その67名の領主の領地に巡検士部隊を派遣する。

 応募で集めたばかりの巡検士部隊員は、ヒアリ国の士官大学校内に巡検士課程を設けてジャックやキャサリンに鍛えられている。


 昔からの俺の配下の巡検士隊の隊長のベックさんと副長のサコンさんとヤシキさん、ジロウさんの4人を班長にして、6人の忍者の他に、真正カンザク王国軍の山岳警備隊員の中から6名を選んで、4人4組でプロバイダル王国内の実態調査を実施してもらう事にした。

 巡検士としてすぐ使える人材を集めてみたのだ。

 真正カンザク王国の山岳警備隊員は全員、巡検士のレベルに達しているが、対ヤマト帝国の観測部隊員として、すぐ巡検士として他国等に潜入させられないのが現実なのだ。


 ベックさんは後輩の育成のため、汚水三人組改め湖畔の館の三羽烏にも巡検士隊の手伝いをさせたいと俺に願い出てきた。

 三羽烏は、まだ13歳なのでベックさんには無理をさせないように、三羽烏には無理をしないようにと言って巡検士見習いに任用した。


 それを聞いた同い年の女官見習いのシズルが俺に、女性巡検士隊を作り私も女性巡検士見習いになりたいと直訴してきた。

 その意見を採用して、真正カンザク王国近衛女性部隊隊長のサエコさんを巡検士部隊分隊長に任命して、カナコさんとヨウコさんに女性巡剣士隊員になってもらった。

 女性巡検隊の創設を進言してきたシズルを見習いにつけた。

 男性の巡検士部隊に配属されていた忍者の1人シャム双生児の片割れ赤影が『くノ一』なので女性巡検士部隊にに入ってもらい、忍者が一人抜けた分、カンザク王国軍の山岳警備隊員の中から1名補充した。

 この5組の巡検士部隊でプロバイダル王国内の実態調査を行い始めた。


 地方領主が過酷な税を課して領民を苦しめ、重税にあえぐ農民に対して税を支払えないからと言って、農奴や性奴隷として奴隷商に売り払い私腹を肥やしていることが判明すれば領主の地位を剥奪し、私財を没収したうえ領主の領地は王国の直轄領となるのだ。

 実態が解明されていく、プロバイダル王国女王セレスの名のもとに4公6民の税率を全領主に対しては文章で通達し、全国民に対しては辻々の高札と弁士によって周知徹底させた。


 4公6民の税率を地方領主67名は当初は守ると言っておきながら実際は守っていなかった。

 67名の地方領主の領地は荒廃し農民は逃散して山賊や盗賊になった者が多い。

 そのような、山賊や盗賊の中でも特に男一人と女二人の山賊の頭や反乱軍の頭が義侠に篤く住民に慕われているという噂が入ってきた。


 プロバイダル王国の北側とその中央および南側の地域の中心的な役割を果たす有力地方領主の支配領において、三人の山賊の頭や反乱軍の頭がいるという噂である。

 その三か所の有力地方領主の領内に、まず巡検士部隊を派遣した。

 巡検士部隊長のベックさんから概要の一報が入ってくる。


 その内容は

『北側の山賊の頭が領主の娘でトモエという名前である。

 山賊に入った理由は父親の領主が領民に対してあまりにも酷い税率をかけている。

 トモエの友人の親がその高額な税金を支払えないことから、父親が友人を性奴隷として奴隷商に売り払おうとした。

 領主の館に項垂れていた友人を見つけたトモエは、奴隷商と友人の金額について話し合っていた父親に

「高額な税をかけて領民を苦しめ、支払えないからと言って奴隷や性奴隷にするのは止めて下さい。」

と詰め寄ったが、領主の父親は聞き入れることなく、領主の父親は領主の地位を表す佩剣を抜いて娘に切りかかったのだ。

 領主の娘は、切りかかってくる領主の佩剣を女の身ながら武道に勤しんでいたトモエが奪い取って、父親に怪我を負わせてしまったので、二人で逐電ちくでんして山賊になったものだった。


 南側の山賊の頭は領主の家宰で、酷く高い税率と税金を支払えない領民を農奴や性奴隷として奴隷商に売り払っていたことから、領主に諫言した。

 領主は諫言されたことに激高して、

「領主の命に背く、謀反人め!成敗してくれる!」

等と言って、北の領主と同様に佩剣を抜いて切りかかってきた。

 家宰もまた内政官としての実力だけでなく、武道においても実力が有名であり、切りかかってきた領主の佩剣を奪い取って領主を害してしまったので、領地内の峻険で守るに固い山に砦をつくって立て籠ったのだ。

 家宰は人物も温厚のため彼を慕って山賊にまで落ちぶれた逃散した農民達が集まり、その砦に立て籠もっているのだ。


 中央の反乱軍の頭は豪農の娘であった。

 豪農の娘の父親が、領主の館に赴き、領主に対して高額な税金政策に反対したのだ。

 その父親を領主は、謀反人として斬首の刑に処したのだ。

 その知らせを聞いた豪農の娘は領主に反旗を翻して、領主を殺害して領土を統治している。』

というものだった。


 プロバイダル王国のセレスの戴冠式まで1年間の猶予があるがこの間に、国内の農民の逃散や山賊問題等、治安の安定と維持が喫緊の課題である。

 山賊が跋扈する国家は問題であるが、その状態を起こさせた側にも責任がある。

 基本的にプロバイダル王国が我が国真正カンザク王国に攻め込まなければこのような事は無かったのだが。・・・後の祭りだな⁉


 俺はまず、領民の支持を受けているプロバイダル王国の北と南の領地で領主に反旗を翻した山賊に興味を持ち巡検士部隊に調べさせていた。

 その調査結果として、領主が

「山賊を倒して全ての罪をなすり付けようとしている。」

との連絡が巡検士隊長のベックさんからもたらされたのだ。


 俺はプロバイダル王国の女王となったセレスとユリアナとセーラと火の鳥と融合したアカネと白愛虎を連れて、まず真正カンザク王国の近くにある女性の身ながら北側の山賊に身を投じたトモエなる者の状況を確認しに行くことにした。

 俺としては、新女王セレスに対しては自国の状況を確認させることと、新女王セレスが如何にプロバイダル王国民に親しみを持たれるかということも必要だと思っている。

 如何に親しみを持たれるかの答えの一つに、俺は、前世で行われた天皇、皇后両陛下の行幸啓にヒントを得たのだ!

 プロバイダル王国民に新女王セレスの顔見世をする事である。


 それで顔が良く見える馬車で移動することにした。

 セレスは馬車と聞いて

「馬で行きたい!」

と駄々をこねた。

 それはそうだ、馬車は地獄の乗り物といって世間では嫌われている。

 今までの馬車は荷車に毛が生えたような代物で、サスペンションも無ければ、車輪は木製で真円でもなければ、ゴムタイヤも使われていない。

 そのうえ椅子は板張り、振動が直接来る代物であるうえに、路面は舗装されていないため、乗り物酔いはするわ、体中が痛くなったりする本当に地獄のような乗り物なのだ。


 風魔法が使えれば空気椅子でそんな馬車に乗っていても、短い距離ならなんとかなるが、長距離になれば魔力切れの酔いになるか、それを我慢して乗り物酔いになるかいずれか一つだ。・・・セレスそんな悲し気なウルウルした目で俺を見るな!

仕方がない俺が何とかしてやろう!


 それでセレスの乗る馬車は、プロバイダル王国宰相の護送に使った真円のゴムタイヤの車輪と、サスペンションに板バネを付けた馬車を更に改良して乗り心地を向上させた。

 また馬車の中も、スプリングの利いたフカフカな座席に、リクライニング機能や足置きまで付けて居住性まであげてある。

 女王セレスの顔見世が出来るように窓はガラス張りで、天蓋が自由に動き、プロバイダル王国の紋章が入った立派な造りにしてあるのだ。


 いくら馬車を改造して領内を進むといっても、舗装されていない、あれた路面では地獄の乗り物に変わりはない!

 道路を整備しながら進むことにした。

 セレスには、人の居ないところでは馬に乗っても良いといっておいたが、石畳で路面が舗装してあるプロバイダル王城内を馬車に試乗してみると乗り心地が良いので、馬車から降りないで何時でも乗っている。


 俺と同行する事になっているユリアナとセーラの妻達も試乗すると、控えの馬車を俺に造らせて乗りこんで、のんびりと読書などしている。

 現実にプロバイダル王国内を進むときは俺だけでなく妻達にも土魔法で土木工事させるつもりなのだが・・・フッフッフ(悪い笑いがでた。)妻達に悟られないようにしよう!


 新女王セレスが視察の為の道路を造るためにプロバイダル王国国民、領民に賦役させることも考えたが、戦争直後であり農地の開拓開墾をさせている方が良いので賦役をさせることが出来ない。

 それが出来ないのであれば、俺や俺の妻達の土魔法で道路を造って行くことにしたのだ。・・・しばらくして妻達に楽をさせないわねと言って怒られた。ゴメン!


 新女王セレスが地方を視察のための移動をするのだ。

 当然その他にも100人程の護衛の近衛部隊員や20人程の女官部隊や20人程の文官等の随行員、その為の荷車や馬車、替え馬が移動することになったのだ。

 随行する護衛達まで土魔法の得意な者を集めているのだ・・・フッフッフ⁉


 馬車で進む事から、道路を最初から舗装路面で直線道路を造る事にした。

 この時代は道路は路面舗装の考え方はなく土と岩と泥で、馬車や荷車で移動することもあまり考えていなかったのだ。

 敵軍の進行速度を落とすため、ことさら荒れた路面で狭いうえに曲がりくねった道路を造っていたのだ。・・・荒れれば荒れる程敵軍の進行速度が衰えると整備などもされていないのだ。

 敵が進軍してくることを考えて等と言って小川や大河は丸木橋ぐらいしか架けていなかった。


 国民の利便性が阻害され、物流も発展しなかったことから、商業もあまり発展、発達していないのが現実、現状なのだ。

 そのうえ道路を造るには、どこにでも生えている魔獣植物が邪魔になってくる。

 魔獣植物を道路造りの邪魔だからといって、魔獣植物を傷付けると魔獣や魔獣植物が集まってきて襲われてしまい道路造りどころの話では無くなってしまうのだ。


 そのために俺は、魔の森、世界樹の周りのガーデニングに忙しい魔獣植物のアオイを連れて来たのだ。

 俺の肩に乗ったアオイが命じると魔獣植物が移動して、馬車が2台並んで走れるほどの両側に魔獣植物が生えた並木道が造られていくのだ。

 この並木道で魔獣植物がいない所には果樹を植えていく。

 これで道行く人々に木陰と果樹が潤いを与えてくれるはずだ。


 プロバイダル王国内の道路造りをして、所々で俺達が休息した場所に、休憩のできる東屋のある広場を造り、その広場には水飲み場やバーベキューなどの出来るかまどまで造ったのだ。

 特に水飲み場には、川の水を使うと水生魔獣動物が入り込んでしまうので、深い井戸を掘って水生魔獣動物が入り込み悪さをしないようにした。

 魔獣植物が移動して、岩や土と泥だらけの剥き出しになった並木道の路面を、今度は俺と妻達や随行員の土魔法を使って石畳の道路へと造り上げていくのだった。

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